2023年10月のインボイス制度開始とともに「デジタルインボイス」の活用に注目が集まっている。適格請求書をデータで発行して受け取れることから、業務負担の軽減や人為的なミスの削減が期待されており、今まさに活用が進み始める段階にある。
本記事では、ウイングアーク1st主催のビジネスカンファレンス「updataNOW23」(23年10月31日〜11月2日開催)に登壇したデジタル庁 加藤博之氏(国民向けサービスグループ 企画官)と、三井住友ファイナンス&リース 小林文子氏(ICT・事務各部担当役員補佐 執行役員 事務企画部長)、西武ホールディングス 石田尚子氏(経理部 ジェネラルマネジャー)に、今後のデジタルインボイスの活用による業務変革のポテンシャルについて、それぞれの立場から語ってもらった。
デジタルインボイスは、デジタル庁により、電子インボイスの国際標準仕様である「Peppol(ペポル)」をベースにその標準仕様が策定され、ソフトウェアプロバイダーも含め約30社が日本における認定Peppolサービスプロバイダーとなっている(23年7月時点)。
Peppolはインボイスデータの標準仕様である。従って、Peppolに対応したベンダーのシステムであれば、取引先ごとに異なるシステムであってもインボイスをデータでやりとりでき、請求業務の負荷を軽減できる。
請求書を“データでやりとり”と聞くと、「PDF化してメールで送るのもデジタルインボイスではないか?」と思う人もいるかもしれない。しかしPDFのような「電子インボイス」と、Peppolのような「デジタルインボイス」は、明確に区別して考えられている。最大の違いは、デジタルインボイスはシステムにより自動処理ができるように標準化され、構造化されたデータであるということだ。
デジタル庁の加藤氏は「自動処理がポイント」と話す。これまでの紙やPDFの請求書では、受け取った後にOCRや人力でデータ化しても精度には限界があった。しかしPeppolに対応したインボイスデータ(デジタルインボイス)であれば、受け取り側においてデータの精度を気にする必要はなくなる。
さらに、デジタルインボイスを活用すれば、請求書を受け取った側は商取引データと自動的に突き合わせて振り込みまで自動化でき、送り側は請求書に対応する入金があったかどうかを自動で確認できる「入金消込の自動化」といった未来も実現するかもしれない。これまで人力に頼らざるを得なかった多くの処理をシステムに任せられる。
「電子インボイスだと、送り側はハッピーだが受け取り側はその処理に泣いている。デジタルインボイスになれば、送り側も受け取り側も両方ハッピーになる。使っている人たちがハッピーになるための仕組みがPeppolだ」(加藤氏)
では、デジタルインボイスを活用すると企業の経理業務はどう変わるのか。三井住友ファイナンス&リース(以下、SMFL)は現在、ウイングアーク1stの電子帳票プラットフォーム「invoiceAgent」でPeppolに対応したデジタルインボイスの受領トライアルを進めている。その推進を担う小林氏は、デジタルインボイスを活用することで業務の一部を自動化でき、システムが人間の代わりを務められるようになると期待する。
「紙やPDFの請求書には不備が多く、そのチェックを人間がやっている。デジタルインボイスになって、日本全国どこからでも同じ形式で受領できればチェックの手間が省けるはず」(小林氏)
記載漏れがある、集計の結果がおかしいなどの不備は、紙やPDFの請求書ではどうしても発生してしまう。しかし、フォーマットが標準化されたデジタルインボイスであれば、そのような単純な不備はシステム側が気付き、修正できる。
チェックが不要になるのはデジタルインボイスの可能性の第一歩だ。その先には、デジタルならではの自動化が期待される。西武ホールディングス(以下、西武HD)もデジタルインボイスの可能性を探究し始めた1社である。同じくinvoiceAgentのPeppolネットワークを利用し請求書をウイングアーク1stに送る実験に取り組んだ。
西武HDで経理業務標準化と抜本的な業務改革を進める石田氏は、デジタルインボイスの活用で「手間いらずのさらなる可能性が開けるのではないか」と話す。「日本はこれから、働き手の減少に伴い人海戦術は成り立たなくなると思う。システムでできることはシステムに任せることで、可能な限り自動化にチャレンジしていきたい」(石田氏)
