加賀市で生まれたデジタルイノベーション 石川樹脂工業の挑戦と成功、背景にあるリスキリングへの取り組みとは?

» 2023年03月13日 10時00分 公開
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 現在、多くの企業が命題として掲げているDXやイノベーション創出。その実現のためには、既存の価値観をアップデートしていくことが必須だが、何から着手すればいいのか迷う企業も多い。

 一方で、積極的なリスキリングによりデジタルイノベーションを見事、成し遂げた良例もある。例えば、石川県加賀市に拠点を構える石川樹脂工業。同社はデジタル技術を取り入れることで「1000回落としても割れない」「環境にやさしい新素材」といった時代のニーズに適した新食器雑貨ブランド「ARAS(エイラス)」を誕生させたほか、AIやロボット導入により生産性が以前に比べ1.87倍になるなど驚異的な成果を上げている。

photo ARASの食器。ガラスと樹脂を掛け合わせた新素材が採用されている

 変革の背景にはどのようなストーリーがあるのか。日本企業のリスキリングの第一人者、後藤宗明氏と石川樹脂工業 石川勤専務の対談から探る。

「新しいモノづくり」が目指せる企業で、メーカー時代の経験を生かす

※以下、敬称略

後藤: ARASのけん引もあり、経営状態は非常に堅調だと伺っています。専務は大学卒業後P&Gに入社、その後2016年に家業を継ぐ形で石川樹脂工業に入られたそうですが、P&Gで得たものが現在にどう生きているのか興味深いです。

photo 石川専務(石川樹脂工業 専務取締役)

石川: 例えば、P&Gには会社全体の標語として「Consumer is Boss」という言葉があります。われわれの上司はお客さまであり、ビジネスの中心にはいつもお客さまがいる。お客さま起点で行動するという意味です。

後藤: 日本における「お客さまは神様です」という言葉とは差がありますね。

石川: はい。絶対的な存在として従うのではなく、「声を聞いて考える」という意味では大きく違います。あと、社内では「Do the right thing(正しいことを成す)」という言葉も使われていたのですが、これは当時、僕が所属していたファイナンス&アカウンティング部門では特に重視されていました。財務や経営戦略は、正しいことを成すP&Gを守るためにも機能する必要がありますから。P&Gは、目指す価値、大事にしたい価値観を行動原則に落とすためのストラクチャーが本当によくできている企業です。こういった経営哲学は今も生きています。

後藤: そのように学びが多い環境にいた中で、石川樹脂工業に入られたのはなぜですか?

石川: 30歳を過ぎた頃、このままキャリアアップしていけるか自問自答したんです。そのとき、ふと「P&Gで学んだ経営哲学を生かしながら、父親の会社でモノづくりをしたらどうなるだろう」「楽しそうだな」って、すごく興味を覚えたんですよね。それで、父親にお願いする形で石川樹脂工業に入社しました。

後藤: 組織規模やカルチャーなどに、大きな違いがありそうです。

石川: 想像通り、「やれること」の幅には大きな違いがありました。ただ、社員のレベルが思った以上に高かったのはうれしい誤算でした。やるべきことを丁寧に伝えれば強い責任感を持って業務に向き合ってくれる。この点はリスキリングの成果にもつながっていると思います。

ARASブランドの誕生は「デジタル技術があってこそ」

photo 後藤氏(一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ 代表)

後藤: ARAS が誕生した背景には、デジタル技術があると伺いました。詳細を聞かせてください。

石川: ちょうど僕が入社した当時、金沢市のデザイン事務所、secca(セッカ)さんとご縁があり、一緒に新しいブランドを展開しよういう話がありました。目指したのは「樹脂(プラスチック)の新しい価値提案」。それを具現化したのが、ARASです。もともとseccaさんは、3Dデジタル技術を駆使して伝統的なモノづくりを再定義しようとしていました。3Dデジタル技術を使うと、自社で活用していたCADではできない――例えば、複雑な木目模様といった有機的な線が表現できます。

後藤: ARASは、波打ったような形状が特徴的ですね。

石川: あれは石こうでモックを作ってから3Dスキャンをし、それを金型にできるようデジタル上で修正するといった作業を経ています。ARASをARASたらしめているのは、デジタル技術なんです。

後藤: デジタル技術を使ったからこそ「新しい価値」が生み出せたということですね。非常に面白い。

石川: 伝統的な技術は尊いものです。だけど、既存の技術を組み合わせるだけで「誰も見たことがない風景」を生み出すのは難しいですよね。

後藤: CAD活用という、比較的デジタル化が進んだ環境があったため3Dデジタル技術のリスキリングも受け入れられたんですね。

石川: 僕も入社して驚いたんですけど、図面は紙で作るのが業界標準だった時代から、石川樹脂工業では早々にCADを使いこなしていました。金型技術の部分でもデジタル化が進んでおり、社員が新しい技術に対して抵抗感を持っていなかったのは事実です。

生産性向上に寄与する、ファナック製のAIやロボット導入

後藤: 生産性向上のためにAIやロボットも導入しているそうですね。

石川: ARAS開発以前に、経営面の課題として人件費など固定費を減らすことを考えていました。そこで見直したのが、技能実習生の人数です。技能実習生は4年前まで44人おりましたが、契約満了をもって更新を見送るという判断をすることで7人まで絞りました。それを補うために導入したのが、ロボットです。

