「自治体DX」 鍵はデジタル人材の活用 「2つのアプローチ」を神戸市や浜松市で探るデジタル社会の実現に向けて

デジタル技術を活用して地域課題を解決し、誰一人取り残すことなく便利で快適に暮らせる社会を実現する――こんな社会像を目指して、政府が力を入れているのが「デジタル田園都市国家構想」だ。そこで重要なのは、同構想の中心である「自治体のDX」だ。本記事では、アマゾン ウェブ サービス(AWS)主催のオンラインイベント「デジタル社会実現ツアー 2022」(2022年9月開催)に登壇した各自治体の取り組み事例を基に、自治体DXの実現に向けた具体的な道筋を読み解く。

» 2022年11月14日 10時00分 公開
[ITmedia]
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 2021年に岸田文雄首相が掲げた「デジタル田園都市国家構想」は、デジタル技術で地域の社会課題を解決し、全国どこでも誰もが豊かで便利に暮らせる社会を目指すものだ。具体的には、場所を選ばずに行政手続きをオンラインで完結する仕組みや、地域格差がない学習環境の提供、国と地方や官民でのデータ連携を基にしたスマートシティーの実現といった改革を目指している。

 同構想の中心になるのが自治体だ。デジタル社会の実現に向けて、自治体が行政の運営や市民サービスの領域で「デジタル実装(DX)」を進めていく力が問われているといえる。

photo 内閣官房の塩手能景氏(イベント動画よりキャプチャ)

 「デジタル田園都市国家構想を実現するには私たち国が、各自治体や、企業をはじめとする民間のプレイヤーと適切に連携や役割分担できなければ、デジタル実装の取り組みや社会課題解決の取り組みを進めていくことは難しいでしょう」――こう話すのはアマゾン ウェブ サービス(AWS)主催のイベント「デジタル社会実現ツアー 2022」(以下、本イベント)に登壇した内閣官房の塩手能景氏(デジタル田園都市国家構想実現会議事務局 内閣府地方創成推進室 参事官)だ。

 その民間企業はどのような取り組みを進めているのだろうか。現時点で多くの企業が行政サービスの品質向上に役立つデジタル技術やサービスの提供を始めている。すでに100超の自治体や団体に、行政手続きのオンライン化サービスを提供しているGraffer(渋谷区)の石井大地氏(代表取締役社長/CEO)は、本イベント内で次のように語った。

photo Grafferの石井大地氏(イベント動画よりキャプチャ)

 「私たちは行政手続きに着目しました。一般的に不便といわれる手続きは、日本にいる1億2千何万人が抱える課題だと思いました。ある市長さんが『行政手続きをオンラインでやりたい』といってくださり、サービス開発に至りました。住民の方に好評で、自治体職員の負担も減るといった効果がありました。今後もこうした課題解決を自治体の皆さんと進めていきたいです」(石井氏)

 では、デジタル田園都市国家構想のメインである自治体における行政の業務や市民サービスのDXはどの程度進んでいるのだろうか。ここからは、本イベントで紹介があった3つの自治体の事例を見ながら、DX推進の具体的な道筋を読み解いていく。

石井氏の講演内容は、本イベントのオンデマンド配信(37分10秒〜47分)でご覧いただけます

“あったかいDX” を進める三重県 CDOが語るデジタル社会実現のポイント

photo 三重県の田中淳一氏(イベント動画よりキャプチャ)

 「DXによって人々の気持ちや時間に余裕が生まれ、自己実現や幸福実感が向上していく」という考え方に基づき、住民視点に立った”あったかいDX”を進めているのが三重県だ。同県では全国に先駆けてCDO(最高デジタル責任者)を設置するなど、精力的な取り組みを進めている。

 今後実現を目指すデジタル社会の要点について、三重県の田中淳一氏(三重県CDO/内閣府 地域活性化伝道師/総務省 地域力創造アドバイザー)は次の3つだと指摘した。

  1. 地域住民との共創:地域住民と一緒に未来像を描いてから、戦略推進計画を策定する
  2. 行政DXの3要素:組織のDX(専門組織やリーダーの設置)、サービスのDX(品質向上の仕組み作り)、システムのDX(あらゆるシステムのクラウド化による運営コストの低減)
  3. 社会のDX:デジタル社会形成に向けた官民連携のデータ基盤や協議会の整備

