「フードパントリー」とは、経済的に困窮する人や世帯に食料品や生活用品などを配布する活動を指す。近年、コロナウイルス感染防止の観点から集まって食事をすることができなくなってしまったこども食堂が、フードパントリーの活動を取り入れた例も少なくない。長引くコロナ禍やエネルギー・食料品等の価格上昇の中、経済的に厳しさを増した家庭も多く、ますますニーズが高まっている。
本記事ではフードパントリーについて、どのように成り立っているのか、どのような家庭が利用しているのか、また、食料品を提供するほかにどのような意義があるのか、掘り下げてみたい。似たような言葉で「フードバンク」「フードドライブ」という取り組みもあるが、これらはフードパントリーと相互に関わりながらも異なる活動となる。本記事では次のように整理したい。
フードパントリーを行う団体は、フードバンクやフードドライブを行っている団体から食品を寄付してもらうこともあれば、企業や個人から直接寄付してもらい、それを配布するケースもある。また、フードバンクやフードドライブを行っている団体が、そのままフードパントリーを行うことも。では、実際にフードパントリーを行っている団体に話を聞いてみよう。
東京都足立区でフードパントリーを行っているのが、NPOさくら彩。母体は特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人奉優会で、フードパントリーは2020年11月から実施している。代表の石川正美さんと、グループアシスト・渉外担当の五十嵐圭司さんに、その経緯から聞いてみた。
「もともとは、施設の中にある地域交流スペースを地域のために有効活用できないかということが始まりでした。スペースが高齢者施設の中にあるということで、若い世代にはなかなか使われていなかったのですが、そこを何とか活用していこうと地域の方々を交えて話し合った結果、こども食堂をやろうということになったんです」
活用方法を話し合う「居場所づくり検討会」には、社会福祉協議会の職員や町内会長、民生委員や小学校の副校長なども参加。20年からこども食堂を開くことで話はまとまったのだが、そこへ新型コロナウイルス感染拡大が始まり、食堂を開催することが難しくなってしまった。
「それでも何か代わりにできないかと検討会で模索して、フードパントリーを始めることにしました。食品は、フードバンクを行っている団体や、フードドライブを行っている企業からの支援を中心に、『CoCo壱番屋』を展開する壱番屋さんや『ドミノ・ピザ』を展開するドミノ・ピザジャパンさんなどからも支援を受け、さまざまな食品を渡せるようになっています。施設に入居する方のご家族が、お菓子メーカーに勤務されており、そこからご寄付をいただいたことも」
集まった食品はボランティアスタッフで仕分けをし、1世帯分ずつのセットを作っていく。高齢者施設でのフードパントリーということで、対象となるのは子育て世帯に限らず、食品に困っている世帯や、独居高齢者世帯など幅広い。Webサイトでの発信のほか、地域包括支援センターなど区内施設での案内や、口コミによって利用者は増え、今は毎月100世帯に配布している。
「利用する世帯の中には、コロナ禍で困窮してしまった家庭もあります。継続的にではなく、“ちょっと苦しいので今だけ”とスポット的に利用される家庭も多いです。また、3〜4割はこどもが3人以上いる多子家庭となっています」
スタッフには、検討会メンバーのほかに、自治会・町内会等の婦人部の人々や、地元の高校生、福祉関係の職員など、多くの人が集まるという。
「多様な立場の人が集まることで、フードパントリーの日にはただ食品を渡すだけでなく、『こどもの就学時に制服や教科書を買うお金が厳しい』『仕事で帰りが遅くなり、こどもの夕食が遅れてしまう』といった困りごとや不安など、さまざまな相談に乗ることもできます。必要があれば、行政の支援や他の支援団体を紹介することも。食品は世帯の人数に合わせて量を調整しているため、世帯構成を把握しながら緩やかに見守ることができます」
