食の支援、学習支援、居場所支援などを通じて、経済的に厳しい状況にあるこどもたちを支える活動に、さまざまな民間の団体が取り組んでいる。
その活動を資金面から支えているのは、多くの場合、個人や企業からの寄付や、自治体や国からの助成金などだ。より多くのこどもたちが、安心して暮らし育つことができる社会を目指すのであれば、こうした活動の広がりは必要不可欠だ。そこで今回は、活動を支えるための寄付について考えてみたい。
寄付や社会的投資が進む社会の実現を目指す特定非営利活動法人「日本ファンドレイジング協会」が発行する「寄付白書2021」によると、2020年、個人で寄付をした人は人口の44.1%。個人寄付総額は1兆2126億円に上っており、名目GDPに占める割合は0.23%となっている。
一方で米国では、個人寄付総額34兆5948億円、名目GDP比1.55%となっている。比べるとまだまだ日本は少なく感じるが、東日本大震災が起こる前年、2010年の個人寄付総額は4874億円で、10年間で約2.5倍に伸びていることが分かる。
日本では、寄付というと「赤い羽根共同募金」や、コンビニなどに置かれた募金箱をイメージする人も多いかもしれない。レジで受け取ったおつりを募金箱に入れるようにしているという人もいるだろうが、そのお金がどのように使われているかを調べるという人は、多くはないだろう。何かいいことをしている気分になるけれど、実はよく知らない……。そういう人がまだまだ多いのが現状ではないだろうか。
しかし、寄付についてもう一歩踏み込んで考えてみると、より社会の解像度が上がり、目的を持って寄付することで人生の豊かさが増すはずだ。
まずは現在、こどもの暮らしや学びをサポートする活動において、どのような団体が資金を必要としているのか。日本ファンドレイジング協会でマネージング・ディレクターを務める大石俊輔さんに伺ってみた。
「ここ数年では、こども食堂をはじめとして、学校や家庭以外の居場所づくりの需要が高まっています。コロナ禍以前から低所得世帯や1人親世帯、特に母子世帯で困窮する世帯が増えている中で、保護者が外に働きに出ている間に、こどもたちが栄養の偏りのない食事を安心して食べられる場所のニーズが高まり、全国的にこども食堂が広がってきているというわけです」
確かに、コロナ禍直前の「2019年 国民生活基礎調査の概況」(厚生労働省)を見ると、「子どもがいる現役世帯」(世帯主が 18 歳以上〜65 歳未満でこどもがいる世帯)のうち、「大人が1人」の世帯の相対的貧困率は48.1%と高い割合に上っている。また、「貯蓄がない」世帯は全体で13.4%だが、母子家庭においては31.8%。1世帯あたりの平均貯蓄額も、全世帯で1077.4万円なのに対し、母子家庭では389.8万円となる。
20年以降は、コロナ禍によって収入が減った家庭も出てきており、そこへエネルギーや食料品等の価格上昇なども追い打ちをかけている。筆者が運営に関わるこども食堂で保護者に聞いた話では、「働く時間を増やして収入を確保するために、こどもたちの食事時間がどうしても遅くなってしまう」というケースもあった。
孤食にならず、地域の人に囲まれて安心して食事ができるこども食堂や、仕事から帰ったらすぐに家族で食事をとれるようなお弁当配布の活動については、ニーズの高まりとともに現在全国的に広がってきている。
このような、生きていくうえでの基盤となる「食」の支援のほかにも、こどもたちに必要な支援は多岐にわたっていると大石さんは話す。
「今は食だけではなく、さまざまな体験の機会を提供する、人や地域とのつながりをつくるといった活動の必要性も高まっています。家庭の経済格差によって、こどもたちには体験の格差も生まれています。本を買ってもらって読んだり、さまざまな場所に出掛けて文化的なものに触れたり、何か習い事をするといった体験ができる子と、できない子の差も大きくなっているのです。どのような家庭の子も豊かな体験を経て育つことができるよう、さまざまな大人たちと触れ合いながら体験の機会を提供する団体も、重要性が高まっています」
人とのつながりという面では、こどもだけの問題ではなく、仕事と子育てに追われて地域から孤立する親や、独居高齢者の孤立問題などにも関わってくる。こども食堂においても、世代に関係なくさまざまな人に来てもらうことで、地域コミュニティーの拠点としての役割を担う団体は少なくない。
「地域コミュニティーの拠点として受益者を広げて活動することで、『あそこに来ている子は困窮家庭の子だ』とレッテルを貼られることなく、こどもがより安心して通える場所になるというメリットがあります」
さらに、コロナ禍でますます需要が高まっている活動として、不登校児童生徒への支援も挙げられる。文部科学省が22年10月に公表した「令和3年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によれば、不登校児童生徒は9年連続で増加し、20年度には児童生徒1000人あたり20.5人、21年度には25.7人となっている。