 この3つの要点に基づき、同県では総勢50人が所属する 「デジタル社会推進局」 や、国内外のDX専門家や企業と連携してDXを推進するワンストップの窓口「みえ DXセンター」 を設置するなどデジタル社会の実現に向けた取り組みを進めている。

 この三重県の実例を踏まえ、デジタル社会の実現に向けて各自治体が取り組むべき方向性として、デジタル社会実現ツアー 2022では2つのアプローチが示された。1つ目は自治体が自らデジタル人材を育成する方法、2つ目は官民連携による民間のデジタル人材の活用だ。

田中氏の講演内容は、本イベントのオンデマンド配信(11分30秒〜16分)でご覧いただけます

デジタル人材の育成に注力する神戸市 「人材が自治体DXの鍵になる」

 まずはアプローチの1つ目である自治体がデジタル人材を育成する方法を先進事例から紹介する。“スマート自治体”を目指す兵庫県神戸市だ。すでに一部窓口業務の電子化やスマートフォンからのオンライン手続きを実現している。

 神戸市では2017年から働き方改革を進め、民間登用によってデジタル人材を確保すると同時に、自治体職員をIT企業に派遣することでデジタル人材の育成を図ってきた。さらに2022年度からは職員のデジタルリテラシーに応じて「一般職員」「DX推進リーダー」「デジタルエキスパート」に分け、それぞれに適したデジタル研修制度の本格運用を始めた。

photo 神戸市が目指すデジタル人材育成の概要(神戸市の講演資料より)

 このデジタルエキスパートはスマート自治体の旗振り役として、クラウドなどITツールの調達時にベンダーと対等に議論するといった中心的な役割を担う。広範かつ高度で実践的な知見を養うために「AWS認定」の資格取得プログラムを整備したと神戸市の担当者は説明する。

 一方で現場業務のDXは、各課に配置するDX推進リーダーが担う。育成プログラムとして、リーダーの心構えやサービスデザイン思考、ローコードツールの利用方法などを学ぶ3カ月の研修を用意した。さらに約3年のOJTによって市民本位での行政サービスの品質向上を目指す、DX人材育成コースの庁内公募を実施した。そして一般職員もITツールの活用方法や情報セキュリティに関する研修を受ける予定だ。

 「デジタル人材の育成は試行錯誤の最中ですが、自治体DXでデジタル人材が鍵を握ることはこれまでの経験からも間違いありません」(神戸市の担当者)

神戸市の事例の詳細は、本イベントのオンデマンド配信(28分50秒〜36分)でご覧いただけます

自治体がデジタル人材を育成するには? 具体的な手法

 神戸市のようにデジタル人材を自治体で育成するアプローチを取りたくても、その方法が難しい場合が多々ある。そこでAWSは、自治体向けに無料の研修トレーニングを提供している。研修の内容は、クラウド活用事例の研究や、クラウドセキュリティやクラウド調達、費用の見積といったAWS活用の基礎を学べるものだ。さらにAWSの資格取得やサービスデザイン思考の理解をサポートしたり、AWSを活用したプロジェクトの支援をしたりと広範なサービスとサポートを用意している。

 これだけではない。DXの下地であるクラウドの理解を手助けする数百もの自習用教材や、プロの講師から知見を学べる研修「クラス ルーム トレーニング」、DXを人材育成やサービス企画の観点で支援する「AWS Professional Service」も提供している。

 これらを活用することで自治体が自らデジタル人材を育てられる。そして実際にDXを進める際にはAWSの専門家を交えたディスカッションで将来像を明確にした上で、課題や目的別にAWSの活用方法の提案を受ける個別オンラインミーティング「Ask the Expert」で具体的なDXの進め方を描ける。

 さらにコスト削減や耐障害性、情報セキュリティなどを踏まえたシステム導入のための技術支援や、防災や災害対策の仕組みを組み合わせて、自治体DXの初期から実装段階まで総合的な支援を受けられる。

