地方銀行がフルクラウドのバンキングシステム内製化で実現する経営戦略――北國銀行×ゼンアーキテクツ対談

» 2022年07月29日 10時00分 公開
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 近年、パブリッククラウドで銀行の勘定系システムを稼働させる例が増えている。その先駆者である北國銀行は、北陸三県を中心に支店網を展開する地方銀行でありながら、2021年5月にオープン勘定系システム「BankVision」のMicrosoft Azure上での稼働を開始。フルクラウド環境による国内初(※)の事例として金字塔を打ち立てるのみならず、FinTechやキャッシュレスへの対応といった先進的な取り組みでも知られている。

(※)国内初、パブリッククラウドでのフルバンキングシステムが北國銀行で稼働開始(日本マイクロソフト)

 その“地銀の雄”が現在取り組んでいるのが法人向けインターネットバンキングの開発内製化だ。なぜ北國銀行がクラウド化や開発内製化にこだわるのか。同行でプロジェクトを推進するキーマンと、アドバイザリーとして支援に当たったゼンアーキテクツにその理由を聞いた。

北國銀行の内製化において開発チームをリードする北國銀行システム部門(写真=右3人)と、その支援に当たるゼンアーキテクツ(写真=左3人)

システム管理はプロの専門家に任せるという判断

 基幹システムのクラウド対応について、「安定稼働しているシステムをなぜオンプレミスからクラウドに移行するのか」「リスクはないのか」といった疑問を持つ人は少なからずいるだろう。このプロジェクトの中心メンバーの一人として検討に携わった北國銀行システム部システム部長兼開発グループ長の岩間正樹氏は、コスト削減の考えが最初にあり、次にセキュリティの観点から判断が行われたと説明する。

北國銀行システム部システム部長兼開発グループ長の岩間正樹氏

 「入り口からいえばコスト削減があります。オンプレミスではサーバを含め諸処の調達が必要です。スピードの話もあり、クラウドにすべきと判断しました。もう1つがセキュリティで、世の中でサイバー攻撃やウイルスが増えているなか、オンプレミスの境界型ネットワークで内部が守られているから大丈夫という考え方に対する疑問です。ゼロトラストの考え方がありますが、中のセキュリティ対策も含めしっかり専門家が見ているサービスがいいだろうということで、われわれでいえばMicrosoftの専門家がしっかりお守りをしているAzureを選んだのです」(岩間氏)

 同氏によれば、システムそのものはIaaS上で動いているため、まだまだ境界型ネットワークの要素が残っているというが、いずれは外部との接続性をよりシームレスな形に持っていきたいという。このような形で勘定系システムのパブリッククラウド対応が実現し、次なるステップとしてアプリケーション開発の内製化が始まっている。

 その1つが冒頭で触れた法人向けインターネットバンキングの開発内製化で、やはり背景としてはBankVisionのそれに近い。内製化において同社が重視したのは「SoE(System of Engagement)」という顧客が直接触るシステムである点で、利便性やスピードなど直接的な価値の提供の必要性を改めて認識した点にある。

 一般に、バンキングシステムは既製のパッケージであることが多く、経営戦略をより素早くシステムとして具現化しようと考えた場合、戦略変更にシステムが追い付けず、特に外部連携ではその問題が顕著になる。「自給自足がベター」というのが岩間氏の認識だ。一方でこの選択が難しいのも事実で、長きにわたる試行錯誤の末にたどり着いた結論だったと語る。

システム内製化に至る道

 なぜ内製化が必要だったのか。それは岩間氏が北國銀行に入社するより先の話にさかのぼる。BankVisionの前身となるシステムにおいて、保守やカスタマイズレベルの機能開発などは当時から内製で行われていたが、1990年にダウンサイジングの波が到来し、その後にアウトソーシングの流行がやってきた。

 当時の課題として、内製化を行うなかで機能が複雑化し、システム停止などのトラブルに見舞われることが増えていた。銀行の基幹システムであり、品質を重視しなければならないという命題のなか、システム開発の体制やプロセス、そしてスキル面の補強も兼ね、時流に合わせてアウトソーシングに移行した。

 しかしその結果、ノウハウは全てアウトソーシング先のベンダーに移行する形となり、自身はシステムに何も手を出せない銀行へとなりつつあったという。不幸中の幸いだったのは、開発要員そのものは残していたため、ベンダーに出向する形でノウハウを維持し、勘定系の内製開発の体制は辛うじて残すことができた点だ。

 そしてBankVisionへの切り替えがスタートした2015年1月、当時ベンダーに出向していた開発メンバーを銀行に戻す形で対応してもらうことになった。アウトソーシングではやりたいこともできず、ノウハウも残せないという知見を得た一方で、出向先で積んだ経験を基に新しいシステム開発の礎とすることができたわけだ。

