「エンタープライズ・メタバース」で変わるビジネス 産業DXの鍵になるワケ IBMのレポートを読み解く

» 2023年04月18日 10時00分 公開
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 2022年はITの業界における一つの転換期であった。メタバースが大きな注目を集めたことで「メタバース元年」と呼ばれるようになり、仮想空間を舞台にしたサービスが次々と生まれ、没入感を高めるVR(Virtual Reality)ヘッドセットの新モデルも続々と登場した。現時点ではイベントやゲームなどコンシューマー向けサービスがほとんどだが、市場の拡大に対する期待は過熱している。

 そうした中、メタバースが企業や組織の業務効率化やDXを進める鍵になるという見方がある。例えばVRやAR(Augmented Reality)、MR(Mixed Reality)で業務をアシストする、現実世界を仮想空間上に再現する「デジタルツイン」を活用するといった内容だ。

 実際、日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)では23年が「エンタープライズ・メタバース元年」になると予想する。既存のB2Cサービスだけではなく、B2B2CやB2Bの領域でもメタバースがもたらす価値は増大するというものだ。エンタープライズ・メタバースは企業のビジネスをどう変えるのか。そして企業はどのような技術を使い、どう取り組めばいいのか。

 日本IBMが2月に発表したレポート過剰な期待に沸くメタバース市場、その先にある真のポテンシャルとは?詳細はこちら)を基に、その著者の一人である同社の鳥巣悠太氏の解説からその可能性を解き明かしていこう。

photo レポートについて解説する日本IBMの鳥巣悠太氏(Future Design Lab. Institute for Business Value マネージング・ストラテジー・コンサルタント)

メタバースは黎明期 「体験して理解した」層は3%にとどまる

 そもそもメタバースとは何か。解釈の幅が広い単語だが、日本IBMはレポートの中で次のように定義している。

本レポートではメタバースを「3D空間技術を用いてインターネット空間上に創出された、仮想世界や仮想空間の総称」と定義する。また、メタバースで活用される技術要素の中に、VR(Virtual Reality)に加え、AR(Augmented Reality)やMR(Mixed Reality)といったXR技術全般を含める。

 今、メタバースは世界的なトレンドになっており、米Meta(旧Facebook)は社名を変更して開発に取り組んでいる。またゲーム「フォートナイト」は月間アクティブユーザーが6800万人を突破。日本でもIT企業などを中心にさまざまなプレイヤーがこぞって参入し始めている。

 市場拡大に向けた期待はふくらみつつあるが、メタバースはまだ黎明期というのが現実だ。個人消費者を対象にした日本IBMの調査「メタバースWebアンケート調査」(22年9月実施)では、メタバースを「体験して理解した」と答えたのは回答者の約3%、「未体験だが理解している」は約21%であった。

photo メタバースの体験と理解についての調査結果(n=1105、単一回答/提供:日本IBM/クリックで拡大)

 こうしたことから日本IBMは、メタバースに対する理解には個人差があり、B2Cの市場が本格的に拡大するにはまだ時間を要すると見ている。またこれはB2B2CやB2Bの市場においても同様であり、ビジネス向けのメタバース活用について、DXなど事業変革の手段の一部として今後徐々に浸透していくことが見込まれる。いずれにしても、ユーザーの満足度を向上するためにニーズや課題を正確に捉えることで、取り組みが前進するという点では両者は共通しているといえるだろう。

感情も五感も適度に共有 コミュニケーションの課題解決に

 個人のニーズや課題解決に応えられるメタバースを実現する上では、コミュニケーションが果たす役割が大きい。日本IBMの調査では、対面やメール、ビデオ通話といった従来のコミュニケーション手段では「伝えたい事がうまく表現できない」「扱える情報の種類が限られている」という課題を感じている回答が目立った。

