ただの行政改革でも、デジタル化でもない――都庁「シン・トセイ」の裏側 “自治体DX”成功のヒントを探る

» 2023年07月28日 10時00分 公開
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 東京都が進める都政の構造改革「シン・トセイ」。2020年8月からスタートした取り組みはペーパーレス化やFAXレス化、行政手続のデジタル化などさまざまな成果を上げ始めている。

 PCやスマートフォンなど業務端末の整備や、クラウドサービスの導入といったデジタルツールの活用を積極的に推進。都庁本庁部門におけるコピー用紙の調達量は16年度に比べて約70%も削減できた。

 こうした取り組みは職員からも支持されている。改革の第2期「シン・トセイ2」の終盤に当たる22年末に実施した、職員のデジタル環境に関する満足度調査では「大いに満足」「やや満足」と回答した人数が初めて「やや不満」「大いに不満」を上回った。

 都庁では業務のデジタル化にとどまらず、働き方や職員の意識、制度や仕組みの変革にまで踏み込むことで、行政サービスの質を高めようとしている。都政のQoS(クオリティー・オブ・サービス)の向上を目指して、23年1月からは改革の第3期「シン・トセイ3」を推進中だ。

 こうした大胆な取り組みは東京都だからできたことで、他の自治体には難しいと考える人も多い。しかし取材を進めると、出発点になった課題感はどの自治体にも共通するものだった。都庁の事例から“自治体DX”を成功に導くヒントを探る。

photo シン・トセイに取り組む都庁のメンバー

最初から“ICT歓迎”ではなかった 当時の意識とは

photo 都庁の藤井淳さん(デジタル改革 担当課長)

 シン・トセイを進める中で、都庁職員の働き方は大きく変化した。未来型オフィスを整備した部門の職員に業務用スマホを導入しており、職員間の連絡がスムーズになっただけでなく、資料作成の一部をスマホで行うこともあるという。さらにコラボレーションツールのチャット機能を使うことでコミュニケーションが活発になった。メールの文頭に付けるあいさつ文が不要になり、さらに「いいね」を付けられるなど気軽に連絡できるようになったと都庁の藤井淳さん(デジタルサービス局戦略部 デジタル改革担当課長)は話す。


photo 都庁の野村健一さん(情報化推進担当課長)

 しかし、最初からデジタルツールが受け入れられていたわけではない。改革初期は、デジタル化やICT活用の意味を理解してくれない職員もいた。庁舎外でもスマホでメールを確認できるようにしようとしたら「何かあったら庁舎にいる職員が必要に応じて電話をくれるから心配いらない」と言われたこともあるなど、デジタルツールの活用に対する当時の認識はまだまだ低かったと都庁の野村健一さん(デジタルサービス局デジタル基盤整備部 情報化推進担当課長)は振り返る。

インターネットを満足に使えない デジタル環境の大きな課題

 デジタル環境にも大きな課題があった。16〜18年ごろまでインターネット活用の必要性について庁内の理解が十分に深まらず、必要な回線の増強等が実施できていなかった。このため、当時すでに民間では活用が広がっていたインターネット経由のサービスを使うのは困難という状況。出張前に地図サービスで現地を確認する、動画投稿サイトで都庁の広報動画を確認するといった基本的な用途さえ厳しかった。

 これには大きく2つの理由がある。1つは「PCは文書作成と表計算ができれば十分」という思い込みが根強かったこと。もう1つは、自治体の業務環境や総合行政ネットワーク(LGWAN)とインターネットに接続する環境を切り離すよう要請した国のガイドラインに対応していたことだ。クラウドの活用など到底できない状況だったと野村さんは話す。

シン・トセイの姿 「ただの行政改革でも、ただのデジタル化でもない」

 都庁の一部職員たちは状況を打開したいという思いを持っていたが、組織内での理解が追い付いていなかった。大きな転機になったのが、宮坂学さんが副知事に就任した19年だ。大手IT企業から転身した宮坂副知事は、デジタル化の意義を訴えて改革に着手。さらに国がクラウドサービスの活用を後押しするよう方針転換したことで、都庁のDXが前進することになった。

photo 都庁の太田泰道さん(デジタル改革課長)

 さらにコロナ禍でチャットやオンライン会議などコミュニケーションの多様化ニーズが高まり、シン・トセイ推進への職員の支持が広がった。20年に構造改革推進チームを立ち上げ、25年度までの中長期目標「デジタルガバメント・都庁」の基盤構築を実現すべく、全庁的な改革推進の核となる「コア・プロジェクト」や各局事業でのDXを推進する「各局リーディング・プロジェクト」に取り組んでいる。前者は「未来型オフィス実現」や、ペーパーレスなど「5つのレス徹底推進」など7つのプロジェクトを推進するもので、取り組みを通じて、職員のデジタル環境満足度アップやコピー用紙の削減などを実現した。


 「ただの行政改革でも、ただのデジタル化でもなく、DXを“てこ”にして行政サービスや働き方の質を上げるような改善やアップデートを目指しました」――こう説明するのは、都庁の太田泰道さん(デジタルサービス局戦略部デジタル改革課長)だ。

合言葉は「自分たちのオフィスは自分たちで作る」

 シン・トセイの改革を進めるキーワードの一つが「オープン&フラット」だ。場所や時間を柔軟に使いながら、職員や部署間の連携、議論を活発にすることでイノベーティブな都庁にし、都政のQoS向上につなげていく。そのための核となるコア・プロジェクトでは、未来型オフィスの実現プロジェクトを、改定版のシン・トセイ3では「都庁のワークスタイル変革プロジェクト」にバージョンアップし、デジタルツールを使いこなして、柔軟かつ質の高い働き方への転換を目指している。

photo シン・トセイ3で目指すワークスタイル(東京都 構造改革推進チーム「シン・トセイ3」より)

