離島高校の廃校危機を救ったICT 誰一人取りこぼさない学校教育で育む子どもの明日新しい授業のカタチ

2019年、文部科学省より「GIGAスクール構想」が発表され、話題になった。世界で進む、教育へのICT利活用。日本は出遅れているとされていたが、学校におけるネットワーク環境強化、生徒1人に端末1台という新しい授業スタイルの定着に国も力を入れている。このようなICT環境導入により、学校教育は今、どのような変化を遂げようとしているのか。リクルートの事例から探る。

» 2022年09月30日 10時00分 公開
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 2022年4月、愛媛県で発行されている情報紙の一面に「伯方分校 廃校危機から脱出」の文字が躍った。広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ「瀬戸内しまなみ海道」、そのちょうど中ほどに位置する伯方島(はかたじま)には、島内で唯一の高校、今治西高等学校伯方分校がある。同校は、年々減少する生徒数により廃校が懸念されていたが、有志による支援対策協議会の発足や市のバックアップを受け、22年度の入学者数が増加。結果、めでたく存続になったという吉報は当時ネットニュースとしても流れた。

 愛媛県今治市の徳永繁樹市長に話を聞くと、同校が廃校を回避できた背景には、「市協力のもとで導入を進めたリクルートのオンライン学習サービス『スタディサプリ』によって、島しょ部にある学校の“魅力化”を図れたことも大きく関係している」という。離島高校を救う一助となったオンライン学習サービスとは? ICTで変わる学校教育の現在地を取材した。

昭和〜平成の常識が変わる 「令和のスタンダード」な教室

 文部科学省が旗振り役となり、19年からスタートした「GIGAスクール構想」が大きな転機となった学校教育へのICT導入。皮肉にもコロナ禍が計画を後押しした形となり、「生徒1人に端末1台」という学びのスタイルは令和のスタンダードとして定着しようとしている。

 また、学びの内容も昭和〜平成と大きく変化した。不確実性が高まり続けることが予想できる今後、子どもたちはグローバル化、IT化とめまぐるしく変化する社会へ出て、生きていくことになる。こういった情勢を踏まえて、20年には10年ぶりに学習指導要領が改訂された。その結果、国語・算数・理科・社会という基礎学力だけではなく、外国語教育(小中)、プログラミング教育(小)、そして課題の発見解決力を養う「総合的な探究の時間」(高)を必修科目に加えるなど、子どもたちの「生きる力」を育むことを目的とした教育環境構築に、国も力を入れているようだ。この新学習指導要領は、GIGAスクール構想と密に関係するものであり、日本のICT教育は順調に進んでいるように見える。

激変する社会と学びの領域、その裏で深刻化する教員の多忙化

 しかし一方で、ICT教育を担う立場である教員の多忙化は深刻だ。前述したような社会構造の急激な変化、それに柔軟かつ親身に対応することが学校に求められている背景は、要因として無視できない。学校学習において、「何が理解できていて、何が理解できていないのか」は生徒により異なる。今までは教員が対面で個々に把握し、“つまずき”をフォローすることが求められてきたが、昨今それは非現実的ではないか。

 教員は、自分が子どものころには受けてこなかった授業を教えるため、新たな研究と修養に努める必要があり、やるべきことは山積状態。そのような中で、生徒ひとりひとりの習熟度を正確に把握し改善に勤しめというのは、たしかに酷なオーダーなのかもしれない。

 そんな現代の学校教育現場で、生徒、そして教員の大きな助力となるのが「スタディサプリ」だ。

学校×ICTで何が変わる? 「個別最適化された学習支援」が実現するワケ

 スタディサプリは、「経済的、地理的な理由から発生する教育環境格差を解消し、全ての人たちに学ぶ機会と楽しさを」という思いからスタートした事業だ。もともとはBtoC向けに受験対策用の動画授業をオンラインで提供する、いわば“塾代わり”となるサービスであったが、13年から月額使い放題のサブスクリプション型サービスとなり、その後、学校向けにもサービスを拡大。現在では全国の高校の約4割にあたる約2000校で導入が進むなど、広がりを見せている(22年3月末時点)。

 学校向けサービスとしては、「講義動画」「テスト教材」「配信機能(スタディサプリ for TEACHERS)」の3つが主要なツールとして用意されている。活用方法は以下のようなイメージだ。