 同社では、人々がコミュニケーション手段に「情報を補完する機能」が求められていると分析。メタバースを活用することで、3つの観点から課題を解決できるとした。

 1つ目は「アバターの感情表現による情報の補完」だ。アバターの表情やジェスチャーを変える機能を使うことで、自分の感情を伝えやすく、相手の反応を読み取りやすくなる。2つ目は「ARやMRによる情報の補完」だ。現実世界にデジタル情報を付加できるため、対話や文章では伝えきれない情報をイラストや動画といった視覚情報として伝えられる。3つ目は「人間の五感による情報の補完」だ。触覚や味覚、嗅覚をメタバース上で再現できる機器が登場しており、「この味がおいしい」といった個人の感覚まで共有可能になるという。

 また学校や企業といったコミュニティーにおける個人の課題を調査した結果、「人間関係が煩わしい」「新しい人との出会いがない」「活動内容がマンネリ化」といった不満を感じる声が多かった。これらもメタバース上のアバターを介した交流であれば、相手との心理的な距離を保つことでストレスを減らすことができ、遠方の人とも実際に会っている感覚を再現できるといえる。

 こうしたコミュニケーションおよびコミュニティーの課題改善に向けたメタバース活用は、B2CやB2B2C領域だけでなく、B2B領域への応用も可能だ。例えば顧客へのプレゼンテーションをより効果的に行う、ハイブリッドワークになった組織内のコラボレーションをさらに促進するなど、ビジネス現場でもコミュニケーションやコミュニティーの充実化が求められている。メタバースがそこに応えるのだ。

観光や医療のメタバース満足度は低め B2B2C領域に必要なのは?

 では実際にメタバースをどう活用できるのか、日本IBMが調査したメタバース体験の満足度から考えていく。

 回答のうち「とても良かった」「まあまあ良かった」と好意的な反応の割合が多いのは「イベント」「ショッピング」「ゲーム」で、上位3つはB2C系のサービスであった。一方で「広告」「観光」「医療/治療」などB2B2C系のサービスの満足度は相対的に低い傾向にあった。

photo メタバースを体験した感想(ジャンルごとに単一回答/提供:日本IBM/クリックで拡大)

 さらに満足度を答える際に「重要視した点」の回答から興味深い考察ができる。イベントやショッピング、ゲーム、コミュニケーションは「コンテンツの内容」を重視している割合が30%前後で最多だった。つまりB2Cサービスでは、コンテンツの内容を魅力的にすることが求められる。

 一方で、B2B2Cサービスの教育/訓練や広告、観光、医療/治療は「コンテンツの操作性」「使用した機器の性能/操作性」を重視している人の割合が多い。つまり、操作性を向上させるなどコンテンツと機器の両面から信頼性を上げることで満足度を高められる。

photo メタバースの体験で重要視した点(提供:日本IBM/クリックで拡大)

 日本IBMはレポートの中で「コンテンツと機器の洗練化を両輪で進めることで、市場の広がりが期待される」と示す。ただし、観光や医療/治療、教育/訓練といった領域では、業界特有の法令への対応や利害関係者との調整が不可欠など乗り越えるべき壁や課題も多い。これらは、IT事業者や各産業に精通するパートナーとの連携が欠かせないことから、今後はB2B2C領域ではオープンエコシステムの形成が進むと同社は予想する。

期待が高いARの可能性 業務プロセスの転換も視野に

 実際に人々はメタバースにどのような期待を抱いているのか。メタバースの機能ごとに魅力度を聞いた日本IBMの調査では、VRの魅力度はARやMRと比較すると若干低い傾向にある。現在主流のイベントやゲームはVRを活用したものが多いが、それらを実際に体験して価値を理解している人はごく一部の先行ユーザーにとどまる。これからメタバースを使い始める大多数の人たちに、その魅力度を理解してもらうにはもう少し時間を要するかもしれない。

 比較的支持される傾向が強かったARやMRを活用した「情報付加」の機能としては、目的地までのナビゲーションや家の構造の検証、車のデザイン確認などが当てはまる。現実世界の生活をより便利かつ快適にするという、誰でも想像しやすい機能への期待が現時点では相対的に大きいと同社は分析する。