 「アウトソーシングにおける課題は、委託先のベンダーとの綱引きがある点です。言った言わないの話や納期の話、こうした不毛な議論を挟むことで開発のスピードは落ち、しかもやりたいことができなくなる。本来アウトソーシングで期待していたものが得られない。こうした反省を経て現在の開発体制が出来上がりました」(岩間氏)

 とはいえ、内製化の道も容易ではない。北國銀行のトップは世の潮流からインターネットバンキングの導入が不可欠であり、しかも世の中で一般的なインターネットバンキングではなく、全面クラウド化による全く新しいインターネットバンキングを作るべきという考えがあった。こうしたアイデアを基に開発に協力してもらえるベンダーを探す行脚を行ったが、構想が壮大すぎて「作りきれない」というリスク要因で断られ続けたという。「後に内製化へ移行できること」という北國銀行の要望を踏まえてクラウド開発に強みを持つベンダーが手を挙げたものの、個人向けインターネットバンキング開発がスタートした2017年4月からの道のりは試行錯誤の連続だったという。

 「3カ月たってもそもそもの要件定義もできていない状況でした。当時のわれわれの開発はウオーターフォール型で進めていましたが、先方はイチからアジャイルで作るイメージを想定していたようです。プロジェクトの進め方や組織文化も合っておらず、そうしたなかで最初にマスタースケジュールありきで進めていたのです。何も知らずにわれわれがマスタースケジュールを先に引いて、それができなかったらベンダーを責める。以前のわれわれはそういう進め方しか知らなかったのです。そこで先方の文化を学ぼうとツールの使い方やアジャイル手法を学んでいきました。結果としてスケジュールは延びましたが、内製で開発するためのスキルを身に付けつつ、19年9月まで約2年半の開発となりました」(岩間氏)

 北國銀行の一連の取り組みの話を聞くなかで興味深いものの1つが、経営層のシステムに対する理解度だ。同社取締役頭取(代表取締役)の杖村修司氏は技術畑の人物ではないものの、ビジネスサイドから各種プロジェクトに長年携わるなかで知見を持ち続けてきた。

 その同氏が2008年に執行役員総合企画部長兼システム部長としてシステム部を創設し、その初代システム部長が現在の北國銀行の頭取を務めている。そのため過去の課題の数々を認識しており、それが戦略にも反映されている。Microsoft Teamsでは杖村氏が毎週トップメッセージを発信し、そのベンチャー企業の社長のような言葉が社員に行き届く。単純なトップダウンのようにも見えるが、ここで重要なのはそれに触発された社員が課題を認識していくことでボトムアップの雰囲気が醸成されてくる点にある。

エンジニアのモチベーションを支える技術者集団

 法人向けインターネットバンキングの開発内製化においてもう1つ、ノウハウの蓄積で欠かせなかったのがゼンアーキテクツの存在だ。Azure周辺技術のスペシャリスト集団であり、今回はアドバイザリーとして北國銀行のシステム開発に関わっている。

 北國銀行システム部開発グループチーフの真田聖史氏は「基本的には試行錯誤は自分たちで行うのですが、ゼンアーキテクツさんは悩んだときに相談するという立場です。最後はこちらに相談すればいいという安心感があります。隔週で定例の打ち合わせを行っていますが、雑談のなかで興味深い話題があると新しいトピックが出てくるので非常に勉強になっています」と述べる。

北國銀行システム部開発グループチーフの真田聖史氏

 ゼンアーキテクツ代表の三宅和之氏によれば、両社がマッチングした最初のきっかけはMicrosoftを通じて行われた企業向けのハッカソンプログラムだったという。当時、ここに参加した北國銀行の開発メンバーは認証基盤の難しい課題を抱えており、そこを得意としていたゼンアーキテクツが接触したのがきっかけだ。

ゼンアーキテクツ代表の三宅和之氏

 アドバイスを進めるなかで、より全体的なサポートも可能という話になり、まずはお試しで同社のサービスを試してみようという話になった。ゼンアーキテクツでは「ZEN Advisor」というWebサービスを提供しており、契約した所定の時間内であればさまざまな質問に答えるという技術チャットのような仕組みを提供している。

 当初北國銀行からは10人程度の参加人数だったのが、後に興味を持ったメンバーが60人から70人ほどにまで膨れることになり、現在でも技術交流が続いている。真田氏によれば「ある種の“エンジニア向け福利厚生”で、壁打ちのようなもの。第三者的な視点での意見を聞きたいというエンジニアは多いと思いますが、別の視点からアドバイスをくれるのがゼンアーキテクツさんなのです」と話す。中でもゼンアーキテクツの“shibayan”こと芝村達郎氏の人気は非常に高い。

