神戸市に聞く「ガバメントクラウド先行事業」の舞台裏 「移行の効果を最大化する」ポイントとは思いを支えた「伴走型支援サービス」の中身

社会情勢変化への柔軟な対応と、全住民への均一なサービス提供を狙う「ガバメントクラウド」。先行事業として既存システムの移行に取り組んできた神戸市に、狙いと課題、プロジェクトを進める上でのポイントを聞いた。

» 2024年09月05日 10時00分 公開
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 社会全体でデジタル化が進展し、行政においてもITによる業務改善や住民サービスの向上が進んでいる。そうした中、新たなサービスの迅速な展開や自治体の人的、財政的負担の軽減を目的としたシステム標準化施策として「ガバメントクラウド」の取り組みが注目を集め続けている。

 「住民記録」「税務」など、20の基幹業務において自治体が独自に運用している基幹業務システムを標準化してガバメントクラウド上に移行。ガバメントクラウド上には国が選定したクラウドサービス事業者が提供するサービス群が用意されているため、システムの構築、運用負荷を下げながら、よりセキュアで利便性、柔軟性が高いシステムに刷新できる。

 だが、ガバメントクラウドに移行するには、システム標準化やクラウド移行に関するノウハウ不足という壁を越えなければならない。対応期限の2025年度末が迫る中、この一大プロジェクトを成功させるにはどうすればいいのか。「ガバメントクラウド先行事業」に取り組んだ兵庫県神戸市に移行のポイントを聞いた。

兵庫県神戸市(提供:神戸市) 兵庫県神戸市(提供:神戸市)

神戸市がガバメントクラウド先行事業に参画した狙い

 兵庫県の県庁所在地で、人口約150万人を対象にさまざまな行政サービスを提供する神戸市。大阪湾に面する港町として阪神工業地帯を成す工業都市である一方、IT活用に積極的なスマートシティを推進する都市として知られる。

 2021年には政令指定都市として唯一、デジタル庁の「ガバメントクラウド先行事業」に採択され、これまでに「住民記録システム」や、住民情報の各業務への提供、基幹業務システム間のファイル連携やデータの受け渡しを行う基盤となる「共通基盤システム」をガバメントクラウドに移行するための検証を実施してきた。

 先行事業に参画した狙いについて、神戸市の廣田伸明氏(企画調整局デジタル戦略部上席デジタル化専門官)は、こう話す。

 「2025年度末までの対応が必須であったため、ガバメントクラウドの検証に早期に取り組むことはメリットになると考えました。プロジェクトを進める中で不測の事態が起きても対処する余裕が生まれますし、知見や意見を国に積極的に伝えてシステムの標準化、共通化に協力することもできます。これは、国、神戸市、他の自治体それぞれにとって良い結果につながると考えました」(廣田氏)

 もともと神戸市は基幹業務の多くをプライベートクラウドの「サーバ仮想化基盤」で運用しており、データセンターにあるサーバと市役所を専用ネットワークでつないでいた。この基幹業務システムを、神戸市独自でクラウド基盤を構築して移行することもできたが、災害耐性やセキュリティなどの面からガバメントクラウドに優位性があると判断。「移行するからには、先行することで効果を最大化させたい」という狙いもあったという。

ガバメントクラウドと神戸市が運用しているサーバ仮想化基盤の比較評価(提供:神戸市) ガバメントクラウドと神戸市が運用しているサーバ仮想化基盤の比較評価(提供:神戸市)

狙いに沿ったロードマップが描けるか――移行における課題

 では具体的にはどのようにプロジェクトを進めたのか。神戸市は、過去にも利用実績があったことから、クラウド事業者として「Amazon Web Services」(AWS)を選択。2023年度には「ガバメントクラウド統合運用管理補助者」も調達し、そのベンダーとともに運用管理環境を構築。2024年度に入ってから運用管理環境の利用やAWSアカウントの払い出しを始めている。

