2015年7月27日以前の記事
検索
Special

京急電鉄、SAP S/4HANAのマスタ登録・更新業務をkintoneで効率化:申請から取り込みファイル生成までを一元管理、市民開発への拡大も

京浜急行電鉄株式会社はグループ共通の会計システムとして「SAP S/4HANA」を運用する中で、取引先マスタの登録や更新におけるExcelとメールのやりとり、複雑な入力手順による現場の負担増や対応の属人化に悩まされていた。この課題を解決するため同社が選んだのが、「kintone」だ。

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena
PR

 グループ経営の高度化や決算の早期化を目指し、基幹システムを「SAP S/4HANA」へ移行・統合する企業が増えている。グループ共通の会計基盤を整えれば、連結決算に必要なデータの収集や照合の手間が減り、連結会計業務を大きく効率化できる。

 一方で、導入後に多くの企業が直面するのが「入力」の壁だ。SAPは勘定科目や各種コード、マスタデータの体系が緻密で厳格な分、入力には専門的な知識が求められる。日常的にSAPに触れる経理部門の担当者ならともかく、事業部門のユーザーが正確に入力するのは容易ではない。とはいえ、取引の起点は現場にある以上、事業部門による入力を避けて通れない。その結果、事業部門が入力した情報の確認や差し戻し、SAPへの転記といった作業が経理部門に積み重なり、かえって業務負担の増大を招いてしまうケースも多い。

 サイボウズの「kintone」(キントーン)を活用することでこの課題に対する現実解を見いだし、業務負担の軽減や処理時間の削減を実現したのが京浜急行電鉄株式会社(以下、京急電鉄)だ。SAP S/4HANAと現場をどのようにつないだのか、同社の田中晋平氏、田中裕貴氏、池田克彦氏に話を聞いた。

photo

Excelとメールに依存した取引先マスタ申請が現場の負担に

 鉄道やバスを中心に、不動産、ホテル・レジャー、流通など幅広い事業を展開する京急電鉄。同社は、業務基盤の共通化と効率化を推進するため、1990年代に構築したほぼフルスクラッチの会計システムをSAP S/4HANAに刷新。2022年よりグループ各社に順次導入し、グループ共通の会計システムとして運用を開始した。これにより、ばらばらだったマスタの登録ルールも統一された。

 しかし、会計システムの運用を進める過程で新たな課題が発生した。その一つが、取引先マスタの申請業務だ。SAP S/4HANAでは、仕入れ先や得意先を一つの取引先マスタで管理するため、属性情報や詳細情報などの入力項目が多くなり、さらに各項目には文字種や桁数の厳格な規則がある。

 田中裕貴氏は「現場がSAP S/4HANAの画面から直接登録するのは難しいため、取引先マスタの登録や更新をExcelの申請書で記入し、グループウェアやメールなどでグループ各社から申請を受け付けて出納担当者が内容を確認。その後、Excelマクロを使ってSAP S/4HANA用ファイルを生成する、という煩雑な手順を踏んでいました」と振り返る。

photo
京急電鉄の田中裕貴氏(経営戦略室 業務デザイン担当 ITマネージャー/課長補佐)

 業務フローの煩雑さもさることながら、利便性を求めてExcelを利用したことにより「SAP S/4HANA特有の入力項目が複雑で、申請書への入力漏れや入力形式の不備(半角カナの混入、略称ルール違反など)の多発」「各所からのメールでの授受によって、最新版や対応状況の把握が困難」「入力項目に応じて確認箇所が多く、申請内容の確認や差し戻しに時間がかかる」などの課題が散見された。

 その結果、マスタを申請する各事業部門や各グループの担当者と、チェックする出納担当者の負担が増大していた。「申請側はミスを恐れながらExcelシートを作成し、出納側は不備の多い申請を指摘せざるを得ないため、コミュニケーションの面でもギスギスしていました」(田中晋平氏)

 このように負担の大きい業務であるにもかかわらず、グループ全体で取引先マスタを一括管理したことにより、1日に10件以上の追加や更新の申請が発生する日もあり、現場は逼迫(ひっぱく)していた。

kintoneでSAP S/4HANAアップロード用ファイル作成へ 柔軟な項目設定と拡張性が選定の決め手に

 そうした取引先マスタの申請や更新業務に関する課題を解決するために同社が選んだのが、グループ内で利用実績があったkintoneだ。

 当初kintone以外のノーコード/ローコードツールも比較検討したが、画面やプロセスを柔軟に設定でき、単純な処理だけでなく、複雑な処理まで容易に対応できることが決め手となった。

 2024年8月にプロジェクトを始動し、IT部門の伴走の下、プロトタイプを作成して一部の利用者に公開、改善点などのフィードバックを受けてアプリに反映するアジャイル型で進行した。その後、経営戦略室が中心となり、出納担当者も巻き込みながら開発を進めて、実作業としては3〜4カ月程度と短期間で本番稼働にこぎ着けた。「開発に当たったのは経営戦略室の2人ほどで、出納担当者の横で『こうですか』と確認しながら、その場でスピーディーに作り込みました。『こんな短期間でアプリが開発できるのか』と経営層や上級管理職からも驚きの声が上がったほどです」(田中晋平氏)

photo
京急電鉄の田中晋平氏(経営戦略室 業務デザイン担当 課長)