 ARやMRの技術は工場のDXや作業支援など産業現場においても効果的だ。10年代前半から進むデジタルツインや「インダストリー4.0」「スマートファクトリー」「インダストリアルIoT」といった産業現場の改革は、現場のデータを蓄積してリアルタイムでの可視化やAIでの分析を可能にした。ここにARやMRを組み合わせることで、データから導いたアクションを現実世界にフィードバックでき「企業は単純な『業務効率化』の枠組みを越え、ビジネス・プロセスの抜本的改革やサービス・モデルの転換が可能となり、新たな価値を生み出すことができる」(日本IBM)。

 こうしたB2Bのエンタープライズ・メタバースはやがて、企業の基幹系システムやデジタル上の産業横断サプライチェーンとも連携していくと想定される。そうした取り組みは単独ではなく、知見を持った専門性の高い企業とパートナーシップを組んで進めることが理想的だ。

エンタープライズ・メタバースを活用したDX そのポイントは?

 日本IBMのレポートを読み解くと、これから市場が広がるエンタープライズ・メタバースに取り組む上では、「メタバース領域の技術や知見」を生かすことはもちろんのこと、「企業ITやDX領域の総合力」を組み合わせて活用する重要性が強調されていた。最後に同社の提言を紹介したい。

  • 「メタバースありき」ではなく「企業の課題解決ありき」でのソリューション実績が肝心
  • 産業DX推進に向け、メタバースに限定されない包括的な技術力の獲得とエコシステムの形成が必須
  • アジャイル型経営を基軸とした、顧客のデジタル組織強化とマインドセット変革が急務
  • 社会課題解決とサステナビリティー実現を前提としたメタバースの推進が不可欠

 まず、「メタバースありき」ではなく、企業の課題を解決して産業DXを推進する手段の一つとしてエンタープライズ・メタバースを捉えることで、技術を適材適所に活用し企業の成長や事業改革につなげられるといえる。そのためにはメタバースに限定されない包括的な技術力が必要なため、エコシステム内の企業間で連携しながら取り組みを進めることが重要だ。

 次に、企業にはビジネスや社会の目まぐるしい変化に臨機応変に対応し、スピード感を持ってビジネスを推進するための、「アジャイル型経営」が必須となりつつある。エンタープライズ・メタバースを促進するためには、アジャイル型経営を定着させるべく、パートナーと共に組織変革や意識改革を進めることが肝心となる。さらに、収益を上げるという短期的な視点に加え、SDGsなどを意識した中長期的なビジョンの下で社会課題の解決やサステナビリティーに重点を置く企業との協業を進めることも重要だ。

 そうした企業の代表例が日本IBMだ。メタバース領域の技術や知見だけでなく、企業ITやDX領域の総合力を合わせて活用することで、エンタープライズ・メタバースの先端を走っている。例えば、B2B2C分野では大手医療機関とタッグを組み、医療施設を再現したメタバース空間を起点に、病院内を仮想体験したり、患者と家族が仮想空間で交流したりできる医療サービスを作っている。またB2B領域では大手製薬会社と共に、AR技術やデジタル基盤を活用することで、医薬品の生産プラントやオペレーションのデジタル化を進めている。

photo エンタープライズ・メタバースに必要なケイパビリティー(提供:日本IBM/クリックで拡大)

 これまでメタバースはエンターテインメントの領域で成長し、技術を確立してきた。これからはその技術や明らかになったニーズを基に、企業や組織の課題解決につなげていく段階だ。自組織のDXに役立てる、あるいは新サービスでビジネスを拡大するなど可能性は広がる。

 「今後数年間で、技術やコスト、法整備といった多面的な課題が解消され、エンタープライズ・メタバースはより身近な存在となり、さらに大きな価値を生み出すようになるでしょう。日本IBMはこの領域において幅広いケイパビリティーを保有しており、あらゆる業界の企業様やビジネスパートナー様をご支援できます。未来への期待を胸に、今から日本IBMと共に準備して参りましょう。」(鳥巣氏)

photo 日本IBMの鳥巣悠太氏

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2023年5月28日