生成AIに関する話題をよく耳にするようになり、多くの企業で業務に利用する動きが加速している。コンタクトセンターにおいても、顧客の声(VOC)をブランディングやマーケティング活動に生かすために生成AIを取り入れる試みが始まっている。
本記事では、2024年7月24日に都内で開催されたイベント「コンタクトセンター マッシュアップ ボックス 2024」(主催:コムデザイン)のセミナー「パイオニア・ブリーフィング」の様子を紹介する。変革の時を迎えるコンタクトセンターのこれからの姿を感じてほしい。
オープニングには、イベントを主催するコムデザインの寺尾憲二氏(代表取締役社長)が登壇した。
2000年に創業したコムデザインは、コンタクトセンター向けの電話応答システムを提供してきた。2008年にはクラウド型CTI「CT-e1/SaaS」を発表。クラウドが世間に浸透する中でCT-e1/SaaSは導入企業数を増やし、1750テナント、3万1000シートで利用されている(2024年4月時点)。
長年にわたりコンタクトセンターを見てきた寺尾氏は「コンタクトセンター業界もDXを進める必要がある」と強調する。“コンタクトセンターDX”の実現に向け、同社は「プロダクト」と「サービス」の2軸で取り組みを加速していると話す。
CT-e1/SaaSは、他社製品との連携を想定した「CCP」(Converged Communications Platform)として設計されている。連携できる製品は、LINE WORKSの「LINE WORKS AiCall」やアドバンスト・メディアの「AmiVoice API」など30近くある(2024年8月時点)。
「コムデザインは、『人と人を結ぶコミュニケーションプラットフォームを作りたい』という思いで創業した会社です。その理念を達成するため、CTIとしてCT-e1/SaaSの機能を成熟させつつ、同製品をテレフォニープラットフォームと位置付けてパートナー企業の製品を手軽にマッシュアップ(組み合わせ)できる体制を目指しています。コンタクトセンターDXという大きな目標を達成するために、パートナー企業との連携を強めていきます」
続いて登壇したのは、パートナー企業の一員である日本マイクロソフトの大谷健氏(業務執行役員 クラウド&AIソリューションズ事業本部 データプラットフォーム統括本部 統括本部長)だ。Microsoftは、AIアシスタント「Microsoft Copilot」などを提供してAI活用支援を加速している。
大谷氏は、開口一番「生成AIによってコンタクトセンターの可能性は広げられる」と力説する。
「今も昔も変わらず主役はデータです。お客さまと企業が接する場面には必ずデータが存在します。経営側は、コンタクトセンターに寄せられるVOCを基に、自社製品に満足してもらえているのか、再購入につながっているのかを知りたいはずです。そのために重要なのは、現場にあるデータを生成AIで収集・分析し、その結果を現場で活用するサイクルをうまく回すことです」
サイクルを回すための一助となる製品が、Microsoftが2024年7月に提供を開始した「Dynamics 365 Contact Center」だ。顧客の問い合わせに対応するチャットbot機能を搭載する他、顧客の特徴を踏まえた回答例をMicrosoft Copilotが提示するなど、オペレーターを支援する機能も備えている。
年間で1億4500件以上のやりとりが生まれるMicrosoftのコンタクトセンター部門にDynamics 365 Contact Centerを導入したところ、ルーティンワークのミスが20%減少し、問い合わせの初回解決率が31%向上した。Microsoft Copilotによる効果としては、チャットbotによるサポート案件の平均処理時間が12〜16%短縮された上、オペレーターが同僚のサポートを必要とするケースが13%減少したという。
講演の後半では、Azure OpenAI Service上で動作する「GPT-4o」をベースにした近未来の顧客対応の姿を動画で紹介した。
GPT-4oは、テキストに加えて画像や音声を組み合わせて入出力できる上、回答速度が高速化されている。会場では、GPT-4oを搭載したボイスbotが顧客の発話内容や映像をリアルタイムで分析して、顧客の質問に自然な口調で回答するという動画が投影された。顧客が回答を途中で遮ったり異なる言語で発言したりしてもスムーズに対応している様子が印象的だった。
大谷氏は「GPT-4oは、人間にかなり近い対応ができるところまで来ていると言えます」と強調する。この流れを受けて日本マイクロソフトはソフトバンクと共に、生成AIでコンタクトセンター業務の自動化を加速させる開発を進めている。
「コンタクトセンターの1万以上ある業務フローを効率化するために生成AIを活用します。開発を通して、生成AIに考えさせることでさまざまなことが可能になることが明らかになってきました。いかに生成AIに仕事をさせるか。人間がそこに頭を使うことが重要になるでしょう」