 このように時系列だけを追うと順調に進んだように見える。だが、その道のりは平たんだったわけではなく、先行事業であるが故の苦労があったという。神戸市の石田真智氏(企画調整局政策課係長)はこう振り返る。

 「開始当初は、デジタル庁が公開しているガバメントクラウドの構築ガイドラインや推奨構成が定まっていない部分が多くあり、ベンダーと協力しながら手探りで読み解きつつ仕様や要件を詰めていきました。その中で、デジタル庁もわれわれ先行事業採択団体からのフィードバックを受けて、ガイドラインや推奨構成をブラッシュアップし続けています」(石田氏)

 ガイドラインや現行システムのベンダーが持つノウハウだけでは、AWSの機能やサービスに落とし込むのが難しいことも課題だった。無論、既存のインフラを単純にAWSのサービスに置き換えることもできた。だが、そうすると将来的にアーキテクチャの整合性をとれるかどうか、神戸市の狙いに沿ったロードマップが描けるかどうかといった不安が付きまとうことになる。

 また、クラウドファーストを掲げる神戸市でも、AWS関連の技術や知識が不足している部分はあり、ベンダーやコンサルティング企業の見積もりを正しく判断できないのでは、という懸念もあった。運用コストについても、最適化のための方策を採らずにクラウドを利用し続けることで、運用開始後に利用料が高まることが危惧された。

ガバメントクラウドのメリットを最大化するためにAWSプロフェッショナルサービスを採用

 そうした中で、救いの手となったのが、AWSの有償支援サービス「AWSプロフェッショナルサービス(Professional Services)」(以下、ProServe)だったという。

 ProServeは、「顧客にとって最適なAWS活用」を促進する専門家チームで構成。顧客のプロジェクトにチームの一員として参加し、必要に応じて課題の可視化、ロードマップ策定、アーキテクチャ設計、システム実装のアドバイスや技術サポート、課題に対するアクションプランの提示などを行う。チームの中に入り、伴走型で支援する点が大きな特長だ。

 神戸市では2022年からProServeを採用。2年弱にわたる支援でProServeが神戸市に提供したアクションは大きく分けて3つあるという。

 1つ目は、ロードマップ策定だ。AWSの豊富な知見とベストプラクティスを基にプロジェクトのゴールを設定し、そこに向けた道案内を行った。具体的には、「AWS導入フレームワーク」に沿った70項目以上あるヒアリングシート「移行準備状況評価」(Migration Readiness Assessment:MRA)を基に、理想と現状のギャップを分析。ギャップを埋めるためのプランとロードマップを、既存のコンサルティング企業、ベンダー、神戸市職員とともに策定していった。

 「ガバメントクラウドは参考事例がない取り組みです。AWSの専門家らが近しい事例の提示や技術的なアドバイスをしてくれたことで、神戸市だけで調べるより、明らかに取り組みのスピードや判断の正確性が向上しました」(廣田氏)

 2つ目は、知識や技術の継承だ。ProServeが専門家としての知見を基にガバメントクラウドのガイドラインを深く読み解き、活用できる知識や技術を提示。それらを神戸市自身でも実践できる形で職員やベンダーに継承していった。

 そして3つ目は、コスト最適化だ。自治体業務/住民サービスの提供品質を高度化するとはいえ、コストとのバランスを取ることは前提条件となる。ただ一般に、停止してはならないミッションクリティカルシステムのクラウド移行をSIer(システムインテグレーター)に委託すると、SIerはリスクヘッジの意味合いで、現行システムのスペックを基にクラウドのスペックを見積もるケースがあり、結果としてコスト高になってしまうことがある。ProServeの支援により、クラウドサービスの特性を踏まえ、現行システムのCPUやストレージ利用率などを基に適切なサイジングを行った。

 ポイントは、「サイジングの最適化」だけではなく、クラウドサービスの利用によって「システムのコスト構造が可視化された」という点だ。システムのリソース使用状況は刻々と変わる。これを定期的に見直し、もしオーバースペックなら随時最適化できる環境が整備されたというわけだ。これは「神戸市によるITの主導権が強化された」ことに他ならない。

