DX実現のために、さまざまな企業が新たなビジネスモデルの創出に取り組んでいる。例えば従来は買い切り型の製品を販売していた企業がサブスクリプションサービスを立ち上げ、これまでになかったソリューションを生み出したり、新規の顧客層にリーチしたりするケースは多い。しかしこうしたビジネスの場合、その後の顧客の契約継続に課題を抱えることも少なくない。
サブスクリプションモデルの採用によって顧客との関係性が、“買って終わり”ではなく継続的なものに変わった今、同時に顧客と最前線で密接にかかわる営業組織にも変革が迫られている。そこで重要になるのが「カスタマーサクセス」の存在だ。
このDX時代に営業組織とカスタマーサクセスはどのように在るべきか。ITmedia ビジネスオンラインが2023年5月15〜18日に開催したオンラインイベント「Digital Business Days Webinar」ではそのヒントを紹介した。今回はカスタマーサクセスのパイオニアである、Gainsight 日本法人の代表取締役社長 絹村悠氏の講演「DX推進の要!カスタマーサクセスを中心に据えた営業組織変革とは?」から、その在り方を探っていく。
まずはなぜDXにカスタマーサクセスが必要なのかを改めて整理する。DXの推進によって、メーカーからすれば今までにないようなサービスを提供したり、自社が保有するデータなどを活用してこれまでにないニーズにリーチし新たな顧客を獲得したりできるようになった。マネタイズの方法も、売り切り型からサブスクリプションに代表されるリカーリング型へ移行が進んでいる。一方、顧客にとっては初期投資を抑えて利用料だけで簡単にサービスが利用でき、事業に合わなければすぐに別のものに乗り換えるなどその時々で最適なサービスを選べるメリットが生まれた。
こうした関係性を継続していきたい企業と継続の縛りがない顧客との意識のギャップを埋め、関係性をつなぎとめるのがカスタマーサクセスの役割だと絹村氏は指摘する。
「従来の『ゆりかごから墓場まで』といわれる営業モデルのままでは、顧客の解像度が契約を獲得したときに最高で、そこから徐々に低下していく。顧客の視点から見てもベンダーの存在感が薄れていくので、ある日突然解約される可能性が高い。これを防ぐために、営業とは別に、既存の顧客に専門のナレッジを持って対応していく役割・プロセスとして登場したのがカスタマーサクセスだ」(絹村氏)
具体的にカスタマーサクセスは何を実現するのか。絹村氏によれば「カスタマーサクセス(CS)=顧客体験(CX)+顧客成果(CO)」の方程式で説明できるという。この方程式を分かりやすくする身近な例として、絹村氏はジムでのユーザーの体験を挙げる。
例えば、ジムの入会前に施設内のツアーや器具の説明などさまざまなもてなしを受け、魅力を感じて契約し、会員カードを受け取る。それ以降はジムに行けばいつでもきれいなトレーニング機器が使えて、トレーナーが笑顔で対応してくれる。ここまでが顧客体験だ。しかし絹村氏は、こうした体験だけではジムを永続的に利用する理由にはならないと強調する。ユーザーが求めるのは体脂肪率や体形の改善であって、その効果が実感できなければいずれ解約してしまう。また、当初の目標を達成できた場合にも解約や休止する可能性があるため、「最初に5キロ減量したいと言っていたユーザーがそれを達成したらその次の目標を提示するなど、“顧客に成果を定義し続けていくこと”が重要だ」。
顧客に成果を届け続けるための方法として、同氏は「カスタマーサクセス シン10の原則」を提案する。そもそもカスタマーサクセスという概念が広く普及したのは、米GainsightのCEO ニック・メータが13年に提唱した「カスタマーサクセス10の原則」がきっかけだが、そこから10年経った今、時代に合わせて一部内容を刷新したのがこのカスタマーサクセス シン10の原則だ。
この中でまず押さえておきたい項目が「NRRを深く理解する」「営業からカスタマーサクセスまで統合されたジャーニーを作り上げる」「カスタマーサクセスは指標主導で進める」ことだと絹村氏はいう。
NRRとはNet Revenue Retentionの略で、日本語では売上維持率という。簡単に言えば、前年や前月と比較して既存顧客からの収益がどのぐらい増減したかを見る指標だ。例えば昨年100円のプランを契約していたユーザーが、今年は150円のプランに変更していればNRRは150%。50円のプランに変更していた場合は50%というように見る。このNRRが、既存の顧客と関係を深められているか分かる非常に重要な指標になる。
