「人的資本」時代の人事に求められる要件 多様化する“個”の力を引き出す人材サステナビリティのアプローチとは?SAPグローバル担当者に聞く

新型コロナによるパンデミック以降、グローバルで関心が高まる人事のアプローチが、人を「資産」ではなく「資本」として捉え、個々に対し適切な施策を行い、人材のサステナビリティ(持続可能性)を目指す「人的資本経営」だ。ただし、既存の考え方との違いから、実践は一筋縄ではいかない。何がどう変わり、そのためにどんな準備を進めるべきなのか。

» 2022年12月02日 10時00分 公開
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人的資本経営の関心がグローバルで高まるワケ

 従業員を事業活動の元手の財産として捉え、その価値を高める各種施策を通じて、中長期的なより大きな成長につなげよう――。こうした考えに基づく「人的資本経営」への企業の関心がグローバルで盛り上がっている。背景にはいくつもの要因がある。

 一つは、企業間競争の質的変化。企業の成長(勝敗)の決定要因がかつての有形資産から、研究開発や知的財産、デザインなどの無形資産に移行しているのは周知の通り。それらを生み出す主体は人であり、人への配慮は当然の話だ。また、各種研究の結果、従業員の幸福度と企業の生産性などの相関関係がすでに明らかなこともある。2010年代半ばからの「健康経営」の国内での広がりも、心身の健康維持を通じた従業員の活力、ひいては業績向上という狙いがあってのことだ。

 企業にとって究極的な目標である“経営の永続化”に向けた、人材面のサステナビリティ(持続可能性)の策になることも見逃せない。人の知識やスキルの価値は時代ごとに変わり続ける。そうした中、人事施策を通じてその時々に合致した価値を組織や人材に加味し続けることで、成長の土壌を絶えず整備できる。その意味で、人的資本管理は経営の要請に応える、戦略人事に包含される要件にもなる。

 とはいえ、人的資本管理は国内ではまだ緒に就いたばかり。情報も乏しい中にあって、企業はどう活動を本格化すべきなのか。

パンデミックを機に「人を大事にする経営」にシフト

 人的資本経営は、情報開示の流れの一つと捉えることもできる。人材は投資判断の重要な指標とされ、すでに米国ではISO30414にのっとった人的資本の情報開示を上場企業に対して義務化。日本政府も同様の方針を発表済みだ。

 SAP SuccessFactorsの製品・設計担当シニア・バイス・プレジデントであるエイミー・ウィルソン(Amy Wilson)氏によると、人的資本経営が脚光を浴びる直接的なきっかけの一つは、新型コロナによるパンデミックにあったという。

 「対策としてリモートワークが一気に拡大した結果、働き方の急激な変化によるストレスを多くの従業員が訴えるようになったのです」(ウィルソン氏)

人的資本 SAP SuccessFactorsの製品・設計担当シニア・バイス・プレジデント エイミー・ウィルソン(Amy Wilson)氏

 前述の通り、従業員の幸福度と生産性は密に関連し、経営として状況を看過できない。その対応の手本となったのが、先進企業における人的資本経営の好循環だ。従業員との対話を通じた人事施策によって従業員の成長を促し、その達成が喜びとして従業員のモチベーションを高め、業績に反映されるというわけだ。

 「新型コロナにより従業員の労働意識も大きく変わりました。そうした変化も織り込みつつ働きやすい環境を整え、従業員をより大切に扱うよう、多くの企業が人的資本経営の促進に舵を切ったのです」(ウィルソン氏)

 とはいえ、人的資本管理の実践は一筋縄ではいかない取り組みだという。確かに、人的資本という言葉の登場により人事施策自体は行いやすくなった。かつて、人材は多くの企業で資産と捉えられ、人への投資は追加コストと認識されるなど、「人を大事にするには、考慮すべき部分が大きく不足していました」(ウィルソン氏)。対して、人的資本の考えでは追加投資はコストではなく、企業価値を高める追加出資であり、教育やサポートなどに前向きに取り組める。

