2022年11月に登場した生成AI「ChatGPT」は瞬く間に大ブレークし、ビジネスシーンにも大きな影響を与えた。今はまだ調査フェーズもしくはテスト導入フェーズの企業が多いものの、将来は業務の中に生成AIが浸透し、当たり前のように使われるようになると予想されている。
そんな中、システム開発を手掛けるM-SOLUTIONSは23年10月、サイボウズが提供する業務改善プラットフォーム「kintone」でChatGPTを利用できるプラグイン「Smart at AI for kintone Powered by GPT」(以下、Smart at AI)をリリースした。
Smart at AIは、kintoneのデータをプロンプト(指示文)に挿入でき、ChatGPTの返答をkintoneの任意の場所に登録する。一般的な業務で活用できるプロンプトを100個以上用意しているので、すぐに使い始められるのが特徴だ。エンタープライズ向けの有料プランの他、無料プランも用意している。すでに100を超える企業がSmart at AIを導入し、さまざまなシーンで活用している。
今回の対談ではChatGPTとSmart at AI、そして今後のビジネスシーンについて、M-SOLUTIONS社長 植草学氏とサイボウズ社長 青野慶久氏が語り合った。
――Smart at AIを開発した経緯を教えてください。
植草氏: ChatGPTに触ったときに、インターネットを初めて使ったとき以来の衝撃を受けました。中に人が入っているの? と感じるくらいの返事が返ってきたからです。これをみんなが使い始めたら、すごいことになると思いました。
当社も早く関連サービスを提供したいと考えていましたが、ChatGPTのチャット画面が秀逸過ぎてそこから抜け出せず、半年くらいはプロダクトが作れませんでした。ずっとChatGPTでビジネスに活用できそうなプロンプトを研究していました。
「法人ChatGPT」を作るかという話も出たのですが、当社はずっとkintoneのプラグインを提供してきたのでkintoneに適用しようと考えました。そこで、kintoneのフィールドから値をプロンプトに入れられるプロトタイプを作りました。一言で言うなら、業務アプリにChatGPTをフィットさせてうまく活用する、というコンセプトです。
青野氏: Smart at AIを初めて見たとき「これは発明だ」と思いましたね。そして、Smart at AIを使う企業がさらに発明をすると感じました。まさに「AIの民主化」だと思います。無限にAIを活用できそうなイメージが湧いてきます。
――「Smart at AI」はkintoneを活用する上でどのような役割を果たすと考えていますか?
青野氏: どれだけの活用パターンがあるのか想像し切れません。恐らく、ユーザー自身がさまざまな使い方を編み出してくれると思います。実はChatGPTのことを知ったとき、使える人と使えない人とで、格差が広がるのではと危機感を覚えたのです。
しかしSmart at AIなら、プロンプトを作れる人の知識を再利用して現場全体の業務効率を底上げできます。だからこそ人の数だけ新しい使い方が生まれ、それが横展開されるのです。樹木でいうと、幹だけでなく枝葉まで行き届く感覚ですね。
植草氏: Smart at AIのリリース時に、多くの人に利用してほしいと考えていました。そこで、エンタープライズ向けの機能までは必要ないがChatGPTをkintoneで使いたい、というユーザーに向けて無料版も提供することにしました。
AIは交通インフラのようになると思います。東京から大阪まで徒歩で移動する人はほとんどいませんよね。車や新幹線の方がもっと速い。飛行機に乗ればさらに速く到着します。同じように、AIで処理できる業務はAIに任せた方が効率は上がります。その分、人は本来やるべき仕事に集中することで、付加価値を高められるようになると思います。
――Smart at AIのキーワードである「簡単」「安全」「効率的」について教えてください。
植草氏: Smart at AIは、簡単に使えることを最初のコンセプトにしました。M-SOLUTIONSが手掛けるkintoneのプラグインは、現場で業務を行っている人たちでも簡単に設定できるようにしています。Smart at AIでもプロンプトを意識せずにChatGPTを使えるようにこだわりました。もちろん、プロンプトの変更もテキストベースで簡単に行えます。
有料プランでは、メールアドレスなど外部に出せない情報をハッシュ化してマスキングできる機能を利用できます。ログもしっかり記録し、操作をトレースして管理できるようにしました。
kintoneの中にデータを保存するのが安全ですし、一番手軽でもあります。他のツールやアプリと行ったり来たりせずに、kintoneの中でChatGPTを利用してその結果も保存されるので効率的です。
――お二人は普段、どのようにChatGPTを活用していますか?
青野氏: やはり壁打ちが多いですね。以前、社内大学を立ち上げたときにコース内容をChatGPTで作成したのですが、素案が1分でできるのはすごいですね。抜け漏れなく出てくるし、足りないなら「もう10個作って」と指示すればよいのです。人間相手だとそこまで依頼できません。
イベントなどのあいさつ文も、話の核心となる部分は自分で考え、前後の要素はChatGPTに素案として出してもらっています。以前よりかなり時短になっている気がします。
植草氏: 私の知り合いの社長は、「ChatGPTを論破した」と喜んでいました(笑)。
青野氏: ChatGPTは空気を読んでくれる“いいやつ”ですよね(笑)。常識があり、丁寧に会話してくれるので、ナイト2000(※1)を思い出しました。
※1:Knight Industries Two Thousand=K.I.T.T.。1980年代米国のSFアクション「ナイトライダー」に登場するAIを搭載したスーパーカー
植草氏: 主人公のマイケルが「キット来てくれ」と時計に向かって言うと自動運転で助けに来てくれるんですよね。
青野氏: 自然言語で会話ができる車というSFなのですが、ChatGPTの登場でついに未来が来ちゃったなと思いました。
植草氏: 未来が来ましたよね。M-SOLUTIONSでは、ChatGPTを活用してブログの記事を書いています。もちろん少し手直しはしていますが、それでもマーケティングに活用できるレベルです。自社セミナーのタイトルも、ChatGPTに出してもらったアイデアを組み合わせて作成しています。
自社でもSmart at AIを活用しており、社員が日報を書くのにも使っています。その日の業務をさみだれ式に入力しても、Smart at AIがChatGPTを経由させることで特定のフォーマットに従った日報に仕立ててくれるのです。
――Smart at AIのユーザー企業はどんな活用をしていますか?
