成長が止まらないSmartHR 躍進を支える「データマネジメント」、そのマーケティングメソッドとは?あのユニコーン企業は何がすごいのか

競争が激しくなる一方のBtoB SaaS分野において、飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を続けているSmartHR。設立からわずか9年で、日本を代表するユニコーン企業へと成長を遂げた。進化し続けるSmartHRのエンジンとは何なのか? 積極的なマーケティング活動の裏側に迫る。

» 2022年03月29日 10時00分 公開
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 「所有から利用」の時代に移り変わり、いまや企業におけるSaaS導入はスタンダードになりつつある。当然、BtoB向けのSaaS市場競争は激化の一途をたどっており、どの分野においてもレッドオーシャン化が顕著だが、その中でも目立って躍進を続けるのがクラウド型人事労務ソフトウェア「SmartHR」を提供するSmartHRである。

 競争が激しくなる一方のBtoB SaaS事業において、同社がここまで優位性を落とすことなく、むしろ高いレベルでサービスを昇華し続けられるのはなぜか。そこには、マーケティング活動への惜しみない投資と、「データマネジメントの妙」があった。今、HRテック領域をけん引するユニコーン企業、SmartHRに飛躍の背景を聞いた。

photo SmartHRの森岡つきか氏。マーケティンググループで、主にナーチャリング施策を担う4ユニット(ナーチャリング エクスパンションユニット/ナーチャリング リード1ユニット/ナーチャリング リード2ユニット/セールスマーケティングユニット)のマネジャーを務める

拡大を続けるマーケティング活動の中で「もったいない」と感じたワケ

 SmartHRのローンチは2015年11月。同社のマーケティンググループでマネジャーを務める森岡つきか氏は、当初は「数十名規模のスタートアップ界隈、かつIT業界で利用が進めばという思いで事業を開始した」と話すが、予想以上のニーズをつかんで対象企業の規模、業種が拡大。ローンチからわずか2年後の17年には早々にTV CMを配信して、一気に知名度が全国区へ広がった。現在の登録社数は4万社以上。人事労務ツールのシェアを伸ばし続けている。

 19年7月には約61.5億円、21年6月には約156億円の大規模な資金調達を実施し、累計調達額は約238億円になるなど、順調に事業を拡大していった同社だが、リリースで公表している調達資金の主な用途の中には常に「マーケティング活動費に投じる」との一文が入っていた。首都圏で働くビジネスパーソンであれば、電車の中吊りや車内ビジョンで「SmartHR」の文字を目にする機会も多いだろうが、こういった積極的な広告活動のほかに同社が注力し続けてきたのが、人員増加を含むマーケティング組織開発だ。

SmartHRがいう「データマネジメント」って何?

 同社が取り入れているのは、いわゆる「The Model」型の組織体制である。これは、マーケティング、インサイドセールス、セールス、カスタマーサクセスごとに、リード獲得やナーチャリング、受注、継続利用といったミッションを持つ分業制の組織体制を指す。SmartHRでは、これら4つの組織を「グループ」と呼び、その中でさらに「ユニット」を設けて業務を細分化。19年時は、森岡氏がほぼ一人で担っていたというナーチャリング担当も今では10人まで拡大し、マーケティンググループだけでユニット数は12にのぼるという(22年2月現在)。

 “分業・共業”体制をとることで効率的に高い成果を目指す。そんなThe Model型の組織を、メンバーを拡充しながらうまく機能させてきたSmartHR。スピード感ある成長もうなずける話ではあるが、そこに至るまでには「課題も多かった」と、森岡氏はいう。

 「私は19年に入社し、マーケティンググループのナーチャリング担当として業務にあたっていたのですが、当時は日々『もったいないな』と感じていました。というのも、お客さまがSmartHRのコンテンツに触れてくださる度に残る情報や感情というものは、データとしてマーケティング担当が持っています。しかし、それをインサイドセールスなどの他グループが読み解けない、生かしてお客さまと会話ができていないという状況が続いていたためです」

 それは逆もしかりだ。森岡氏は、「自分は比較的セールスやカスタマーサクセスが持つデータを見る機会があった」というが、そうではないマーケティングメンバーには、SFAやCRMに蓄積された他グループが持つデータの意味や活用方法が伝わってないことも多かった。お互いが持っているデータを、お互いが理解し、みなが使えるようになれば、ビジネスはもっと加速する。そう考え、取り入れたのが「データマネジメント」という考え方である。

