広告を“売る手段”から“ブランドを育てる力”へ ドウシシャがAmazon Adsで切り開いた広告展開の軌跡
社内理解、予算ゼロから始まったドウシシャのオンラインストアと広告運用。欠品の失敗や商品のヒットを経て、フルファネル戦略でブランドを育てる挑戦に迫る。
「ゴリラのひとつかみ」――強いエア圧でふくらはぎをケアし、SNSを中心に話題を呼んだ商品。手掛けたのは商社機能とメーカー機能を併せ持ち、家電から日用品、食品、インテリアまで展開するドウシシャだ。
同社がヒット商品を生み出して、オンラインストアを着実に成長させている要素の一つが、Amazon Adsの活用だ。商品や企業のブランド成長の裏には、2人のキーパーソンの存在がある。
一人は、オンラインストアの運営からWebサイト制作、広告運用、インサイト分析まで統括する白石圭司氏。オンラインストア黎明期から10年以上にわたってAmazon Adsの活用をけん引してきた、「継続は力なり」をモットーにする堅実なベテランだ。
もう一人は、家電商品部で「ゴリラシリーズ」のブランドマネジャーを務める水島英恵氏。入社2年目に企画したゴリラのひとつかみがSNSを発端に一世を風靡(ふうび)した、「ひらめきと圧倒的な行動力」で市場に新風を吹き込む若手ヒットメーカーだ。現在はシリーズ全体を統括している。
一見対照的な2人に共通しているのが、ドウシシャの行動指針「ENJOY」の精神だ。単に気楽に楽しむという意味ではなく、「やってみないと分からない、面白ければまず挑戦しよう」と前向きに挑み、失敗しても切り替えて次の学びにつなげる姿勢を指す。
堅実な運用と情報分析で土台を固める白石氏と、自由な発想とスピード感で新市場を切り開く水島氏。「ENJOY」の精神が掛け合わさり、Amazon Adsの活用は進化してきた。
社内理解、広告予算ゼロからの挑戦
しかし、その始まりは順風満帆ではなかった。
ドウシシャがAmazonで展開を始めたのは2016年。当時の社内には「Amazon=価格破壊」という警戒感があり、オンラインビジネスにもアウェ―な空気が漂っていた。先行投資に慎重な社風もあり、広告予算はゼロ。広告運用のノウハウもなく手探りの状態だった。
「オンラインストアを伸ばすのは難しい」と葛藤していた白石氏。しかし、「なぜ自分は仕事をしているのか」と原点に立ち返り、「お客さまのために価値を届ける」という視点へ意識を転換させた。
「できることから始めるしかない」と決意した白石氏がまず着手したのは、Amazonの商品ページの整備だ。当時は営業担当者が個々の判断で画像や商品ページを作成しており、訴求内容やデザインに統一感がなかった。
「訴求ポイントがバラバラで、フォントや世界観も統一されていませんでした。これではお客さまに価値が伝わらないと痛感して、ブランドイメージに合わせた情報とデザインの統一から始めました」
地道な改善が実を結び、1日に1個しか売れなかった商品が2、3個と売れるようになり、小さな成功体験が社内理解を広げる一歩になった。
インサイトを起点に「守り」と「攻め」の施策を拡大
手応えを得た白石氏は、売り上げの範囲内で捻出した予算で「スポンサープロダクト広告」を開始した。大きな収穫は、生活者がどんなキーワードで商品にたどり着き、購入するのかというインサイトを可視化できたことだ。
フライパンなどの調理器具ブランド「evercook」(エバークック)は「こびりつかない」「軽い」「洗いやすい」といったキーワードが購買に結び付いていることが分かり、商品ページに反映させた。成果を数字で証明することで社内の信頼と予算が拡大し、持続的な投資サイクルが生まれた。
しかし購入意欲の高い層にリーチするスポンサープロダクト広告だけでは、ROAS(広告費用対効果)のみを追求することになる。結果、確実に売れる領域にしか広告を出せず、リーチが頭打ちになってしまった。
次の展開として導入したのが、「スポンサーブランド広告」を用いた「守り」と「攻め」のキーワード戦略だ。
- 守りの施策:「evercook」などの指名検索キーワードを押さえて、関心を持つ生活者に確実に届ける施策。
- 攻めの施策:「フライパン」といったビッグキーワードや関連ワードに投資して、新規層の開拓を狙う施策。
その結果、スポンサープロダクト広告との相乗効果が生まれて、コンバージョン率は従来の1.9ポイント(2026年7月時点、ドウシシャ調べ、以下同)に改善した。
長期欠品の失敗がもたらした組織改革
広告効果を高めたドウシシャだったが、その過程で大きな壁にぶつかることになる。大型セール時に広告を集中投下して大きな売り上げを達成したものの、在庫確保や供給体制の予測が甘く、2〜3カ月の在庫切れを引き起こしてしまったのだ。
在庫切れは生活者に商品を届けられないだけでなく、広告投資によって引き上げてきた自然検索の表示順位の下落も招いた。在庫復旧後も、下がった順位を戻すため広告費を投入し直さざるを得なかった。
「せっかく投資して育てた成果を無駄にしてしまい、大きな反省になりました」と振り返る白石氏。失敗を機に広告単体での運用を改めて、需要予測や生産計画、在庫管理と広告戦略を組織横断で連動させる体制へと転換した。