「ChatGPT」などの生成AIは汎用(はんよう)性が高く、プロンプトの工夫でさまざまなタスクを処理できる。だが、コンタクトセンターは個人情報を多く扱うため、通話データをクラウドにアップすることを禁止している企業も多いはずだ。マスキング作業をするのは業務負荷が大きい上、リアルタイム性がなくなってしまう。そこで検討したいのが、オンプレミス環境で動作可能な大規模言語モデル(LLM)の「ローカルLLM」の導入だ。
「さまざまなローカルLLMを使って検証した結果、用途を特化し、独自のノウハウで学習させることで高い精度の処理が可能なことが分かってきています」と話すのは、アドバンスト・メディアの今宮元輝氏(執行役員 CTI事業部 部長)だ。アドバンスト・メディアは「AmiローカルLLM」を開発し、コンタクトセンターでの活用に向けた検証を進めている。
ローカルLLMのメリットはセキュリティだけではない。今宮氏は、コンタクトセンターならではの視点でその価値を説明する。
「ローカルLLMは目的に合わせてファインチューニングできます。RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を併用することで回答の正確性も向上させられます。通話内容の自動要約やVOCの抽出、FAQを拡充するためのQ&A抜粋など、より高い精度で業務に応じた処理が可能になります」
今宮氏は、同社の音声認識ソリューション「AmiVoice Communication Suite」とChatGPTをうまく組み合わせる方法を紹介した。AmiVoice Communication Suiteが提供する通話内容の自動採点結果や顧客の感情解析結果をChatGPTに読み込ませ、フィードバック文を生成するものだ。
「お客さまから『通話内容の自動採点はありがたい機能だが、特に苦労するのはその結果をオペレーターにフィードバックする作業なんだよね』との声がよく寄せられます。汎用性が高い生成AIを活用すればその負担を軽減できるはずです。感情解析結果の分析やオペレーターのストレス推移をChatGPTにグラフ化させるのも有効です。的確なフォローが可能となり、オペレーターの離職率の減少にもつながるでしょう」
コンタクトセンターが担う電話業務の効率化は、多くの企業にとって早急に解決すべき課題の一つだ。そのために重要視されてきたのは、チャットbotやボイスbot、FAQを使って顧客に自己解決を促すことだ。
PKSHA Communicationの宮崎純一氏(Voicebot事業部長 Voicebotプロダクトオーナー)は、「これからのコンタクトセンターには、それにプラスする形で有人対応の高品質化とACW(After Call Work:平均後処理時間)の効率化が求められます」と話す。
電話応答の自動化ツールである「PKSHA Voicebot」の特徴として、住所変更手続きなどの業務を自動化するワークフロー構築が可能な仕組みや、ボイスbotがヒアリングした情報をCT-e1/SaaSと連携して、オペレーターの負荷低減につながる仕組みを紹介。住所変更手続きや通販受注、用件確認・振り分けなどの業務で、月間2000〜10万件の入電が自動化された事例を挙げた。
続けて「コンタクトセンター向けの製品は『音声認識/オペレーター支援』『自動要約/カテゴリー分類』『対話分析/応対品質の評価』を担う必要があります」と説明し、これらを担う製品として、AI音声書き起こし、分析ツールの「PKSHA Speech Insight」を紹介した。
投影されたデモ動画では、顧客とオペレーターの通話内容がPKSHA Speech Insightの画面でリアルタイムにテキスト化される様子と、AIが会話の文脈などから認識した言葉の意味を読み取り、正しい言葉に自動で修正する様子が紹介された。
オペレーターが問い合わせに対応する際は、FAQを検索しながら回答する場面も多いだろう。その場合も、画面に表示されている検索窓からクリック操作のみで簡単に検索できる。通話が終了するとその内容が自動で要約されるため、オペレーターは通話中にメモした内容に沿って修正するだけで正しい記録を残せる。ACWの削減に貢献するはずだ。
宮崎氏によると、PKSHA Speech Insightを導入したある金融機関は平均対応時間を約23%削減できたという。「年間では約2万5000時間にも及び、生産性を大きく改善できました」
1日を通して8つの講演が続いたパイオニア・ブリーフィングの各講演には多くの参加者が集まった。コンタクトセンターDXの本質は、集めたVOCを活用してCX向上や顧客へのネクストアクションにつなげることだ。講演内容を通して、生成AIの進化がコンタクトセンターDXの実現に大きく貢献することが理解できたのではないか。
コンタクトセンター マッシュアップ ボックス 2024は、本記事で紹介したパイオニア・ブリーフィングの他に、CT-e1/SaaSと連携可能な製品を展開する「ディスカバリー・ラウンジ」も併せて開かれた。その様子はこちらの記事で確認してほしい。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2024年10月14日