「学校に行けないこども、行かないという選択肢を取るこどもが増え続けている中で、フリースクールやホームスクールといった、オルタナティブスクール(学校教育法で定められた学校以外の学びの場)を運営するNPOなども増えており、そこへの支援も集まってきています」
学校や家庭だけでなく、また経済的な問題の有無に関係なく、地域の中でさまざまな人たちと関わりながらこどもを育てていく。こどもを支える活動は今、このように多様性を見せてきている。それら一つ一つの活動には、物品や場所を確保するための費用や、人件費を含めた運営費用が欠かせないものとなっている。
さまざまな民間の活動を支えている寄付だが、現在は寄付の方法も多様になってきている。
「日本ではクラウドファンディングが12年に登場。オンライン上で不特定多数の人から少額ずつ資金調達できる仕組みで、クラウドファンディングのプラットフォームを通じて、応援したいと思う活動を選んで寄付できるようになりました。また、寄付する際の決済方法も変化しています。現金に代わるクレジットカード決済による寄付は、09年には個人寄付総額の5.3%だったところ、20年には25.5%と大きく伸びています」
現在はインターネットを使った寄付が増えてきていると、大石さん。ショッピングやクレジットカードでためたポイントを、オンライン上で寄付に充てる仕組みも出てきている。
また、総合オンラインストアの「Amazon」では、自分がほしい商品をリストに登録・公開して、ほかの人から商品を購入してもらうという「ほしい物リスト」を利用して寄付を募る団体も増えている。コロナ禍に見舞われた20年には、こうした団体や施設のリストをジャンル別にまとめた「Amazon『みんなで応援』プログラム」が立ち上がり、こどもを支援する団体も多くリストに参加している。
内閣府などが事務局を務める「こどもの未来応援基金」では、NTTドコモが「dポイント」で寄付を受け付けている。そのほか、物品の買い取り価格が同基金に寄付される「こどものみらい古本募金」などを展開している。これらは、読み終えた本や聴かなくなった音楽CDなどを提携事業者に送ると、その買い取り額がこどもの未来応援基金に寄付されるものだ。
また、「こどもの未来応援クリック募金」は、特設サイトのバナーをクリックすると、その人に代わって賛同企業が同基金に寄付をする仕組みだ。このほか、支払う代金の一部が同基金に寄付される「寄付付き商品」や「寄付型自動販売機」など、さまざまな仕組みが広がっている。
「寄付行為については、まずは消費の延長という感覚でも、『やってみよう』と思って行動することが大切です。寄付の経験を通じて『どのように使われているのだろうか』『ほかにはどんなところが寄付を必要としているのだろうか』と考えて、自分の興味関心と社会課題を無理なくつなげていければ、自分らしい寄付につながっていくと思います。結果として寄付行為が成熟していくのではないでしょうか」
身近な方法から寄付を始めてみることで、より多くの人が社会の一員としてさまざまな課題に目を向け、解決に向けて主体的に動けるようになれば、と大石さんは話す。自分のできる範囲で、まずは動いてみていただきたい。
寄付については「偽善だ」と感じる人や、「どんなメリットがあるのだろう」と疑問を持つ人も、まだまだ多いかもしれない。社会的課題なら、国や自治体が対応するべきだという声もあるだろう。
一方「民間による寄付だからこそ、大きな意味がある」という指摘もある。これについて『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』(発行:日経BP、日本経済新聞出版)の共著者で、明治から大正にかけて活躍した実業家、渋沢栄一の玄孫(やしゃご)にあたる、渋澤健さん(シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役)に聞いてみた。
「国民からの声を公に反映させていくのが、民主主義の社会です。議員を選んだり、税金を公のために使ったりすることもそうですが、寄付も国民からの声を公に反映させていく方法の一つです。では税金とは何が違うかというと、その使い道を自分で選び、意思を示すことができるという点です」
こどものために使ってほしい、環境を守るために使ってほしいなど、自分が解決したい社会課題に直接的にアプローチできるのが寄付という行為。「自分が出資したお金が誰かの役に立ち、『ありがとう』という言葉につながっていることを、税金より、もっと感じられるはずです」という。