 まずはオフィスの在り方を物理的に変えることで、職員の意識改革を促した。「自分たちのオフィスは自分たちで作る」を合言葉に、実際に利用する職員がオフィスのコンセプトや機能などを検討し、フリーアドレスの導入など各職場の業務内容に合わせた“未来型オフィス”の姿を考える。デスクや固定電話、紙など制限がある働き方を根本から見直すことで、デジタルツールやクラウドストレージを活用するなど場所や時間に縛られないワークスタイルを実現した。25年度までに都庁の本庁全部門を未来型オフィスに転換する。

 さらにコラボレーションツールのチャット機能を使うことで、自由闊達(かったつ)な意見交換が広がっている。様式や形式にとらわれない気軽さから他部署への連絡や相談のハードルが下がり、さらに部署を横断したプロジェクトチーム内のコミュニケーションが活性化したことで、ちょっとした会話から課題解決のヒントが見つかることもあると藤井さんはいう。

photo 目指す働き方(東京都 構造改革推進チーム「シン・トセイ3」より)

ノーコード/ローコードツールが定着 「スキルが日を追うごとに向上」

 また、職員と構造改革推進チームの双方向コミュニケーションを進めるツールの一つとして「デジタル提案箱+(プラス)」を設置した。職員からの提案や要望を集める目安箱のようなもので、届いた意見には構造改革推進チームが必ず目を通して返信している他、意見や提案への「いいね」数で注目度をチェックできている。

photo 都庁の星野敬雄さん(プラットフォーム調整担当課長)

 こうした改革は、デジタル専門人材以外の事務職の職員にも浸透している。中にはノーコードツールを使って自らデータの可視化やプロジェクト管理ツールを開発する職員もいる。ノーコードツールを導入したことで、職員からいろいろなアイデアが飛び出し、スキルが日を追うごとに向上していると語るのは都庁の星野敬雄さん(デジタルサービス局デジタル基盤整備部 プラットフォーム調整担当課長)だ。幅広い業務でさらに活用が進むよう、今後も利用拡大を図りたいと意気込む。

クラウドサービスを活用 セキュリティ対策一元化で管理も効率化

 職員の柔軟な働き方を実現するため、シン・トセイ3では都庁の情報システム基盤「東京都高度情報化推進システム」(TAIMS)のクラウド移行も進めている。その前段階として23年1月からコラボレーションツールやクラウドストレージなどをサブスクリプション形式で使えるクラウドサービス「Microsoft 365」の導入を始めた。すでに約2万人の職員が使っている。

 もともと都庁では「Microsoft Office」を利用していた。Microsoft 365ではOfficeに加えてコラボレーションツール「Microsoft Teams」なども利用できるため、それなら使わない手はないと活用の体制を整備。これによりWebミーティングやファイルの同時編集ができるようになった他、メールボックスの保存容量が100GBに増えたことで必要な過去のメールも必要十分に保存しておけるようになった。

photo クラウドを含むデジタル環境のイメージ(東京都 構造改革推進チーム「シン・トセイ3」より)

 「自治体のクラウド利用について、国は一定のセキュリティ要件を満たすことを条件にしています。Microsoft 365は従来の境界型防御に加えエンドポイントのセキュリティ対策を一元化できるため、庁内の情報インフラシステムの運用担当者にとっても効率的な管理が可能になると思います」(野村さん)

数値目標で“改革を見える化” 成功の分かれ道に

 シン・トセイのような自治体DXを進める際、端末やICTツールなどのデジタル環境をいくら整えても、それを使う職員の意識がアナログのままでは変革もままならない。「デジタル環境の整備と、職員の意識や組織の変革は車の両輪のようなものです。同時並行で進めていかなければ、真の意味での改革につながりません」(野村さん)

 そうはいっても、数万人の職員が働く都庁で車の両輪を回すのは簡単なことではない。このハードルを乗り越えるために都の構造改革推進チームが重視したのが数値目標だ。「21年度のコピー用紙調達量を16年度比で50%削減する」といった目指す姿と数値目標をコア・プロジェクトなどで掲げ、達成率を定量的に評価。結果をダッシュボードで公開することで、取り組みを見える化して理解者を増やし、意識改革につなげていった。

 都庁全体で意識が変わったことで、DXを進めるために必要な事業への理解も得られるようになってきた。デジタルツールは職員の使いこなしが進む中で効果が上がっていくものだが、以前はデジタル環境の整備を提案しても即効性や初年度からの費用対効果を求められ、理解を得ることに苦労した。しかしいまは具体的な目標を掲げたことでゴールが明確になり、そこに向けた取り組みとして必要性を認識してもらえている。

 「構造改革推進チームは、デジタルだけでなく、人事や財務、計画といったさまざまな部門が組織の垣根を越えて1つのチームとなり取り組みを進めています。そしてプロジェクトの状況を都庁内外に向けて発信することで、現在地とゴールを共有でき、さらなる改革につなげられています」(太田さん)

 都庁の事例を見ていくと、華々しい成功の裏側には地道な努力があると分かる。シン・トセイの取り組みでは、まず職員や組織の意識を変えることが第一歩になった。クラウドサービスの活用など働き方をより便利で快適なものに変えていくことでDXを軌道に乗せ、都政のQoS向上につながるイノベーションの芽を生み出している。DXというと革新的な取り組みを連想しがちだが、都庁のように一歩ずつ進むことで大きな成果を目指す取り組み方も参考になるかもしれない。

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