 まずベース教材となるのは講義動画である。有名講師による質の高い授業動画を、生徒たちがアプリ経由で見て学ぶ。授業中に使う、課題として配信するなど利用方法は学校判断でさまざまだ。

 そしてテスト教材は「到達度テスト」と「WEBテスト」の2種類がある。到達度テストは、年2回過去の学び直しに特化した絶対評価型のテストで、つまずきの把握に特化している。また、WEBテストは日々の授業に合わせて学習理解度を測るためのコンテンツだ。生徒の学習習熟度を可視化することで、個々に適した課題を用意するといったことが可能となる。講義動画やWEBテストは、教員の意図したタイミングで生徒のアプリへ配信できるが、それに用いられるのがスタディサプリ for TEACHERS(以下、for TEACHERS)である。

photo スタディサプリ for TEACHERSでは、学習させたい分野や、対象生徒別の課題内容を、教員が期限などを決めた上で動画やテストとして配信できる

 for TEACHERSでは配信コントロールのほか、WEBテストの結果、講義動画への取り組み状況をリアルタイムで教員が確認できるといい、従来では難しかった「個別最適化された学習支援」が実現する。

 学校の授業で理解できなければ塾に通うという方法もあるが、地域や家庭の事情により全生徒が取れる選択肢ではないことは言うまでもない。スタディサプリのようなICTは、教員の負担を減らすことで、教員でしかサポートできない領域――例えば心のケアや進路相談、探求力を身に付けるといった新たな指導に注力すること、そして学校教育で公平に、今まで以上に個別最適化された学習環境を構築するのに寄与する。

photo スタディサプリで解決できる学校教育の課題

「分からない」を「分かる」へ 学習意欲向上を促すスタディサプリの“裏側”

 スタディサプリの真価は、表に出ているコンテンツだけではなく、裏側の運営方法にも隠れている。例えば講義動画は常に改善されているといい、講義動画に関する生徒の視聴時間、理解度などをデータにて管理し、“つまずきポイント”を可視化。動画に出演する講師陣のスキルやノウハウを意見として取り入れつつ、動画制作チーム内で分析を繰り返し、改善策を練るという。これら取り組みにおけるスタディサプリの狙いは、生徒ひとりひとりの「分からない」を「分かる」へつなげることだ。

 「『分からない』を教員側で可視化して、個別最適化された課題が解けるようになり、テストで点数が上がると、自然と学習意欲は向上する。ステップアップした際、また『分からない』箇所があれば可視化をして――と、スタディサプリのようなICTを利活用すれば、このPDCAを短サイクルで回せるようになる。分かる生徒も、分からない生徒も、誰一人として取りこぼさない学校教育の実現に、スタディサプリをご活用いただければ」。同社の野崎槙子氏はそう話し、ICTが変える学校教育と、その下で学んだ子どもたちの未来に期待を寄せる。

※「崎」の字は、正しくはつくりが「立」に「可」の“たつさき”

伯方分校とスタディサプリの出会いが生み出した新しい学びとは?

photo 19年より伯方分校で教鞭をとる仲野充洋氏。「スタディサプリの講義動画に刺激を受け、就職希望から進路を変更し、大学へ進んだ生徒もいる」と話す

 冒頭で触れた伯方分校は、スタディサプリを導入し個別の理解度、進ちょく度に合わせて学習指導を進めるなどの環境を構築できた結果、4年制大学への進学率が大幅に増加。導入前の20年度は6人だった合格者が、翌年22人まで増えた。実際に、同校で学ぶ馬場叶羽さん(3年生)は、「今まで自宅で勉強する際は参考書を使っていたが、どうしてもつまずく部分が出てきてしまい、先に進めなくなることが多かった。でもスタディサプリなら、講義動画を通し自宅でも“授業を受ける”ことができるので、自習であっても途中でだらけてしまうことが少なくなり、より深い理解を得られるようになった」と話し、笑顔を見せる。