石田氏が「人手がかかる究極の業務の一つ」と評するのが消し込みだ。デジタルインボイスを活用し一連の業務の流れを整えれば、この消し込みも自動化が進む可能性がある。消し込みとは請求書を送って先方から入金があったら、その入金がどの請求書に対応するものなのかチェックする作業を指す。
デジタルインボイスのデータに基づき、全銀EDIシステム(ZEDI)を利用して振り込めば、請求書番号などの情報を添付できるため、入金側はどの請求に対しての入金なのかをシステムで確認できる。そうなれば、Peppolベースの請求データを起点として、振り込み、入金、消し込みまでの自動化を進められ、大幅な省力化を実現し得る。
ウイングアーク1stが行った調査によると、現時点でPeppolに対応したデジタルインボイスの活用意向を持っている企業は23.4%にとどまり、45.0%は「分からない」としている。「新しいこと」への対応というだけで忌避感を持っているのか、「しない予定」も16.8%あった。
これに対しデジタル庁の加藤氏は、4分の1近くがすでに活用の意向を示し、4割近くの事業者が活用を検討している現状を評価した上で、「無理をしないこと」が重要だと話す。Peppolはあくまで材料であり、デジタルインボイスはツールに過ぎない。強引に早急な活用を目指す必要はなく、個々の事業者がそのメリットを理解した上で「自然な形でデジタルインボイスが広がっていけばいい」と指摘する。
「企業にとってデジタル化は最大の目的ではないはず。デジタル化することで業務の自動化、効率化が進み、関わる人がハッピーになることが大切」(加藤氏)
深刻な労働力不足が想定される将来を見据えて、手作業からシステムによる自動化への道筋を開くデジタルインボイス。その実務での本格活用はここからだ。
現時点では、SMFLや西武HDのように、戦略的に経理業務のデジタル化に取り組んでいる企業は多くはない。Peppolは送り側と受け取り側の双方が対応して初めてやりとりが可能になる、ネットワーク効果が働く仕組みだ。いったん活用が始まれば一気に広がる。
デジタル庁の加藤氏は「『Peppol IDとは何ですか?』という企業からの問い合わせが最近増えている」と明かす。Peppolへの関心は確実に高まっており、まずはDXに積極的な大企業から導入が進んでいくのではないかとの考えを示す。
「人手不足が深刻さを増す中、デジタルを前提とした仕事への転換について躊躇(ちゅうちょ)している暇はないのではないか」と説くのは西武HDの石田氏。その上で、デジタルインボイスへの切り替え時の“ハードルの低さ”が重要だと訴える。「現場の感覚としては、PDFからデータでのやりとりに切り替える作業はできる限りスムーズに進めたいもの。さらに、切り替えに伴うメリットも実感したい。ぜひウイングアーク1stさんをはじめとする協力会社の方々には、そのためのサービス開発やサポートをお願いしたい」(石田氏)
SMFLの小林氏は、「人間がやるべきことは“システムが判断できない部分”を判断すること」と強調した上で、管理職クラスが発想を変えて業務改革を推進する必要があると話す。
そのために小林氏は、業界の先頭に立ってデジタルインボイスの活用の旗を振る構えだ。「社内の営業担当には、顧客との話のネタの一つとして『デジタルインボイスって知っていますか?』という話題を対話に取り入れてもらいたいと思っている。いずれデジタルインボイスの活用は進むはず。みんなが導入しよう、活用しようという風潮をどう作っていくかが重要なはず」(小林氏)
もちろん政府もデジタルインボイスの活用を進めている。国の政府電子調達システム(GEPS)でも、デジタル庁をはじめ各省庁にPeppol IDが振られ、デジタルインボイスの受け入れを開始している。各省庁とも取引があるSMFLは、GEPSのPeppol対応を歓迎する。「公共調達で、デジタルインボイスが使えるようになることはありがたい」(小林氏)
労働人口が減少する中、人がやるべき仕事をするために必要なことは何か。企業内のさまざまな部門で、ITツールやデータを活用した業務改革を進めている企業も多い。では経理・財務部門はどうすべきか――。問い続けると、おのずと答えが見えてくるはずだ。“意思決定の最前線”に立つリーダーの話を、自社の財務経理の今後について考えるきっかけにしてほしい。
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