「地域で子育て」を掲げる町は多いが、昨今では多様な世帯が交わるコミュニティーが少なく、各家庭がそれぞれ孤立しがちだ。大人がこどもたちを見守りたくても、特に大都市圏では近くにいるこどもの存在にも気付きにくくなっているのが現状である。そこへフードパントリーがハブとなって、困難を抱えるこどもや家庭を、必要な支援に結び付ける場ができつつあるということだ。23年4月からは、当初予定していたこども食堂もオープン予定とのこと。多世代交流のできる地域のコミュニティーとして、ますます必要とされていきそうだ。
次に訪れたのは、東京都世田谷区で「せたがやこどもフードパントリー」を行う、せたがやこどもフードパントリー実行委員会。こちらでは20年4月から活動を実施している。同年3月に新型コロナウイルスの感染拡大のため全国一斉休校となった際、6月に学校給食が再開されるまで弁当を配布したが、毎回通ってくるこどもや保護者がいることに目を留めたという。
「緊急事態宣言が出され、非正規雇用の方の出勤シフトが減らされてしまったり、業種によっては仕事ができなくなってしまったりと厳しい状況の中、こどもたちは全国一斉休校のため学校で給食を食べることができなくなりました。その分、出費が増えてしまう家庭や、保護者が働いている間の食事に困る家庭が出てきたんです。学校が再開された後も、日々の食事に困っている家庭があったことから、フードパントリーを始めることになりました」
そう話してくれたのは、共同代表の松田妙子さんと津田知子さん。せたがやこどもフードパントリーは登録制で、高校生世代以下のこどものいる1人親家庭や生活困窮世帯など必要な世帯を対象とし、23年1月時点で約220世帯が登録。実施には登録世帯から配布希望を募り、基本的に毎月1〜2回(夏休みなどは実施回数が増えることも)、毎回約180世帯に配布しているという。ここでは1世帯につき1セットの食材に加え、こども1人ずつに別のセットが配られる。こどもの人数が多い家庭でも、しっかり量を確保できるというわけだ。
「食品は“Amazonほしい物リスト”を通じた個人の方々からの寄付や、企業からの寄付、社会福祉協議会のフードドライブからの寄付などで集めています。毎回必ず入れたいお米や果物、野菜などは、これまで民間の助成金や、国の『こどもの未来応援基金』からの助成金などを使って購入しています」
Amazonほしい物リストとは、寄付してもらいたい食品等を「ほしい物リスト」に入れて公表すると、それを見た人が代わりに購入して配送するという仕組み。リスト作成者は住所を非公開にでき、寄付する人も住所や名前を非公開や匿名にできる。この仕組みを利用して必要な物品の寄付を募っているボランティア団体は多く、寄付する側も金額や商品内容を見ながら、自分にできる範囲で手軽に寄付できるのが便利なところだ。
また、フードパントリーに必要なものは、食品だけではない。集めた食品を保管するための場所には家賃がかかり、配送が必要な場合もある。
「当団体では区内3カ所で実施しているため、実施場所までの配送料がかかります。倉庫家賃などもかかり、こうした出費には個人の方々からの寄付を使わせていただいています」
せたがやこどもフードパントリーにおいても、活躍するのは地域のボランティアたちだ。こちらも前出のNPOさくら彩と同じく、さまざまな立場の人が集まってくる。
「近所の親切な方々が集まるだけでなく、主任児童委員や児童館の職員さんが来たり、夏休みなどには高校生たちが手伝いに来たり、毎回30人ほどがボランティアで集まります」
フードパントリーは、食品や運営資金の寄付だけでなく、仕分け作業や食品の運搬など、誰もがさまざまな形で関われるのがよいところだと松田さん。さらには利用者の間でも「お互いに助け合う」流れができているという。
「例えば利用者さんがまだ使えるこどもの入学式用のスーツなどの衣類、ベビーカーや中高生の参考書などを持って来てくださり、ここで必要な方にお渡しすることも。困っているときには頼ればいいし、もし余裕ができたら今度は助ける側にも回れる。フードパントリーをきっかけにコミュニティーが広がってきたと感じます。民間の活動だからこそ、一つのルールやシステムに縛られることなく、緩やかに人と人とがつながり、細やかな対応ができるのだと思います」