 開発過程での最大のポイントは、SAP S/4HANAとkintoneの連携だ。同社は、APIを使って両システムを直接つなぎ、データを自動でやりとりすることはせず、kintoneからファイルを出力し、SAP S/4HANAに手動でアップロードするという方式を採った。

 このような構成にした理由の一つは、コストと期間だ。SAP S/4HANAとAPI連携する場合はSAP側の改修が伴い、協力会社への委託が必要になる。

 一方で、ファイルを介した連携の場合はファイル取り込み用のアドオンがすでに用意されており、SAP側の改修は必要ない状態だった。

 そのため同社は、マスタ申請、承認、データ整形を担うフロントのアプリをkintoneで開発。SAP S/4HANAへの最後の取り込みは出納担当者の手作業として残したものの、データを一元管理できるkintoneを加えたことで業務プロセスとしては非常に効率が上がり、既存のSAP運用をそのまま生かしつつ、マスタ申請業務を改善できた。

不備を申請時点で止める設計

 アプリの設計で重視したのは、これまで承認後やSAP S/4HANAへの取り込み時に見つかっていた不備を、申請の時点で防ぐことだ。

 申請者が法人番号やインボイスの登録番号を入力すると、会社名や住所が自動で入力される。その際、カナ表記は自動で変換され、「株式会社」の表記揺れは変換ルールで統一、半角カナは入力時点ではじく。従来は出納担当者が行っていた重複チェックも申請画面に組み込み、すでに登録済みの取引先や口座があれば申請者に知らせる。

photo
(提供:サイボウズ)《クリックで拡大》

 出納担当者が承認すると、SAP S/4HANA取り込み用のファイルは、ボタン1つで生成可能になる。「入力制御を設けたことで、SAP S/4HANAに取り込むための細かな要件に自動で対応できるようになりました。手作業は、最後のSAPへの取り込みだけです」(池田氏)

 内容確認、差し戻し、承認といったステータスの更新はプロセス管理機能を利用して、ボタン一つでできるように。さらに、コメント機能で申請に関連するやりとりをすることで、一つの画面上で全ての申請作業が完結し、可視化と効率化を両立させた。

photo
(提供:サイボウズ)《クリックで拡大》

申請〜ファイル生成まで一元化、年間約600時間の業務削減を見込む

 取引先マスタ申請・登録アプリは、2026年2月より本格稼働を開始した。申請内容や対応状況、過去の申請・変更履歴などをkintoneに集約したことで一元管理できるようになり、管理者側からの統制を効かせられるようになった。SAP S/4HANAへの取り込み時に利用していたExcelマクロの保守からも解放された。

 「申請時の記入漏れや入力形式の不備が抑えられ、申請者と出納担当者の負担が激減しました。SAP S/4HANAへのアップロード用ファイルの生成も標準化されて、担当者ごとの作業のばらつきや属人化の抑制につながっています」(田中晋平氏)

 まだ測定中ではあるものの、定量効果も次第に見えてきた。

 「グループ約40社から1日約10件の申請があり、従来のExcel運用時は1件当たり10〜30分程度かかっていました。年間2400件とすると、出納担当者の処理時間は年間400〜1200時間に相当します。今回のアプリ導入によって目視確認や差し戻しが大幅に減っており、平均処理時間が1件当たり20分から5分に短縮されたと仮定すれば、年間約600時間、約75%の削減効果を見込めます。申請者との確認作業やデータ検索、申請者自身の入力時間も減ることから、さらなる効果も期待できます」(田中裕貴氏)

成功体験を起点に、市民開発の拡大とAI活用を推進

 少人数、短期間で実務に堪えるアプリを構築できた経験は、管理部門改革や現場部門のDXを進める上での大きな足掛かりとなり、京急電鉄は現在、現場や管理部門の担当者がkintoneを使って改善に取り組む「市民開発」の裾野を広げる方針を打ち出している。

 具体的に進めているテーマの一つが、SAP S/4HANA保守用の「問い合わせ管理アプリ」だ。保守チームや経営戦略室など複数の関係者が関わる中、2022年から問い合わせ内容や対応状況をExcelで個別管理してきた。「共有フォルダで運用しているExcelシートをkintoneでアプリ化することで、問い合わせの一元管理とデータ検索時間の削減のほか、コメント機能を使用した関係者間のコミュニケーション強化が期待できます」(田中裕貴氏)

 業務をkintoneに置き換えていく中で、副次的な効果も生まれている。

 「アプリ化の過程で作業の棚卸しや整理をするため、業務プロセス全体が可視化されます。それによって無駄が削減されるなど、単なる効率化を超えた変革が期待されます」(池田氏)

photo
京急電鉄の池田克彦氏(グループ統括部 グループICT推進担当 ITエンジニア)

 SAP本体には手を入れずに、周辺業務をkintoneで受け止める。この取り組みは、SAP S/4HANAへの移行を終えた企業にとって、1つの現実的な選択肢を示している。

※この記事は、サイボウズより提供された記事をITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集したものです。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:サイボウズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2026年12月3日

ページトップに戻る