ビジネスの根幹「保全業務」 安定維持に必要なことは? 日本IBM×デロイト トーマツ コンサルティングが示す答え迫る2025年問題!

高齢化社会による労働人口の減少で、ものづくりに欠かせない設備の保全業務が破綻の危機にひんしている。真の課題解決は、IoT機器を導入することではない。では、何が決め手となるのだろうか。

» 2023年09月21日 10時00分 公開
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 超高齢化社会が進行すると、社会保障費の増大と労働人口の減少や経済の縮小といった危機が生じる――。これらは「2025年問題」または「2030年問題」と呼ばれ、目前に迫っている。この問題はビジネスの根幹を支える工場の製造設備や道路、上下水道をどう維持管理するかといった「保全」に関する課題に直結している。

 課題を解決する方法として、人手に頼る従来のやり方を見直し、AIやIoT技術を活用して設備の耐用年数を延ばしたり維持管理コストを削減したりすることが考えられる。

 その保全市場をけん引してきたのが、日本IBMの「IBM Maximo Application Suite」(以下、Maximo)だ。そしてこのほど日本IBMは同分野でデロイト トーマツ コンサルティング(以下、DTC)とビジネスの協力関係を強化していく。両社のタッグで、保全業務はどのように変わるのか。デロイト トーマツ コンサルティングの森本政志氏(執行役員)、岡部亮一氏(ディレクター)、日本アイ・ビー・エムの関敦之氏(サステナビリティ・ソフトウェア事業部長)に話を聞いた。

IBM (左から)日本アイ・ビー・エム 関敦之氏(サステナビリティ・ソフトウェア事業部長)、デロイト トーマツ コンサルティング 森本政志氏(執行役員)、岡部亮一氏(ディレクター)

IoT機器を導入しても解決されなかった――根底にある課題

 道路や水道管にメンテナンスが必要であるように、工場などのものづくりの現場を支える設備にもメンテナンス(保全)が必要だ。

 日本プラントメンテナンス協会がまとめている「2022年度メンテナンス実態調査報告書」によれば、国内の総保全費は推計で11兆1699億円(※1)。特にものづくりにおいて長い歴史のある企業では、工場やその設備が「数十年選手」となっていることも多い。古くなれば当然設備トラブルが生じ、生産性が低下する。場合によっては生産ラインがストップしてしまうこともあり得る。安定的かつ高いパフォーマンスで設備を稼働させるために保全業務は欠かせない。

(※1)2022年度メンテナンス実態調査報告書 ©公益社団法人日本プラントメンテナンス協会(2022)より引用

 企業にとって保全業務はビジネスの根幹となるものだが、現時点で人材を確保できず、将来的にはさらにそれが難しくなるという危機にひんしている。日本IBMの関氏は「現場の方々は常に全力で努力し続けていますが、それだけでは業務が追い付かなくなっています。保全業務の改革はもはや待ったなしです」と警鐘を鳴らす。

 実際、保全現場で“匠(たくみ)”と呼ばれる熟練の作業者たちは高齢になりつつあり、スキル保有者の比率は今にも半数を割る勢いであるとの調査結果も出ている。仮に今から人員を確保したところで技術伝承が間に合わない状況と言える。

 「社会的信用性を獲得し続けるためにも、設備トラブルを防ぎたいと経営者層は考えるはず」と話すのはDTCの森本氏。「とはいえ、人員配置は本業が優先されます。保全に関しては必要最低限の対応が精いっぱいで、その先の“能動的な保全業務”へと踏み出せない現状があります」と説明する。

 コストの増大、労働人口の減少、匠の高齢化に伴う技術伝承という喫緊の課題──日々、製造業に従事する人たちと接するDTCの岡部氏は、これらの背景を踏まえた上で「これを解決するものとして、DXが注目を集めている」と強調する。

 DX推進が叫ばれて数年が経過した中で、多くの企業が何らかのツールや仕組みを導入したはずだ。しかし、なぜ業務が改善されていないのか。関氏は、IoTセンサーの例を基に説明する。

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 「DXやスマート化という言葉が出始めたころ、多くの企業がこぞってIoTセンサーを導入して“スマートファクトリー化”を進めました。ただ、導入だけで終わってしまい『IoTセンサーを使ってどのように業務を改善するのか』までたどり着けず、そこから先へ進めなかったのです。保全効率を何%上げたいのか、予算をどれだけ削減したいのか、達成には何が課題なのかが整理されていない。データ利用の目的が明確になっていなかったのが原因です」(関氏)

 IoT機器を導入しコストをかけたのに効果が見られない。加えて設備の老朽化、現場作業員の高年齢化、人員不足は進み、為替変動や物価上昇という外的要因によりコストの増大まで生じている――。設備を安定的に稼働させたいと考えつつ次の一手を出せずにいる経営層と、今すぐ何とかしてもらいたいと考える現場の間に、課題に対する意識のギャップが見られている状況なのだ。