 SmartHRのマーケティンググループが定義するデータマネジメントとは、「マーケティング担当が知っている情報を他グループのメンバーが使えるようにして、逆に他グループのメンバーが知り得た情報をマーケティング活動に生かせるようにすること」。この循環を作るため、主に各グループのオペレーション部隊と対話を重ねながら、データマネジメントが機能する環境づくりがスタートした。

データがあっても、オペレーションの中で役立たなければ意味がない

 具体的に何をしたのか。まず前提として、従来のSmartHRでは「マーケティング活動で得た情報を、『セールスが知りたいのはこれだろう』という肌感だけで分配する」(森岡氏)ような状態だった。そのため、「グループが知りたいデータをためていく活動」と、「たまった膨大なデータを各グループのオペレーションに合わせて可視化する活動」の2軸で、データマネジメント設計に取り組んだという。前者は分かりやすい。しかし後者はどういうことだろうか。

 「例えばインサイドセールスなら、今から電話をするお客さまが直前に見たメールはどんな内容なのか、そしてそれは何月何日、何時のことなのか――といったことが気になるはずです。でもセールスが同じことを知りたいかというと、そうではないことが多いと思います。

 いくらデータがたくさんあっても、使う人のオペレーションの中で役立つような見え方になっていなければ意味がありません。各グループが、どういう情報なら見たいと思うのか、それをどんな形で渡せば理解して自身の仕事に生かせるのか? オペレーション部隊や実作業を行う人間にヒアリングをしながら設計を進めました」(森岡氏)

 最終的にデータを使う人間の視点に立ち、アウトプットはどうあるべきかを考える。そこが「少しでも抽象的だったり、進めていくと矛盾が出てしまったりすることがないよう、スタート前に“みなが同じ日本語で表現できる”までのすり合わせに苦労した」と、森岡氏は振り返る。

データマネジメントをMAツールで“設計”する

 データがたまり、どうアウトプットすべきか可視化できたあとは、「データマネジメントをシステマチックに実現する」作業に取りかかった。そこで同社が活用しているのが、MAツールであるアドビ「Adobe Marketo Engage」(以下、Marketo)だ。

 「普段Marketoをどうマーケティングに活用しているのかご説明すると、1つはメールマーケティングです。さまざまな属性のお客さまに対して届けたいコンテンツを考え、デリバリー(配信)するといった作業ですね。そしてもう1つがデータマネジメントです。マーケティングのあらゆるユニットのKPIを測定するためのデータ管理のほか、例えばお客さまが最後に触れたコンテンツはどういうものだったのか、そこからお客さまの状態はどういうフェーズにあると推測できるのかをデータで可視化する、といったこともMarketo上で実現しています」(森岡氏)

 先述した通り、19年時の同社は、データは既にMarketoで取れているのに、グループ間で生かせていない状態だった。それをデータマネジメントという考え方に合わせてMarketoの設計を見直すことで、ようやくグループ間のデータの分断を解消することができたという。

“やりたいこと”を満たせるMAツールは「Marketoだけ」

 もともと、同社がMarketoを使い始めたのは17年。それまでは他社ツールを利用していたというが、SmartHRの認知度が上がってくると同時に、リード管理が複雑化。「私は当時、在籍していなかったのですが、マーケティングが実現したいことをフルマックスで満たしてくれるのは『Marketoしかなかった』と聞いていますし、私自身、日々そう感じています」と森岡氏は話す。

 前職でもマーケターとして活躍していた森岡氏にとって、MAはなじみ深いツールの一つだ。しかし、「実行したい施策が複雑になったり、お客さまへのフォローが丁寧になったりするほど、細かいチューニングが必要になり、それが実現できるのはMarketoだけ」だと言い切る。

欲しいデータを欲しい形で収集 Marketoは他のツールと何が違う?

