技術の掛け合わせが医療体験を変える カケハシとゲルテックが語る、柔軟なパートナーシップが開く未来
持続可能な医療提供体制の構築が求められる現在、薬局の役割は、薬を渡すだけでなく「一人一人の患者と向き合いながら治療支援に取り組むこと」と再定義する動きが活発化している。この状況を、国内の医療課題解決を目指して業界に変革を起こす好機として捉え、カケハシとゲルテックが業務提携を発表した。両社の共創は次世代の調剤インフラの構築にどう貢献するのか。両社のキーパーソンに聞いた。
日本の医療インフラは、新たな進化の時を迎えている。超高齢社会の進展に伴って医療ニーズが高度化・多様化する一方、労働力が減少している中で、持続可能な医療提供体制を構築することが強く求められている。これに応じる形で現場のオペレーションを再定義する動きが官民を挙げて活発化し、新しい技術の実装を後押しする環境が着実に醸成されつつある。
厚生労働省は2025年12月、「令和8年度診療報酬改定の基本方針※」において、超高齢者社会に加えて持続的な物価高騰の中、限りある医療資源を最適化・効率化して活用するために、医療現場におけるICT、AI、IoTなどの利活用の重要性を示している。
こうした中、全国の薬局では業務プロセスのさらなる最適化が重要なテーマになっている。薬剤師の業務負担を軽減して患者と向き合う時間を創出するため、電子薬歴システムやレセプト(診療報酬明細書)を自動で作成するレセコン、その他業務効率や経営改善を目的としたシステムを統合して業界全体のプラットフォームとして機能させることが期待されている。
この課題に立ち向かうのが、カケハシとゲルテックだ。両社は2025年12月に業務提携し、業界の変化やニーズを見据え、新たなサービスの共同企画と開発に着手する。
カケハシは「日本の医療体験を、しなやかに。」をミッションに掲げ、薬局体験アシスタント「Musubi」を中心とした各種ソリューションを提供するヘルステックスタートアップ企業だ。国内薬局の20%超、グループ全体で1万4000店舗超をカバーする顧客基盤を有し、全国の薬局のパートナーとして実績を築いている。
対するゲルテックは、AIを核に医療現場の業務プロセスを再定義するテクノロジー企業だ。処方箋の自動受付機「PharmaKIOSK」やAIによる薬歴作成支援システム「YAKUREKI-AI」など、現場のニーズに応える高い技術力と開発機動力を武器に、次世代の医療サービスを具現化している。
「私たちが向き合う課題は、この国の医療システムをより良くするという極めて大きな社会的意義のあるものです。処方箋の受け付けや調剤、鑑査、服薬指導といったワークフローがシームレスにつながった世界をスピーディーかつ確実に実現するためには多様な強みを掛け合わせることが不可欠です」と語るのは、カケハシCTOの湯前慶大氏だ。
カケハシがゲルテックと業務提携した背景には、医療・調剤分野で乱立するシステムをつなぐプラットフォームを構築し、革新的な技術を柔軟に取り入れて社会実装を加速させたいという思いがある。
調剤薬局業界でも業務のさらなる効率化と質の向上が求められている。人員体制を最適化しつつより専門性の高い対人業務にシフトするための仕組みづくりが急務だ。カケハシは、自社の強みである広範なプロダクト群とパートナー企業が持つ「特定の業務を進化させるピース」をつなぎ合わせて、薬局の業務プロセスを進化させるエコシステムの構築を目指している。
湯前氏は、共創によるエコシステム構築の重要性を次のように述べる。
「大きな社会課題に1社だけで向き合って全てを担うのは現実的ではありません。同じ目標を持つ企業が集まって課題に総合的に向き合う状態をどう作るのかが大事だと考えています。そのための仕組みづくりが、今まさに求められているのです」
※ 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の基本方針」
共通の思想が生んだ両社のシナジー
ゲルテックは、AIを駆使して医療・調剤サービスを支援するプロダクトを展開している。自動受付機や薬歴作成支援システムといった薬剤師のニーズを的確に捉えた製品群は、カケハシの製品群やエコシステム構想と高い親和性を持つ。
両社の提携において決定打となったのは、技術に対するカケハシの深い理解とゲルテックの体験設計へのこだわりだ。湯前氏は、ゲルテックのプロダクトについて「ユーザー体験が研ぎ澄まされている」と高く評価する。
ゲルテックのムンフバータル・ガンムルン氏も「技術はあくまで手段です。ゴールはユーザー体験をどう高めるかにあります。そのコアになる思想がカケハシさんと完全に一致していました」と振り返る。
カケハシが持つ強固な顧客基盤とゲルテックの機動的な開発力。この相乗効果によって新しい業務プロセスを業界の標準として波及させられる。ガンムルン氏は、カケハシの姿勢に深い感銘を受けたと振り返る。
「カケハシさんは、業界の変革を本気で目指している数少ない存在だと認識しています。私たちの技術がそのエコシステムに寄与できることに大きな意義を感じています」
