中小企業を取り巻く環境は厳しさを増し、DX推進はもちろん、円安環境、脱炭素経営、インボイス制度、セキュリティ対策など、対応すべき事案は多い。こうした環境の中、早めに手を打ち、事業を加速させるためには、第三者の手を借りて“伴走支援”を受けることも一つの有効な手段だろう。独立行政法人 中小企業基盤整備機構(以下、中小機構)が提供する補助金活用もその好例だ。補助金の仕組みと活用方法について、企画部 生産性革命推進事業室 参事の林崇郎氏に聞いた。
――まずは、中小機構について教えてください。
林: 私たちは、国の中小企業施策全般にわたる総合的な実施機関です。中小企業・小規模事業者が直面する課題に対し、さまざまな支援を行っています。具体的には、事業活動に対する助言、研修、資金の貸し付け、出資、助成や債務の保証、地域における施設の整備、共済制度の運営などです。独立行政法人は、事業内容がそのまま法人名になっていることが多いので、簡単に言うと「日本の中小企業の経営基盤を強化するために支援する組織」というイメージをもっていただければ幸いです。
――中小機構ではさまざまな補助金を用意していますが、給付金との違いを教えてください。
林: 一般的に給付金は、対象者が給付要件を満たした場合に原則支給されます。一方、補助金は対象者が補助要件を満たした場合でも、審査で不採択になる可能性があることが大きな違いです。
補助金に採択された事業者は、補助事業期間に機械設備などを購入しますが、原則として、事業者が先に経費を支払い、実施後に補助対象経費を事務局に請求する流れになります。請求する際には、何にいくら使ったかが分かる見積書、請求書、領収書といった書類の添付が必要になるので注意が必要です。
――実際に補助金を申請している事業者はどのぐらいいるのでしょうか。
林: 中小企業生産性革命推進事業(4補助金)を開始した2020年度以降の合計申請件数は、57万件です(22年11月末時点)。これは、中小企業者358万社のうち約16%の方が応募したことになります。
それぞれの補助金の採択者数の内訳は「ものづくり補助金※1」が約2万8000件、「持続化補助金※2」が約17万1000件、「IT導入補助金※3」が約8万8000件、「事業承継・引継ぎ補助金※4」が約1000件です。今後はより一層、認知活動に注力していく考えです。
※1「ものづくり補助金」:革新的製品・サービスの開発又は生産プロセス等の改善に必要な設備投資等を支援する目的の補助金
※2「持続化補助金」:小規模事業者等が経営計画を自ら策定し、商工会・商工会議所の支援を受けながら取り組む販路開拓の支援が目的の補助金
※3「IT導入補助金」:中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX、サイバーセキュリティ対策等のためのITツール(ソフトウェア、アプリ、サービス等)の導入を支援する目的の補助金
※4「事業承継・引継ぎ補助金」:令和4年度から実施。事業承継・M&A後の新たな取組(設備投資、販路開拓等)、M&A時の専門家活用(仲介、フィナンシャルアドバイザー、デューデリジェンス等)の取組を支援する目的の補助金
――補助金が活用できる場面や種類を教えてください。
林: 現在の社会情勢を鑑み、多くの企業が課題に感じている「円安環境への対応」「GX(グリーントランスフォーメーション)への対応」「DXへの対応」「インボイス制度の対応」「セキュリティ対策」といった5つの場面で活用できる補助金について説明します。
まず、物価の上昇や輸出に関わるビジネスで多大な影響を及ぼしている「円安環境への対応」です。これは、輸出事業への投資や生産拠点の国内回帰などが考えられます。こうした企業には、ものづくり補助金の「グローバル市場開拓枠」を活用いただければと思います。これは、海外市場獲得を目的とした新製品開発に関わる設備投資を支援する補助金です。
海外市場開拓(JAPANブランド)類型では、海外展開にかかるブランディング・プロモーションなどの経費も支援しています。また、事業再構築補助金※5の「サプライチェーン強靭化枠」では、円安を生かした日本企業の国内回帰を図る補助金も用意しています。
※5「事業再構築補助金」:大胆な賃上げや、グリーンを含む成長分野への再構築、規模拡大促進を目的とした補助金
「GXへの対応」に関しては、グリーン分野への投資を促進する補助金を用意しています。ものづくり補助金の「グリーン枠」を活用すれば、温室効果ガスの排出削減に資する革新的な製品・サービス開発や、炭素生産性向上を伴う生産プロセス・サービス提供方法の改善による生産性向上に必要な設備・システム投資などで補助を受けられます。