このようにフードパントリー活動は、食料品の配布だけにとどまらず、さまざまな物品の配布を通じて困窮するこどもや家庭を見つけ出し、交流や相談の機会につなげることで孤立を防ぎ、必要に応じて行政や他の支援団体につなげる、地域における困窮者支援のハブ機能を担う側面もある。
食に困っている家庭はまだまだ多く、活動の需要は高まり続けている今。経済政策や子育て支援策など行政の施策も待ったなしではあるが、地域社会においても「困ったときはお互いさま」と自然に助け合えるコミュニティーが重要ではないだろうか。
最後に、フードパントリーではどんな食品が人気なのかも取りあげてみたい。筆者が運営する学習支援団体(中野よもぎ塾)でも、20年3月から生徒や卒業生(中高生)を対象に、地域のこども食堂と連携してフードパントリーを実施している。そこで対象世帯に「もらえるとうれしいもの(食品、日用品)」を聞いてみた。協力してくれたのは18世帯、うち3分の2は1人親家庭だ。サンプル数が少なく、季節による変動もあるだろうが、寄付を考えている方は参考にしてみてほしい。
中野よもぎ塾・上高田みんなの食堂合同調査(22年12月)より
食べ盛りのこどもたちがいる家庭では、やはりお米や乾麺など主食系の消費が早く、支援があると助かるとのこと。お菓子や果物などは今やぜいたく品となっており、普段なかなか買えなくなっているため、こどもたちに喜ばれている。
一方、レトルトカレーやレトルトの丼のもとなどは、「保護者が不在の日に自分で調理して食べられるから便利」「夏休みの昼ご飯には自分でパスタをゆでて、もらったパスタソースをかけて食べていた」というこどももいるが、基本的に1箱・1袋で1食分となるため、家族全員で食べるとなるとすぐになくなってしまう。そのため、保護者が調理する余裕がある家庭や、夏休みや冬休み以外の期間には、野菜や調味料などのほうが需要は高い傾向だ。
このほか、中高生たちからはこのような声も上がっていた。
「おにぎりに巻いたりおやつに食べたりする海苔がほしい」
「部活の大会で勝ったときのご褒美などに、スターバックスなどの券がもらえたらうれしい」
「お刺身が食べたい」
「部活から帰ってきてすぐに食べられるパンがほしい」
未就学児や小学生と、中高生とでは食べる量や好みも異なり、フードパントリーを実施する団体の中でも、どんな世帯がメインの利用者になっているかで寄付してほしい食品のニーズも変わってくるだろう。食品を寄付したいときには、各団体にまずは問い合わせてみてほしい。
(取材・文/大西桃子)
「ケア社会-Care Society-」の実現を目指し、毎月のフードパントリーや弁当配布のほか、高齢者や親子向けのセミナーなども開催
毎月のフードパントリーと合わせて、保護者に官民の支援・サービスに関する情報提供や個別相談も実施
個人や企業それぞれに、困難を抱えるこどもたちを支援する方法があります。一つは皆さまが、貧困状態にあるこどもたちがいることに目を向け、どうすればそうした状況を改善していけるかを考えていただくこと。そしてもう一つは、皆さまが無理なくできる範囲で、そうしたこどもたちに手を差し伸べていただくことです。
「こどもの未来応援基金」※では、個人や企業に広く寄付を募り、寄せられたご厚志を、地域に密着してこどもたちへの支援に取り組む支援団体の活動資金として活用することで、多くの方々の「こどもたちに何かしたい」という気持ちをつないでいます。平成28年度(2016)に活動した団体から令和5年度(2023)に活動予定の団体まで、のべ728の支援団体に総額約15億5300万円の支援を決定しており、応募数も近年増加傾向にあります。
※運営:こどもの未来応援国民運動事務局<内閣府、文部科学省、厚生労働省及び(独)福祉医療機構>
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