「寄付は、活動による受益者だけでなく『この人の活動を応援したい』と共感できる活動者を応援することもできます。さまざまなところに寄付が届いていくことで、その寄付を受けるNPOなどの間でも競争力が働き、運営の公正性や活動の効果を高めていくことも可能です。困っている人の全てに行政だけが対処するのではなく、自分たちの力で何とかしようと考えることも、国を成長させるためには必要なこと。国民が主体的に考えることができなくなり、国民の声が上がらなくなっていくと、戦争など悪い方向に行ってしまうというのは歴史からも分かっていることですよね」
税金を行政に反映させてセーフティネットを築き、守ることはもちろん必要だが、国民一人一人が主体的に考えて動き、社会をよりよくしようとすることも同じくらい大切なことだと話す。
渋澤さん自身も、さまざまな支援団体の活動を実際に見るたびに思い浮かべるのが、渋沢栄一の「一滴のしずくが集まることで、大きな河ができる」という言葉だという。渋沢栄一は日本初の銀行「第一国立銀行」(1873年/明治6年創設)を作った人物としても知られているが、その株主募集布告の際に、この言葉を使っている。
「『銀行は大きな河のようなものだ。銀行に集められていないお金は、溝にたまっている水や、ポタポタと垂れているしずくと変わりない。人を利し国を富ませる能力があっても、一滴ずつではその効果は現れない』。渋沢栄一のこの言葉は、寄付にも当てはまります。一滴ずつのしずくが集まることで、大河のように強い原動力を持った流れができ、社会を変え得る力になるのではないでしょうか」
企業も近年はCSR(企業の社会的責任)の一環として、さまざまな団体・施設に寄付をすることが増えている。こどもを支援する活動への寄付については、今のこどもたちの生活を支えることで、将来の顧客獲得につなげていくという考え方もあるが、渋澤さんによれば、今は世界的に「経済活動とは別の軸で、企業価値を高めることを重視する経営者が増えてきている」とのことだ。
「これまではリスクとリターンという二次元の経済的価値判断だったところ、最近はそこに環境・社会課題解決という“インパクト”の軸をもう一つ入れて、3次元で企業の価値を判断する流れができています。社会に対してどれだけのインパクトを生み出しているかに階級をつけて、価値を計ろうという動きです。マイナス方向だとCO2排出量を増やしているなどが挙げられますが、プラス方向では雇用創出など、顧客や株主だけでなく、さまざまなステークホルダーにどれだけ価値を生み出しているかということが計れるようになっているのです」
そもそも人は一人では生きられない生き物であり、民主主義の国では国民一人一人が社会の一員としての責任を持って生きることが大切。それと同様に、企業もまた、社会の中でどのような責任を果たし、価値を生み出しているかが問われているのだという。
こうした考えのもと、こどもたちの暮らしや成長を支える寄付が増えていけば、そのこどもたちもまた次の世代を支える力を得て、社会を成長させていくことができるだろう。そのバトンをうまく渡すことができるか、今、私たちの行動が問われている。
(取材・文/大西桃子)
寄付・社会的投資が進む社会の実現を目指して09年に設立。民間非営利組織のファンドレイジング(資金集め)に関わる人々と、寄付など社会貢献に関心のある人々のためのNPOとして、認定ファンドレイザー資格制度や「ファンドレイジング・日本」、こども向けの社会貢献教育、遺贈寄付の推進、寄付白書の発行などに取り組む
1961年生まれ。1987年UCLA大学でMBA取得、外資系の金融機関やファンドを経て2001年に独立、シブサワ・アンド・カンパニー設立。08年コモンズ投信設立。23年に幹事として務めている経済同友会の下でアフリカ向けインパクトファンドの運用会社&Capital設立
個人や企業それぞれに、困難を抱えるこどもたちを支援する方法があります。一つは皆さまが、貧困状態にあるこどもたちがいることに目を向け、どうすればそうした状況を改善していけるかを考えていただくこと。そしてもう一つは、皆さまが無理なくできる範囲で、そうしたこどもたちに手を差し伸べていただくことです。
「こどもの未来応援基金」※では、個人や企業に広く寄付を募り、寄せられたご厚志を、地域に密着してこどもたちへの支援に取り組む支援団体の活動資金として活用することで、多くの方々の「こどもたちに何かしたい」という気持ちをつないでいます。平成28年度(2016)に活動した団体から令和5年度(2023)に活動予定の団体まで、のべ728の支援団体に総額約15億5300万円の支援を決定しており、応募数も近年増加傾向にあります。
※運営:こどもの未来応援国民運動事務局<内閣府、文部科学省、厚生労働省及び(独)福祉医療機構>
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