また、事業再構築補助金の「グリーン成長枠」では、研究開発・技術開発や人材育成を行いながら、グリーン成長戦略「実行計画」14分野の課題の解決に資する取り組みを行う中小企業等の事業再構築を支援しています。
――海外から見ればまだ遅れているDXに関してはいかがでしょう。
林: 「DXへの対応」には、ものづくり補助金の「デジタル枠」があります。DXに資する革新的な製品・サービス開発やデジタル技術を活用した生産性向上に必要な設備・システム投資などを支援しています。
また、IT導入補助金の「通常枠」を活用すれば、自社の経営課題や需要に合ったITツールを導入でき、業務効率化・売り上げアップといった経営力の向上・強化も図っていただけると考えます。
今年10月からいよいよ施行が始まる「インボイス制度への対応」については、IT導入補助金の「デジタル化基盤導入枠」で、インボイス対応に関わる事務費負担の軽減が可能です。
これは、会計ソフト・受発注ソフト・決済ソフト・ECソフト、PC・タブレット、レジ・券売機などの経費の一部を補助することで、インボイス対応も見据えた企業間取引のデジタル化を推進することを目的とした補助金です。また、持続化補助金では、免税事業者から新たにインボイス発行事業者に転換する小規模事業者の販路開拓の取り組みを支援します。
最後に、デジタル化が進むにつれて早急な対応が必要な「セキュリティ対策」。こちらは、IT導入補助金の「セキュリティ対策推進枠」の活用をご検討ください。中小企業・小規模事業者が、サイバーインシデントが原因で事業継続が困難となる事態を回避するとともに、サイバー攻撃による被害が供給制約や価格高騰を潜在的に引き起こすリスク、生産性向上の阻害低減を目的としています。
――実際に補助金を活用した企業の事例をご紹介していただけますか。
林: まずは、IT導入補助金を活用した岐阜県で運輸業を営む中小企業の事例です。企業規模は、売上高約7億円、従業員は100人ほど。コミュニティーバスと企業・学校の送迎バスを運行しており、デジタル化による業務効率化を目指していました。
そこでIT導入補助金を活用し、バス運行管理システムを導入しました。運行指示書や日報をタブレットで表示できるようにし、月3000枚あった書類を削減。ペーパレス化に成功しました。それに伴い、1日2〜3時間の日報入力作業がほぼゼロになったそうです。効率的な運行や運行状況の見える化により、顧客の拡大にもつながりました。
もう1つは、鹿児島県にある資本金800万円、従業員約10人の自動車整備業の事例です。先端運転支援システム搭載車の普及に伴う整備体制強化と職場環境整備が急務でした。
この企業ではものづくり補助金を活用し、輸入車に対応した最新のアライメント測定機とADASエーミング設備を導入しました。その結果、先進運転システムを搭載した輸入車の整備が最新設備により効率化でき、1台約3時間を要していた整備を1時間以内に短縮、1日の整備可能台数が2台から8台に増加、売り上げの増加につながりました。
――補助金の活用で、業務効率化だけでなく売り上げが拡大していることが印象的でした。それでは、補助金を活用したいけど申請方法が分からない、活用に不安があるといった事業者はどうすべきでしょうか。
林: 活用したい補助金が決まっている事業者は、各補助金事務局のWebサイトを参照するか、コールセンターにお問い合わせください。一方、どの補助金を活用すべきか悩んでいる方は、各都道府県にある「よろず支援拠点」を活用いただくか、当機構の地域本部窓口にご相談ください。
また「事業計画書作成ガイドブック」の活用もおすすめしています。補助金を活用してどう事業の効率化を目指すか、あらかじめ計画を立てておく必要があります。このガイドブックでは、事業再構築補助金において、どのように事業計画を立てればよいかをまとめています。ぜひ一度ご参照ください。
コロナ禍以降、ウッドショック、半導体不足、原油・物価高騰などにより、中小企業を取り巻く経営環境は劇的に変化しています。公的機関も、経営環境変化に応じたさまざまな支援施策を準備しています。今回は生産性向上の補助金について説明しましたが、自社の課題に対して最適な支援策について相談したい場合も、お近くのよろず支援拠点や当機構の地域本部のドアをノックしていただければと思います。
――本日はありがとうございました。
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提供:独立行政法人中小企業基盤整備機構
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2023年2月9日