 森岡氏は、「ちょっとマニアックな話になるのですが」と前置きをした上で、Marketoの魅力を次のように説く。

photo Marketoのユーザーインタフェース

 「弊社で配信しているコンテンツは、そのほとんどの動線がWeb上にあり、その動線にMarketoを“かませて”います。例えば、資料請求やイベントのお申し込みフォームをMarketoで作成しているので、入力していただいた時点で『この方は、このコンテンツ(資料請求やイベント告知)に触れた』というデータがまず取れます。

 そうすると裏側で、『この資料の中身は、啓蒙的な内容である。ということは、この方が抱えている課題はこうではないか』といった推測結果が記録できます。もしくは、フォームに入力した日付が残るので、『最後に資料をダウンロードしたのは○日前。ということは、現時点でこの方のフェーズはここではないか』といった推測結果も記録できます。

 最終的には、それらの情報を社内の管理データに置き換えて可視化・共有(データマネジメント)しています。このように、管理したいさまざまな項目に合わせて、いろいろなロジックが走りババッとデータがたまっていく。この環境を実現できているのはMarketoのおかげです」

 しかし、MAツールはほかにもある。Marketoは何が違うのだろうか。そう問うと、森岡氏は「Marketoは細かいチューニングに非常に長けている」と話し、続ける。

 「お客さまの行動を起点として、続いてどんなアクションをとるかでシナリオを分岐し、フローを組んでデータを変更する施策を走らせる。MAツールの多くはこのタイプです。単純な例でいうと『男性or女性?』→『女性』、『都道府県は?』→『東京』といったパターンをいくつも作成するイメージです。その際、例えば最終的に10分岐になったとして、場合によっては8分岐目まではデータマネジメントの観点で見ると『分類しないでもよい』情報だったりすることもあります。

 Marketoであれば、設計次第で『フォームを入力した』ということを起点に、分類しなくてもいい項目は全部自動で埋めて、かつその先に細かい分岐を作り込むこともできます。一度にできることが非常に多く、しかも複雑なコントロールが可能なので、データマネジメントには非常に適していると感じますね」

 もちろん、その裏側では「泥臭い作業も必要」(森岡氏)だ。上での例でいうと、ただフォームに入力してもらっただけで、AIが自動的にユーザーの興味を解析・データとしてためていくわけではない。森岡氏は、「取得するデータには、お客さまが触れるコンテンツを作った担当者の思いとして、これを読んだらこういう気持ちになってくれるのではないか、という推測も多分に含まれています。ですので、弊社でいうデータマネジメントは『ツール頼り』で実現できるものではなく、データの定義をすり合わせるといったツール設計前の準備に時間をかけることも重要だと考えています」と話す。

 Marketoは、連携できるツールが多いことも魅力だ。APIのほかWebhookによる連携も可能なので、「エンジニアリングできないメンバーでも、ノーコードで連携を組めるので助かっている」(森岡氏)という。

Marketoで作り上げる、心地よい顧客とのコミュニケーション

 各グループで取得できるデータを、みなが理解し活用できるように整え、ためて共有し合う、Marketoを活用した同社のデータマネジメントは、グループ間の分断を解消できただけではなく、アップセルやクロスセルの提案にもつながっているという。「SmartHRは日々、機能を拡大しています。Marketoを通して、これまで気づけなかったお客さまの課題を可視化できるようになった今、新しい切り口のご提案によってお客さまの環境をよりよくできるのではないか。現在は、そんな考えのもと、新しいSmartHRの世界をまさに作り上げようとしているところです」。森岡氏はそう話し、笑顔を見せる。

 21年からは、ビジネスサイドだけではなく、全社的にデータを一つに集約させる、データウェアハウスの構築にも取り組んでいるというSmartHR。データマネジメントの世界にもう一歩深く踏み入れたような状態だといい、そのために新たに専任グループも設立。同社がアグレッシブに目指し続ける高みのてっぺんは、まだまだ見えない。

 「私がデータマネジメントで一番実現したいことは、『お客さまと関わる全てのコミュニケーションにおいて顧客体験を改善すること』なんです。The Model型の組織で働いている方には伝わると思うのですが、分業体制ゆえに『BtoBのマーケティングはここまで』という見えない壁ができて、お客さまから見たとき対応するグループごとにコミュニケーションが分断されていないだろうか、そんなもやもやを感じることがあります。

 The Model型組織の“点”を“線”でつなぐことで、一貫した顧客体験を目指したい――Marketoを使い、データマネジメントをブラッシュアップしていくことで、SmartHRを一つの人格のように感じていただける、そんな心地よいコミュニケーションを生み出していきたいですね」(森岡氏)

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提供:アドビ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年4月22日