 これを受け、英語の授業を担当する傍ら進路指導担当も務める仲野充洋氏は、スタディサプリの効果について次のように話す。

 「スタディサプリ導入前後で最も大きく変わったのは、個別指導の在り方だ。今までは、苦手科目がある生徒がいればつきっきりで教えていたが、それでは時間がいくらあっても足りない。また『ここが分からない』と声を上げてくれる生徒しかフォローできないという、“見落とし”もあったはずだ。スタディサプリでは、模試(到達度テスト)の結果から教員が正確に生徒の『苦手』を把握できるため、個別に必要な講義動画を案内したり、課題を出したりすることで理解を促せる。これは、生徒にとっても教員にとっても、非常に効率的だ」

スタディサプリ講師が、離島高校の壇上で伝えたかったこと

 なお伯方分校では、隣接した島にある今治北高等学校大三島分校と共同で、22年4月より「みんなの学校」を実施している。これは両校生徒の学習支援イベントであり、生徒たちの職業観の育成や将来の可能性を広げることを目的として定期的に開催されている。

 具体的な内容は、各回でさまざまな分野の著名人をゲストに迎えて、放課後の時間を使い「未来のための学び」となる特別授業が行われるというもの。今年9月13日に開催した第5回目には、スタディサプリを導入した縁でつながった人気数学講師、山内恵介氏がゲストとして壇上に上がった。

 講演にはかけ算のひっ算や三平方の定理の証明が用いられたが、それらはあくまで“題材”。数学は得てして、「そう教わったから」という無思考な理解にとどまりがちである。山内氏は、そのような算数・数学の例を通して、「なぜ?」と感じ、「知りたい」と自分で考えることの大切さ、そして学びのあとで“伝える”ことの重要性について語った。

 「勉強と学びは違う。勉強とは、誰か(他人・自分)に強制的に課されたもの。そして学びとは、誰に言われるものでもなく、自分で深めていくものだ。学習をしているとき、先生や参考書の意見を鵜呑みにする前に、まずは『なぜ?』と立ち止まってみる。そしてノートに疑問や感情をメモして、読み返し、考えてみてほしい。この先の人生、あらゆる選択肢がある中で、与えられたものの意味を考えないことはただ命令に従うロボットと同じだ。あなたでなくてもいいということだ。学びとは、誰かに強制されることではなく、自然に生み出されるものである。全員違う『なぜ』があり、そこに向きあうことで得られる”気づき”が重要だ。

 しかし、学ぶだけでは世界は何も変わらない。だから、あなたが思ったことや得た気づきを周囲に伝えてほしい。学校は相互に学びを深める場所だ。先生は授業中、事実を一方的に教えているのではない。『先生はこう思う、あなたはどう思うか?』と、“考え方”を伝授しようとしているはずだ。そこにはあなたにしか出せない”気づき”があるかもしれない。そしてそれが、とんでもない価値を生み出すことだってある。

 高校は、あなたの”気づき”や思いを安心安全の場で友人や先生に対面で聞いてもらえる、最高で、最後の場所だ。大事なのは過去ではなく、今から、高校でどんな“学び”をしていくか。ぜひ、自分自身と向き合って、周囲と伝え合い、充実した高校生活を送ってほしい」(山内氏)

photo 9月13日に伯方分校で開催された「みんなの学校」で講義をする、スタディサプリ数学講師、山内恵介氏

 伯方分校と大三島分校は、26年度から「しまなみ海洋高校」(仮称)として統合する動きが出ている。各校舎は取り壊すのではなく、「伯方キャンパス」「大三島キャンパス」としてそれぞれ残される予定だ。徳永市長はイベント冒頭、生徒たちに対し、「この島には何もない――あなたたちはそう感じることがあるかもしれない」。そう語りかけ、以下のように続けた。

 「これからの時代は、物質的なものではなく、心の豊かさを求めることが重視されるようになるはずだ。そんな時代に求められるもの全てが、このしまなみには存在していると、私は考える。島になかったものは、われわれ市が全力でサポートし、用意する。スタディサプリもその一つだ。統合後も、学びの保障をしつつ、各校の地理地形を生かすことで、愛媛県で最も有名な学校を目指したい」

 塾がほとんどない地方は、子どもが十分学べないのではないか。このような価値観は、もはや過去のものになろうとしている。ICT教育により、都市部であっても島しょ部であっても変わらない教育環境を構築できれば、これまでの時代にはなかった多様性が育まれ、イノベーションの原動力となる日も遠くないだろう。スタディサプリが築き上げる新しい“学び”の可能性に、これからも期待したい。

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提供:株式会社リクルート
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年10月14日