 問題は、人材の捉え方が変わればマネジメントのアプローチも変わることである。

従業員を知る仕掛けの欠如が推進の“壁”に

 時代を問わず経営の最重要テーマの一つである人材育成。以前であれば一般的な目標として、優秀な人材選抜や、計画的教育などによる均質的なスキル底上げが掲げられていた。対して、人的資本管理では、従業員のダイバーシティ(多様性)を踏まえつつ、個々の従業員のやる気を引き出す教育などを用意し、場合によっては新たなキャリアパスも準備する。

 「従来の考えに基づく人事の仕組みは、人事戦略をいわばトップダウンで実行し、蓄積したデータをキャリアパスに生かすことに主眼を置いています。それ自体は決して否定すべきではありませんが、プロセスが厳格かつ柔軟性に乏しいため、変化が激しい今の時代に合致しにくくなっているのは否めません。人的資本管理では、会社と従業員との目標の“すり合わせ”により、そこでの溝をアジャイルに埋めることができます」(ウィルソン氏)

 ただそこで厄介なのが、従業員がどんな人材で、何を求め、将来的にどうなりたいかまで深く知る必要があることだ。「すり合わせできる部分が多いほど従業員の熱意が高まり、前向きな努力で人材の持続可能性も高まり、職場への定着率も高まります」(ウィルソン氏)。逆に、従業員の理解を欠いたすり合わせは“命令”と変わらず、効果も期待しにくい。

 では、従業員を深く知る仕掛けが現状、日本企業でどれほど用意されているのか。従来の仕組みがトップダウンによる従業員管理を狙いとしたものだけに、十分な用意がある企業は多くない。定期的な調査などを実施する企業もあるが、それも年に数回程度。調査結果に対して、スピード感を持ったリアクションを実践できている企業は多くない。他方で、従業員は日々の業務で経験を積み、学び、新たな気付きを得続けている。この状況にあって、従業員に“刺さる”すりあわせの提案は、今まで通りの人材育成戦略では現実的に極めて困難と言わざるを得ない。

 なお、人的資本管理ついてはベンダー各社も制度対応の支援のために、ISO30414で規定された「人材育成」「多様性」「健康安全」「労働慣行」を柱とする計10領域以上の可視化に向けた機能実装を急ピッチで進めている。それらを利用することで、確かに現状の把握/公開は可能だ。ただし、従業員を知る仕掛けを欠いては、各種対策のタイムリーな効果測定、ひいては持続的な改善も難しい。

ボトムアップによる人材データ収集で「個」の能力を洗い出す

 こうした中、人材把握の重要性と、その難しさに対する気付きを基に、SAPがコロナ禍前から提供しているのが、クラウド型人事管理システム「SAP SuccessFactors HXM Suite」だ。「人事・給与計算、タレントマネジメント、アナリティクスなどの機能からなるHCMに、ボトムアップによる従業員エクスペリエンスの情報収集機能を加味することで、人的資産管理のために進化させた人事の仕組みと位置付けられます」とウィルソン氏は端的に解説する。

 SAP SuccessFactorsのボトムアップによる情報収集で鍵を握るのが、人事フローに組み込まれたアンケートなどの仕掛けだ。それらが、従業員の異動などのイベントごとに、従来は管理の範囲外だった多様な経験データ(エクスペリエンスデータ)を、従業員の入社から退社まで一貫収集しつつDBで一元管理。いくつもの切り口で可視化する機能群により、人材のより深い理解や、タレントの発掘/育成などを支援する。代表的な機能は次の3つ。