 では、どうすれば解決できるのだろうか。

既存手法の“焼き直し”では新しい価値が生まれない

 「既存のやり方をデジタルに“焼き直す”だけであれば、価値は生まれません」と岡部氏は語る。

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 「重要なのは、データを活用した保全業務の改革でどれだけ作業の簡略化や効率化が図れるかをイメージすることです。プロセスを変えることへの不安感の除去やサポートはDTCにお任せください」(岡部氏)

 DX化について森本氏は2つの視点を挙げる。「匠による保全業務の仕組み化と、業務を全く新しい発想で展開していくこと」だ。

 「匠は、長年の経験によって設備内で留意すべき箇所やポイントを把握しています。それを後進に伝えたくても時間が足りない。であればデータという新しい武器を手に入れて、そこからファインディングする方法を身に付ければよいのです。

 これまでのやり方に固執したり、デジタルに焼き直すだけにしたりするのではなく、新しく入る人がデジタルを活用してレベルの高い仕事をする方法を考える、いいタイミングに来ていると思います」(森本氏)

 データの活用ソリューションとして豊富な実績があるのが、設備保全管理業務に必要な機能を提供する統合パッケージMaximoだ。設備の異常や障害を検知するだけでなく、AIによってデータを分析し、予知保全も行える。匠は勘所を、MaximoはデータとAIを武器に、設備のトラブル回避を実現できる。

上流の課題を理解するDTCが新たに得た武器――Maximoソリューション

 Maximoを使って企業が抱える課題を解決するには、その課題への深い理解が欠かせない。幸い、DTCには企業の問題や課題といった保全業務の上流部分も含めた知見があり、課題解決の道筋も見えている。「保全業務そのものを改革していく視点」(森本氏)から、日本IBMとビジネスの協力関係を今後強化していくことで進めており、保全業務に課題を持つ企業の支援をさらに拡充していく。

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 「保全市場における管理ツールとして、Maximoのポジションはかなり優位性があると感じていました。保全業務改革においてはツールやデータの活用は必須です。その意味で業務、システム双方で実行力を高める必要があると思い、当社からお声掛けしました」(森本氏)

 DTCの知見とIBMのMaximoがタッグを組むことで何が生まれるのだろうか。

 関氏は「保全業務の上流には、濃縮されたそれぞれの歴史や独自の考えがあります。それを分解して必要な機能を抽出することで顧客に寄り添える。その大切な部分をDTCが担い、日本IBMがそれを解決するソリューションを提供したいと考えています」と話す。

 具体的なメリットとして、岡部氏は「保守費用の削減を目指せる」と展望を語る。「部品のコンディションデータを活用することで、時間ではなく状態に応じた交換が可能になります。設備に問題がなくても1カ月ごとに交換していたものを、状態に応じて交換することで頻度が減らせ、保守費用は削減されます」と解説する。

 森本氏は、さらに別の視点からの価値について語る。「人員が潤沢だった頃は、さまざまな場所に直接赴き、状態を確認できていました。しかし、それが難しくなった今、テクノロジーという武器を手にすることで遠隔地からの監視も可能になります。さまざまな効率化を図ることで経営に貢献する保全の在り方を模索できます。これは企業の成長に寄与することでもあるのではないでしょうか」(森本氏)

保全に関係した課題を解消して日本の製造業をもっと元気に

 両社の協業で、保全を取り巻く環境はどう変わるのか――。3人は、DTCが持つビジネス領域の知見やコンサルティング実績と、日本IBMのIT技術を組み合わせ、幅広い領域の保全業務を支援したいと展望を語る。「食品や飲料メーカーなども含め、設備を抱えている企業には必ず設備マネジメントが存在します。両社の強みを生かし多様なお客さまの課題に寄り添えるようになると考えています」(森本氏)

 企業課題を解決するといっても、慣れた手法を変えるのには勇気がいるもの。しかし、そのままでは安定したビジネスを遂行できない。森本氏は「5年後、10年後に目を向けてほしい」と話す。そのためには全てを自社で解決しようと考えるのではなく、今あるツールやサービスを正しく活用することが重要だ。

 「課題解決への近道は、豊富な実績があるMaximoなどのシステムをうまく活用することです。一方で『うまく使いこなせるか』などと、製品選定に時間を要してしまう企業も少なくありません。ただ、これから入社する次の世代は“デジタルネイティブ”です。マニュアルがなくてもツールをすぐに使え、業務に詰まることはないでしょう。企業の目指すべき姿が抽象的すぎたり、逆に解像度を上げすぎたりして思うように進まずに立ち止まってしまっては非効率です。ツールやソリューションを用意し、課題解決に向けた環境整備を進めてほしいと考えています」(森本氏)

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 私たちの生活やビジネスを支える保全業務はまさに縁の下の力持ちで、必要不可欠な存在だ。3人は「保全業務に携わる人たちがいるおかげで、私たちは日常生活を送ることができる。彼らがプライベートな時間を確保したり休日出勤を減らしたりして、幸せを感じられるように現場作業を楽にしていきたい」と口をそろえる。

 DTCと日本IBMなら日本の製造業をもっと元気にできる――。保全業務に改革を起こし、日本のビジネスを変える両社の協業にこれからも注目だ。

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