北國銀行システム部の金子氏。「shibayanはエンジニアに影響力を持つメンター的存在。心の支えになっています」と話す

 「以前にも技術問題で行き詰まったとき、調べていてたどり着くのがshibayanのブログでした。進めていくなかでZEN Advisorの中にshibayanの名前があることが分かり、『ウチに入るとshibayanといつでも話せるよ』というのが当行でエンジニアを募集する際のセールストークになっています。北國銀行では2019年11月にデジタルバリューというシステム子会社を設立し、フルリモートでの勤務が人気で2年間で50人のメンバーが在籍するまでになりましたが、そのうちの何人かはshibayanがいるから参加しているといったほどです」(金子氏)

 こうした両社の協業だが、前述の認証基盤の部分のみならず、根本的なアーキテクチャの段階からさまざまな相談を行っているという。実際、早めに方針を固めておくと生産性が大きく異なってくるとのことで、分かりやすい成果ではないものの、ジワジワと効果を得られているようだ。またアドバイスのみならず、トラブル発生時に直接ゼンアーキテクツ側に介入してもらい、解決してもらうこともある。リリース直前にステージング環境で問題が発生し、時間がないなか迅速な対応で事なきを得たこともある。コードリポジトリの閲覧権限も与えており、こうした形でのシステムサポートが行われている。

内製化のカギは“エンジニアが好きにできる”環境づくり

 さまざまな知見を経て現在のスタイルへと行き着いた北國銀行だが、システム内製化における大きなポイントは「エンジニアが中心となって、ある程度好きにさせてくれる環境」だと岩間氏は語る。社長である杖村氏の方針もあるが、同社では現場での根回しは必要なく、他の上長にお伺いを立てることもない風通しのいい環境だ。「むしろもっとやれ」と発破をかけられるほどで、直で取り組めるような環境が整えられており、現場でやることに注力できる体制になっている。これくらいできないと内製化は成功しないというのが同氏の考えだ。

 かつて同社では部署ごとに好き勝手な体制で情報共有が行われていたが、2012年を境にグループウェアの入れ替えが行われてカスタマイズ禁止となり、社内の見える化の土壌が出来上がったという。後にTeamsが導入され、フラットなコミュニケーションや情報の民主化が進んだという流れだ。

 この考えに芝村氏も同意する。「内製化においてエンジニアが活躍できるレベルではないときついのが実際です。エンジニアの裁量が大きいと、打ち合わせの最中も次々と決定が行われるため、持ち帰りがなくスピード感が高まる。逆に問題となるのがCTOの意見が強すぎるなど、説得が必要な人が社内にいるパターン。現場を直接知らない人を説得しないと話が進まないため、ここがネックとなります」と同氏は加える。

ゼンアーキテクツの芝村達郎氏。“shibayan”の愛称でエンジニアから広く親しまれている

 両社が知り合ったきっかけのハッカソンにも重要な意味があると指摘しており、「一緒に手を動かして、そこから手を動かした後に疑問の解消になると思っている。頭でっかちにならず、手を動かすことが重要」ということで、実際にAzureで5〜10分程度でテストができる環境を試したりもしている。

 さらに、内製化の推進には、こういった“エンジニアが好きにできる”カルチャーだけでなく、限りある社内リソースをどう効率的に活用するかも重要なポイントになる、と三宅氏は補足する。

 そこで求められるのが、インフラの構築や運用といった、ビジネスの中核から離れた領域にリソースを割く必要のない技術基盤だ。北國銀行はMicrosoft Azureが提供するPaaS/Serverless基盤を活用することで、インフラ運用コストやリソース削減を実現するだけでなく、ビジネスの中核を支える領域に人的リソースを集中し内製化を推進しているのである。

日本の金融業界を地銀から変えていく

 北國銀行が目指す当面の目標は、インターネットバンキングだけでなく、地方にもっとデジタルの知見を浸透させること。がんばって製品を作っても使えない人たちがおり、いいシステムを作るのは当然として、きちんと使ってもらえるように会社全体でより多くの人がデジタルを享受できる仕組みを作っていきたいと岩間氏は話す。すでに支店窓口で行員が実際にインターネットバンキングの使い方を教えたり、デビットカードやポイント、クーポンの利用でさまざまな会社とコラボレーションしたりと、同社の取り組みは全国の地銀と比較しても進んでいる。そしてこの流れを地方銀行から日本全国に広げていければというのが岩間氏の考えだ。

 一方、こうした内製化の取り組みは、システムの外部提供という新たなビジネスにもつながりうる。これに対して岩間氏は「今後システムそのものの提供は行っても、開発や保守は利用するユーザー企業自身が『内製で』行うことを想定しています。つまるところ、内製しないと経営スピードが速まらず、本来の効果を発揮できないのです」と指摘する。重要なのはシステムそのものよりも、内製化に至る開発体制にある――その意味において、ときに大きな失敗を経験し、試行錯誤を重ねてきたからこそ業界を数歩リードする北國銀行の事例は大いに参考になるはずだ。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年8月21日

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