 ちなみに、「運用管理補助者」の利用方式には、自治体自らガバメントクラウドを運用する、あるいは運用を単一の運用管理補助者に委託する「単独利用方式」と、複数の自治体が単一の運用管理補助者に運用を委託する「共同利用方式」がある。一般的には、独自の要件実装などは制限されるが、コストや負荷を低減しやすい後者が推奨されている。

 神戸市は、今回の先行事業については、運用設計、非機能要件を独自に設定できる単独利用方式を採用した。「機能要件はガバメントクラウドに合わせて標準化するが、業務/サービスの提供品質を支える非機能要件は主体的にコントロールしたい」という考えがあったという。

 ガバメントクラウドには非機能要件のベースラインがあるものの、コストを最適化しながらセキュリティ、ガバナンスをより高度に確保するためには、インフラ/運用設計を熟慮する必要がある。つまり、“神戸市の狙いに最適なインフラ”を設計、運用するためには、ガバメントクラウドの仕組みをしっかりと読み解き、主体的に考える必要がある。ProServeはまさしくそこを支援し、「神戸市として求めるレベル」を、神戸市、運用管理補助者、既存のコンサルティング企業らとともに見据え、ともに設計したわけだ。

神戸市の先行事例が他の自治体のベストプラクティスに

 一般的なクラウド移行と同様に、ガバメントクラウドも「移行して終わり」ではない。前述のように、移行後も最適化し続けることがメリット享受のポイントとなる。その点、ProServeが技術を継承し、主体的にコントロールするスキルを提供したことの意義は大きい。神戸市は単にクラウド移行したのではなく、システム、人材の両面で「将来的な組織成長のための基盤を整備した」といえるだろう。その意味でも有償サービスとしてのコスト合理性は高い。

 これを支えた要素として無視できないのがProServeの支援スタンスだ。ProServeには、担当者とメールや電話などで直接やりとりしてサポートを受けられるという特長がある。実際、石田氏は「何でも気軽に相談できる雰囲気がありました」と振り返る。

 「コミュニケーションツールを介して本当に簡単に質問できましたし、AWSに触れるための環境を用意してくれたり、研修や組織づくりを提案してくれたりと、さまざまな点でサポートいただけました。ガバメントクラウドの機能と“神戸市が求める使い方”をすり合わせて要件に落とし込む上で、ProServeのアドバイスは大いに役立ったと思います」(石田氏)

 神戸市は、今後もProServeより得た知見を活用しながら取り組みを加速させていくという。

 「ガバメントクラウドはあくまでも基盤です。現状のシステムを単に移行するだけでは新しい価値は生まれにくいと考えます。今後、ガバメントクラウド上で提供されるSaaSや共通機能を積極的に利用するなど、標準化する20の基幹業務以外にも活用領域を広げていく予定です。これによって業務を効率化できれば、その分のリソースを市民サービスの向上に指し向けることもできます」(廣田氏)

 今後、ガバメントクラウドへの移行は全国的に加速していくが、多くの自治体にとって神戸市の先行事例がベストプラクティスとして生きてくることは言うまでもない。実際、神戸市でのProServe活用を知った他の自治体が、ProServeを利用して移行に取り組むケースが増えているそうだ。廣田氏は、先行者としての経験を踏まえ、これから移行を本格化させる自治体にエールを送る。

 「ガバメントクラウド移行の効果を最大化するためには、最低限、デジタル庁のガイドラインをきちんと把握する必要があり、その上で、自身の自治体にとって最適な設計を考慮する必要があります。その点、ProServeのような専門家チーム、従来お付き合いのあるベンダーやコンサルティング企業、職員が連携してワンチームで取り組むべきではないでしょうか。ProServeを活用する検討が早ければ早いほど、真に有効な移行に向けてプロジェクトを加速できるはずです」

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