営業部門と連携して1年先までの販売計画を精緻化し、TACOS(総売上に対する広告費比率)などの指標を用いて厳格に管理。供給が不足しそうな場合は広告を抑制して欠品を防ぎ、在庫が十分な場合は広告を強化する。「感覚」ではなく「数字」に基づいて需要と供給をコントロールする意思決定プロセスを確立した。
SNSの“バズ”を一過性で終わらせない 商品力とフルファネル広告の融合
組織体制が整う中で生まれたのが、ゴリラのひとつかみのヒットだ。SNSで800万インプレッションを記録して、一晩で主要オンラインストアの在庫が全て無くなった。
社内ではこの勢いを一過性で終わらせず、売り上げを伸ばしてブランドを育てる広告展開を模索し始める。
水島氏自身、過去に「広告ありき」で企画を進め、商品の設計や作り込みの甘さから売れなかった苦い経験を持っていた。「広告を出せば売れるわけではありません。確かな商品力とそれを伝える戦略があってこそ、広告効果が最大限に発揮できます」
そこで同社は商品開発と広告運用の連携体制を構築。1年近くかかっていた家電の開発期間を最短3カ月〜半年に短縮し、矢継ぎ早に新商品を投入した。ドライヤーや調理器具、サンダル、機能性インナーなどにもゴリラシリーズを横展開して、話題の鮮度とタッチポイントを維持し続けた。
これを受けて、白石氏はAmazon以外のサイトにも広告を掲載できる「ディスプレイ広告」を導入。ディスプレイ広告で自社商品に興味がありそうな人や過去に商品を見た人にアプローチして認知を広げ、スポンサーブランド広告でシリーズ全体を覚えてもらい、スポンサープロダクト広告で購入を促す、という戦略に進化させた。
「SNSのバズで生まれた認知を広告施策で追いかけ、ブランドストーリーを伝えることで売り上げと信頼を積み重ねる。これによって、一過性のブームから長期的に愛されるロングセラーへの育成につながっています」(白石氏)
広告展開の拡大による新たな生活者との接点
ドウシシャが次に見据えたのは、商品やブランドを知らない潜在層へのアプローチだ。
まず、Amazon外の潜在層に接触できる「Amazon DSP」を導入し、新規オーディエンスの開拓で手応えを得た。新カテゴリーの上流認知へと段階的に拡大し、ゴリラシリーズの認知度はAmazon DSP導入前と比べて10.94ポイント上昇(2026年6月時点)した。
さらに、「Prime Video広告」の運用をスタート。「速乾」「時短」が特徴のドライヤー「ゴリラのひとふき」を訴求するこの施策には、過去の失敗を乗り越える決意があった。
「約10年前、認知を目的にした広告施策に取り組んだものの売り上げにつながらず、効果測定さえ曖昧なまま終わってしまったトラウマがありました」(白石氏)
Prime Video広告は接触する層の情報を蓄積し、その後のデジタル施策で再アプローチできる。結果が数字で見える点も、挑戦の後押しになった。
「1回の接触だけで購入に至るケースはまれです。Prime Video広告で接触した層のインサイトを集め、Amazon Marketing Cloud(AMC)も活用しながらセール期や購買タイミングに合わせて複数回アプローチすることで、お客さまの選択肢に入り続ける設計にしています」(白石氏)
Prime Video広告を展開した2026年7月、ゴリラのひとふきは過去最高の月間販売数を記録。Amazon内のドライヤーカテゴリーで7位に食い込み、各広告展開の相乗効果を証明してみせた。ゴリラシリーズ全体でも、前年同期比で約140%の売り上げ(2026年8月時点)を達成。「単に商品を売るだけでなく、ヒット商品を『ドウシシャ』という企業ブランドの信頼につなげたいですね」と白石氏は期待を込める。
完璧を待たずに踏み出す一歩が、ブランドの未来をつくる
社内理解も広告予算もゼロで始まったドウシシャの挑戦。欠品の失敗を乗り越えてきた軌跡は、Amazon Adsが「ブランドを育てる力」になることを示している。
白石氏は「確実な答えを求めて立ち止まるのではなく、まずは小さくてもいいから一歩を踏み出してみることが大切です。数字で事実を可視化して説得力を持って社内を巻き込んでいけば、必ず道は開けると思います」と話す。
水島氏も「確信が持てる商品があるのなら、失敗を恐れずチャレンジすべきです。動いてみなければ得られない経験や情報こそが、次の成長を生む貴重な資産になります」と続ける。
実績に基づくロジックと、失敗を恐れないパッションを掛け合わせて進化を続けるドウシシャの姿勢は、ブランド成長に挑む事業者への道しるべになるはずだ。
記事で追った戦略や数値、組織改革のプロセスは、ドウシシャの挑戦の断片に過ぎない。白石氏と水島氏の挑戦とブランド構築のリアルな姿は、Amazon Adsが展開しているグローバルプログラム「Rising Stars」のドキュメンタリー映像に刻まれている。記事で運用の実践知を学んだ後は、映像で挑戦の全貌に触れてほしい。
※本記事の内容は参考事例であり、全ての広告主様が同様の結果を得ることを保証するものではありません。
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