このNRRは以下の図のように、新規の売り上げ(図中A)、更新の売り上げ(B)、拡大の売り上げ(C)の3要素から構成されている。
「NRRにおいて上段の『新規獲得』で構成される売り上げはごく一部。正しく既存のお客さまと向き合える組織ではBとCの売り上げが年々増加し、Aを大きく上回る。つまりNRRを最大化するためのポイントは、下段の『既存拡大』のプロセスの中でどこに課題があり、そこに営業とカスタマーサクセスがどう関与していけばいいのかを理解して実践していくことにある。そのために重要になるのが、セールスチームを変化させ、営業からカスタマーサクセスまで統合されたジャーニーを作り上げることと、カスタマーサクセスを指標ドリブンで進めることだ」(絹村氏)
そしてセールスチームを変化させ、顧客に成果を届けていくためには、次の5つのポイントをカスタマーサクセスと営業のプロセスの中に落とし込んでいくことが大切だと絹村氏は説明する。
1. 顧客が自社のサービスに何を求めているのか、どのようなビジネス成果を期待しているかを理解すること。2. 契約後の顧客のステージを定義して管理すること。3. 既存の顧客に対するカバレッジモデルを考えること。4. 商材タイプと商談タイプを鑑みて、商談オーナーを検討すること。5. アカウントプランの作成プロセスにカスタマーサクセス部門が関与することだ。中でも重要になるのが1と5だという。
1の顧客が期待するビジネス成果を把握する際には、あわせてそれを実現するため顧客が実装すべき業務フローやプロセスの提案と、実際にその業務フロー・プロセスを通して達成できたことを計測する指標を出すことも必要になる。
例えば、従業員が画面から簡単な質問に回答していくだけでストレス度合いをチェックできるSaaSアプリケーションがあると仮定する。これを提供する時に間違えてはならないのが、顧客が求める成果は簡単にストレスチェックのログが取れることではなく、最終的に従業員のストレス度合いが下がり、定着率が向上していくことにあることだ。ただ、顧客がビジネス成果として求めるものは組織の事業課題によって異なるため、まずは営業が顧客の求めるものを正しく把握することが重要になる。
さらにアプリを使うことと、ゴールである従業員の定着率が向上するまでの間には、いくつかの段階が存在する。そこでアプリの計測結果を活用して、管理職が1on1の中でヒアリングをしたり、人事部門が各部門のマネージャーに対して改善に向けたアドバイスをしたりする必要がある。こうした業務フローやプロセスを定義し、顧客に提案するとともに、その効果を測定する指標を算出する。例えば、1on1を通じて従業員のストレス度合いが何%改善されたかなどを数値化し、先行指標として顧客に伝える必要がある。これを繰り返すことで職場環境が改善され、従業員の定着率が上がるという流れが生まれる。
「こうした活動を営業とカスタマーサクセスのプロセスが協働して実施する。まず営業がお客さまの大きなビジネス成果に合意して、そこからオンボーディングやカスタマーサクセスのプロセスの中で業務フローに落とし込む。そしてその結果を指標で捉えて、定期的にお客さまに『先行指標を見ても成果が出ており、お客さまが求めていたビジネス成果に向けて前に進んでいますよ』と説明する。こうした活動によってお客さまが成果を実感できて契約を更新するとか、さらなる取り組みのために他のサービスを契約するといった意識の変化が起こる」(絹村氏)
また、営業がアカウントプランを作成する際に、カスタマーサクセス部門が関与することも重要だ。
「カスタマーサクセス部門は自社のサービスがどのような成果を出しているかを一番よく理解するポジションになる。商談の場にカスタマーサクセスが同行し、他のお客さまの成果事例などを共有することも必要だ。契約後はカスタマーサクセスチームがその内容にもとづいた形でお客さまをハンドリングしていき、営業とカスタマーサクセスの両面から関係性を作り上げていく。こういった取り組みを通して、組織の中に営業とカスタマーサクセスの2つを軸にした新たな成長モデルを築き上げられる」(絹村氏)
Gainsightでは、カスタマーサクセスを自社に実装、最適化するためのコンサルテーションから、取り組みを加速させるアプリケーションまで一貫して提供している。また、ここでは紹介しきれなかった「カスタマーサクセス シン10の原則」の残りの項目の解説動画を公式サイトで公開している。これからカスタマーサクセスを立ち上げたい、あるいは見直したい企業はぜひGainsightに相談してみてはいかがだろうか。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2023年6月13日