後藤: しかし、設備投資が非常に大きいですよね。

石川: 確かにそうです。ただ、生産性向上のため複数施策を打ちましたが期待以上の効果がありませんでした。ゲームチェンジするような何かが必要だと考えたんです。そんなとき、工場を対象にロボマシン事業を展開するファナックさんと知り合い、ロボット導入のメリットを聞いて1台だけ購入しました。使いこなせるか不安もありましたが、ファナックさんから講習など手厚いフォローもあったので順調にリスキリングが進み、稼働につなげられました。そこで手応えを感じて、今では複数台、導入しています。

ALTALT ファナック製のロボット導入により、今まで人手で行っていた成形作業なども全て自動化している

後藤: 3Dデジタル技術の活用、ロボット導入の成功は社員の方のリスキリングが肝になっているようですが、外注や専門人材を採るという選択肢はなかったのですか?

石川: ベンチャー気質のある高専生とタッグを組んで、工場管理に必要なシステムを組み直してもらう取り組みなどは行っています。ただ前提としては、社内で適任者を探しリスキリングを行おうと思っていましたね。ファナック製のロボットについては、現場社員の約7割にリスキリングを実施しています。

後藤: 実際にプログラミングを組んでロボットを動かしているのは、もともと品質管理部で働いていた方だと伺いました。すごいことです。

石川: それはそれで無茶ぶりでしたが(笑)、素養があると思い抜てきしました。何もかも外注していては資金的に難しいですし、できるところは内製化するよう心掛けたんです。

後藤: 専務は、大きな視点を持って適任者を抜てきし、忍耐を持ってリスキリングを行っています。社員の方の自分ごと化を促し、新しいスキル習得へ導き、実際に成果を出している。この好循環を生み出せているのは本当に素晴らしい。これぞリスキリングの真骨頂だと感動を覚えます。

石川: ありがとうございます。17年からはAmazonを通しての販売を行っていますが、22年からはその担当者もまた、マーケターではなく金型担当だった女性社員を抜てきしました。デジタルマーケティングの知識は皆無でしたが、とにかく仕事の手が早く、適性があると確信しました。最初は僕がつきっきりで指導し、Amazonのサポートサービスも併用しながらリスキリングを実施したところ、3カ月ほどでAmazonでの売上は2〜3倍に増加しました。結果的に、Amazonの月商1000万円超えという大きな成果を出してくれています。

後藤: 今後リスキリングを取り入れる企業が留意すべきなのは、石川樹脂工業のようにリスキリングを「目的」ではなく「手段」と捉えることでしょうね。学んだことを実践に生かせなければ、リスキリングとは呼びませんから。

石川: そうですね。新しい業務があって、そこに従事するために新しい技術、スキルをひも付け、実践を通して学んでいくことが大事だと思います。特にデジタル技術のリスキリングは成果物を作らないと知識を会得できませんから、「目的」と「手段」の履き違えには気をつけたいところです。

周囲にある全てを巻き込み、事業の発展につなげていく

後藤: 海外では、まずリーダー層がAI等について学んで業務改善に取り組むといった事例もありますが、専務も同様ですか。

石川: 実は今、個人的にChatGPT(生成系AI)にハマっていまして(笑)。社員と一緒にChatGPTを活用したワークショップを行っています。例えばInstagramの広告テキストを改善させるなどのテーマのもと、ChatGPTにいろいろな改案を出してもらう。それについて社員同士で議論するんです。僕自身が現在、ChatGPTのリスキリングをやっているようなものですから、それが自然と社員に広がっている面はあるかもしれません。

後藤: リスキリングを実施する上では、リーダー自らが学ぶ姿を社員に見せる、その成果を伝えていくことも重要なポイントです。結果的に自身と社員のスキル、もっといえば自社の競争力が同時にアップするわけです。

石川: AIやロボットと人間が一緒に働く世界は、いずれ訪れます。だからこそリスキリングでデジタルを味方につけないと、企業や個人の間でパフォーマンス格差が生まれると思うんです。その結果、最悪を考えれば自社サプライチェーンの一部も倒産するかもしれない。だから石川樹脂工業としてできることがあれば各企業のサポートを行い、一緒になってサプライチェーン全体の生産性を上げるようにしていかなければと強く感じています。

後藤: 周囲を巻き込むことに注力し、サプライチェーン最適化に向けて動いている。それが結果的に、自社の事業発展にも寄与するという考え方ですね。

石川: その通りです。リスキリングは、外部の人を巻き込む必要があるんです。長期間一緒になって、知識ある人に伴走してもらわないと前進しない。この「長期間」というのもポイントで、それができる環境がなければならない。例えば現在、加賀市ではリスキリング宣言を行い、地元企業の活性化を図ろうとしています。伴走者となる市外企業を増やすためにも、市内にビジネスで長期滞在できる宿泊施設がもっと増えるなどするといいですね。

後藤: そこは企業単体ではできないことですからね。あとは助成金などの仕組みも提供してもらえるとさらにありがたい。

石川: リスキリングは、結果が出るまでに時間がかかります。だから、取り組むのに勇気がいるんですよ。それでも踏み切る決断をするためのさまざまな後押しを、自治体には期待しています。

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提供:加賀市役所、株式会社デジタルカレッジKAGA
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2023年3月20日