「デジタル・スマートシティー」を目指す浜松市 民間のデジタル人材を活用

 デジタル社会の実現や自治体DX推進の2つ目のアプローチとして、民間のデジタル人材の活用がある。総務省「令和3年 情報通信白書」(※)によると、ICT人材(デジタル人材)の7割がIT企業に在籍しているという。つまり官民連携によって民間の人材を活用することで、これまで培った知見や専門知識をデジタル社会の構築や自治体DXに活用できる。

※総務省「令和3年 情報通信白書」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd112490.html)の「図表1-2-4-25」より

 この手法を採用するのが、「デジタル・スマートシティー」に取り組む静岡県浜松市だ。人口減少や高齢化といった課題を解決し、持続可能かつ市民の幸福度を高めるまちづくりのためにDXを推進している。これを官民共創で進めることで、地域課題の解決に加えて、民間企業の新たなサービスの創出が地域の活性化につながる。同市はこの両輪が回ることを期待している。

 デジタル・スマートシティーの特徴的な取り組みの一つが、都市内/都市間でのデータ連携の仕組みだ。これを活用し、スタートアップなどさまざまな企業と官民連携で、事業化の検証を行う取り組み「Hamamatsu ORI-Project」(浜松市データ連携基盤活用モデル事例創出事業)を実施中だ。2022年度は15のスタートアップ企業や団体が参加し、8月からは市内で5つのサービスを検証している。

 浜松市は、この事業でAWS上に構築したデータ連携基盤を活用している。また同市とAWSは、デジタル・スマートシティーの実現に向けて、スタートアップや地域でのクラウドエンジニアコミュニティーの発展に取り組む連携の締結を、デジタル社会実現ツアー 2022の開催期間中に発表した。

浜松市の事例の詳細は、本イベントのオンデマンド配信(1時間20分〜1時間25分)でご覧いただけます

スタートアップを多面的に支援する「AWS Startup Ramp」

 民間のデジタル人材を活用する浜松市の取り組みでは、多くのスタートアップとの連携が鍵となっていた。実は、AWSの手厚いサポートは行政関係やサステナビリティといった公共領域を手掛けるスタートアップにも及ぶ。それが、技術面やマーケティング面でスタートアップ支援するプログラム「AWS Startup Ramp」だ。すでに多くの自治体やスタートアップと連携しており、支援を強化することでデジタル社会の実現に向けたイノベーションを後押ししたい考えだ。

 AWS Startup Rampは幅広い支持を集めている。約150の研究機関を抱える茨城県つくば市では、産学官共同での社会課題の解決に向けた都市づくりを進める事業でAWS Startup Rampを採用した。また北海道札幌市を中心に12市町村とスタートアップがイノベーションを目指すプロジェクトでも、AWS Startup Rampの貢献が大きい。

photo AWS Startup Rampの概要(AWS提供)

デジタル人材が社会課題の解決に貢献する そんな未来は目の前に

 ここまで見てきたように、デジタル社会の実現にはクラウドなど欠かせない技術がある。しかし技術があるだけでは足りず、それを扱えるデジタル人材が重要だ。将来的にそうしたデジタル人材が社会課題の解決に貢献すると思わせてくれる、ある学校の生徒たちを最後に紹介したい。

 奈良県河合町の西大和学園中学・高等学校の生徒たちによる挑戦だ。コロナ禍の文化祭で、入場制限用のチケット管理システムを生徒たちがAWS上に構築。さらに校舎の3Dモデルを制作して、構内を散策できるコンテンツも用意した。教育現場でこうした動きが出てきていると知ると、将来への期待が大きくなる。

西大和学園の取り組みは、本イベントのオンデマンド配信(54分〜1時間3分30秒)でご覧いただけます

 本記事ではデジタル社会実現のエッセンスを取り上げた。このデジタル社会実現ツアー 2022はアーカイブ配信を公開している。そこでは他にも群馬県や静岡県、千葉県佐倉市といった自治体の取り組みを紹介している他、32のブレイクアウトセッションから自身の担当領域や興味ある分野を選んで視聴できる。ぜひ視聴して先進的な事例を今後の参考にしてはいかがだろうか。

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