植草氏: 日報やオウンドメディアの記事を生成する他、会議の音声データを登録して議事録のフォーマットに合わせて整理しているケースがあります。最近だと、保育園での事例があります。
保育園では園児の記録を小学校進学時に提出するのですが、4カ月ごとの記録を1年分にまとめて報告をするそうです。これまでは全て園長が自ら書いていたのですが、日々の記録を基にSmart at AIで要約する実証を進めています。24年度からの本格運用を目指しているそうです。
青野氏: Smart at AIを活用して小学校に見せられるフォーマットに整形できれば、先生方の負担も減ると思います。その分、「子どもを見る」という本来の業務に集中してもらえればいいですね。
植草氏: 若手社員のメール作成にもSmart at AIが活用されています。最近の若手社員はビジネスメールの作成に苦手意識を感じている人が多いようです。時候のあいさつや丁寧語、お礼や謝罪のフォーマットなどをChatGPTに聞けば瞬時に書いてくれます。内容さえプロンプトに入れておけば、問題のない文章を作成できます。
これまではコストと時間をかけてメールの書き方を教えていましたが、「果たして必要なのか」と見直すことが重要です。
青野氏: もちろん送信先に失礼がないことは大事ですが、メールの書き方を覚えることに投資しても、それが顧客の価値向上につながっているのかということですよね。
植草氏: 若手社員も「それってなんか意味あるんでしたっけ?」と考えていると思いますよ。そこをSmart at AIなら補完できます。他にはマーケティングでの活用が多いですね。たくさんの人が無限の使い方をしているので、さらにヒアリングを進めて皆さんに共有していきたいですね。
――ChatGPTの活用に抵抗を感じる経営層も多いはずです。このような状況をどうお考えでしょうか?
青野氏: サイボウズが11年にkintoneを発表した際、「こんなものに触っていたらシステムが分からなくなる」とさまざまな人から反発を受けました。私はPC少年で情報システム工学科を卒業しており、その考えは十分理解できました。しかし、ビジネスパーソン全員がシステムを学ぶ必要があるのでしょうか。ITの民主化を目指すなら、ショートカットを用意する必要もあるのです。
もちろんプログラミングを深く理解している人も必要ですが、そうではない道もあっていいじゃないですか。対立ではないのです。AIも同じです。AIを使うのか全部自分の手で行うのか、白黒付けるのではなく両方組み合わせればいいのです。
植草氏: この議題の結論は、「遠くへ行くときに飛行機に乗るか乗らないか」という話に行き着きます。かつては「クラウドにデータを置いていいのか」などといわれていましたが、今では多くの企業がkintoneを利用しています。ただ、それを今すぐにやるのかは会社のポリシーによると思います。
青野氏: 人の手もAIも必ず両方残るはずで、対立軸で考え過ぎない方がいいと思います。働き方も同じですよね。リモートワークの方が生産性は高いとか、出社の方が社員のモチベーションが上がるとか議論が続いていますが、「ちょっと落ち着け」と(笑)。どっちにも良さがあるから、良い部分を組み合わせればいいのです。
――これからビジネスにAIを活用しようと考えている企業にアドバイスを一言お願いします。
青野氏: kintoneの基本思想は、ノーコードで誰でもシステムを作れるようにして現場の非効率をなくしたい、ということです。Smart at AIも同じ考え方で、できればkintoneとSmart at AIをセットで使っていただきたいと思います。
AIが社会に普及した状態を100とするならば、今はまだ1か0.1という状態です。これから驚くほど速くAIは社会に浸透するはずです。AIができる作業はAIに任せて、人がやるべき仕事に集中できるようにしたいですね。
植草氏: AIは、ビジネスの武器となる情報インフラの一つになると思います。それが、より速く正確に、よりパワフルになってくるでしょう。
AIを活用する人と使わない人では今後さらに格差が生まれます。であるならば、AIを使っている実感が湧かないほど、社会に浸透できればいいですよね。そうなってほしいですし、M-SOLUTIONSとしてはそういう状態にまで持っていきたいと考えています。
――ありがとうございました。
「kintone×Smart at AI」は、生成AIのパワーをビジネスで存分に活用しつつ、AIを使うスキルによって生まれる格差を解消するという、まさに「発明」とも言えるプロダクトだった。植草氏が言うように、生成AIはインターネット登場に匹敵する革新的な技術であり、今後どのように進化していくのかは予想しにくい。しかし、社会に浸透していく中でビジネスシーンでも活用に向けた取り組みは必須だろう。
Smart at AIは有料版に加えて無料版も用意されている。業務効率化に向け、kintoneと併せてチェックしてみてほしい。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2024年2月29日