 まずは、従業員をより幅広く理解するための「Whole self-Model」。大きく3つに分類され、個人のあらゆる属性(whole-self)を管理する。1つ目は、自分が保有するものであり、これまで管理し得ていたスキルや研修歴、経歴がそれにあたる。2つ目は自身の強みや仕事のスタイル(働き方・雇用形態など)、コミュニケーションスタイルといった、個人の人格に近い内容。そして3つ目はモチベーション、熱意、好みなど、可変的な要素である。Whole self-Modelではこれらの個別データを総合的に収集/管理し、人材の一層の深掘りと可視化を後押しする。

 次が、従業員にパーソナライズされた学習などのコンテンツを提供する「Opportunity Marketplace」だ。体験データを基にしたAIの分析結果から、個々に最適と判断されるタスクやメンター、学習などのコンテンツを提示し、従業員の自発的な自己実現と多様な成長機会を自分ごととして認知し、選択できる場を提供する。「Whole self-Modelで従業員の目標や熱意などのより精緻な管理が可能になったからこそ実現した機能です」(ウィルソン氏)

人的資本 従業員にパーソナライズされたコンテンツを提供する「Opportunity Marketplace」(出所:SAPジャパン)

 3つ目は、従来の組織階層に縛られないアジャイルなチーム編成での人材管理を実現した「Dynamic Teams」だ。目まぐるしく環境が変化する中、組織横断型の小規模な短期プロジェクトチームの立ち上げも今では珍しくない。そういった中で、Whole self-Modelにて集約された多様な情報をもとに漏れなく必要なメンバーを選出したり、Opportunity Marketplaceを通じて自ら応募・参加ができたりするような、さまざまなチームの編成にも柔軟に対応する。また、組織横断で、普段仕事上で接点のないメンバーとプロジェクトを進めるうえで、OKRのような新たな目標管理手法にも対応し、モチベーション高めて成果を出す管理手法にもDynamic Teamsはサポートが可能だ。

新時代の人事を切り開く“切り札”

 SAP SuccessFactorsの導入企業はグローバルですでに7000社を突破。それを支えているのが人材把握の機能群に加え、SAPの実績に裏打ちされたグローバル導入の容易性だ。

 グローバル経営の舵取りでは、ゴールやミッションを明確化し、共有することが重要だ。その点、SAP SuccessFactorsのグローバル展開での同一システム、共通尺度によって、各種判断でのブレを確実に抑えられ、国境を越えた一貫した人事戦略の遂行が可能になる。

 最も、各国で文化や制度的な違いも存在する。そこでのローカライズ力もSAP SuccessFactorsの強みだ。名前や住所、電場番号などの表記の違いから、各国固有の法要件まで、すでに広く知られているものに対しては、事前に対応機能を標準実装。また、後継者の扱いや管理の違いなど、込み入った要件のカスタマイズに対しても、データやアナリティクス、人工知能、アプリケーション開発、自動化、統合の機能を集約したプラットフォーム「SAP Business Technology Platform(SAP BTP)」を用意し、その上で開発したプロセスとのAPI連携により、柔軟に対応を図れるという。

 世の中の変化が激しさを増す中で、人事も今後、対応の苦労が予想される。一端は「タレントマネジメント」からも見て取れる。「従来、経験やスキルを踏まえて獲得すべきプログラムを提示し、段階的な育成を通じて将来への備えを進めてきました。ただ、近い将来、設定したキャリア自体が存在しなくなることは十分にあり得ます」(ウィルソン氏)

人的資本

 ウィルソン氏はその対応策として、「特定領域に特化しない、周辺領域も含めた経験の積み上げによるスキルとリーダーシップの養成」と強調する。「従来の仕組みでは管理できるデータが限られることが、このアプローチの“壁”となっていました。しかし、Whole self-Modelに見られるデータ管理性の高さにより、SAP SuccessFactorsではすでに現実のものになっています」(ウィルソン氏)

 企業の求める人材像が大きく変わる中、SAP SuccessFactorsは新時代の戦略人事の“切り札”となりそうだ。

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提供:SAPジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2022年12月23日

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