薬局業界を通じた、確かな社会実装に向けて
薬局業界における新技術の導入で最も重要視されるのは、信頼性と実運用への適合性だ。「既存のオペレーションとどのように調和し、確実な効果を生み出せるか」という視点が欠かせない。
今回の提携によって、カケハシの広範な顧客基盤とゲルテックの高度なAIを融合させてニーズに合致した新しい製品やサービスの共同開発を加速させる体制が整った。両社のアセットを組み合わせることで、次世代の薬局体験を形作るシステムの創出を目指す。
「カケハシが持つプラットフォームにゲルテックさんのAIエンジンを組み込むなど、両社の強みを統合した新しい価値提供の形を模索しています。現場でPoC(概念実証)を実施してフィードバックを共同開発に反映することで、実運用に即したプロダクトに昇華させます」と湯前氏は意気込む。
共同開発のプロセスは単なる機能追加ではなく、薬局現場のワークフローを再定義する試みだ。「両社のエンジニアが連携して知見を融合させることで、業界の常識を塗り替えるような製品を世に送り出したいと考えています。大手企業の意思決定層に対しても、ITツールの導入にとどまらず業務フロー自体を再定義して現場の在り方を変革する『新しいインフラの姿』として価値を提示することが欠かせません」とガンムルン氏は強調する。
共創による製品開発は、現場の声を製品やサービスに変換し、医療DXを真の実装フェーズに押し上げる重要なエンジンとして機能するはずだ。
AIの社会実装におけるリアリズムと、これからの展望
AIの活用においても、両社は実利的な視点を持っている。湯前氏は、中小規模だけでなく、大手チェーンが全店舗で持続的に運用できる「コスト」と「信頼性」のバランスを重視する。
「全ての領域に汎用(はんよう)的なAIモデルを導入するのではなく、エッジデバイスで完結させるべき領域と専用モデルを使い分けられれば、導入コストは抑えられるはずです。その研究や開発もゲルテックさんと共に進めたい項目の一つです」
ゲルテックのバトエレデネ・ハタンボルド氏も「AIは薬剤師の業務を支え、より専門性の高い領域にフォーカスするための有力な武器になります」と語る。
「AIは、効率化だけではなく業務の質を変えるものになると確信しています。顧客からのフィードバックやカケハシさんの強固な顧客基盤を活用することで、非常に大きなシナジーを発揮できるはずです」
国民の健康を支える現場にふさわしい責任あるAI実装。その設計思想こそが、これからの医療DXの基盤になる。
現在、カケハシのプロダクト戦略は、単一の機能改善にとどまらず、医療体験のプロセス全体を支えるプラットフォームへの進化を目指すフェーズにある。対話音声や手書きメモ、服薬指導記録といった膨大な非構造化データを活用するのが次の一手であり、医療従事者が本質的な対人業務に集中できる環境を最速で構築することを目指している。ゲルテックが得意としている業務プロセスを再定義するプロダクトやAIの活用技術は、まさに同社の目指す方向性と一致している。
湯前氏が率いる開発組織は「医療体験が日々進化する世界の実現」というミッションを掲げている。日々の小さなアップデートの積み重ねこそが、大きな変革を生むという考え方だ。毎日デプロイして少しずつ変化させることを重視するカケハシにとって、ゲルテックのような機動力のあるパートナーとの共創は、まさにミッションを加速させるためのエンジンだ。
1社では成し得ない「医療体験の変革」に向けて
インタビューの結びとして、湯前氏は今後の展望を次のように締めくくる。
「当社が目指すのは、多様な強みを持つ企業と手を取り合って理想とする未来を実現させることです。医療に特化したAIモデルの構築や現場のやりとりを可視化する音声認識技術など、特定の領域で高い技術を持つ企業と柔軟に連携できれば私たちが提供できる価値は飛躍的に広がります。
医療、調剤薬局業界の課題は極めて多層的であり、汎用的な技術をいかに最適化するかが鍵となります。だからこそ異なる領域の知見を柔軟に取り入れてプロダクトに昇華させる。こうしたエコシステムによる共創こそが、この国の医療体験をアップデートするための最短距離だと信じています。カケハシとコラボレーションすることで、自社の取り組みをより推進できる。面白いことができる。と感じてくれる企業がいましたら、声をかけていただけるとうれしいです」
今まさに進んでいる制度改革を追い風に、より多くの技術が、より多くの現場でよりしなやかに活用される未来へ。カケハシとゲルテックの提携は一つの通過点に過ぎない。両社の共創が描く新しい医療体験の形が、これからの業界のスタンダードになる日も近い。
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提供:株式会社カケハシ
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2026年6月8日






