現在に通用する質感と性能、そして一芸――ニコン「COOLPIX950」:矢野渉の「クラシック・デジカメで遊ぶ」(2/2 ページ)
スイバルというユニークな形状で記憶されていることの多いCOOLPIX 9xxシリーズだが、「COOLPIX950」の完成度の高いスタイルと強力なマクロ機能はいまでも魅力的。加えて、現在だからこそ使いやすくなっている部分すらある。
今でも語り継がれる一芸「驚異のマクロ機能」
E950が支持された理由は「徹底したボディの作り込み」だけではない。撮影機能で「一芸」とも言える特徴を持っていた。それが「マクロ機能」である。この35ミリ判換算で38〜115ミリのズームレンズは、ミドルポジション、つまり60ミリあたりで最も撮影倍率が高くなる。レンズ前2センチまで寄れるのだ。よくあるワイド端でのスーパーマクロとは次元が違う。被写体にパースをつけることなく、キレイなマクロ撮影が可能なのだ。
COOLPIX 950のレンズは“ZOOM NIKKOR”の7-21mm F2.6-4。明るい割にコンパクトなレンズだ。インナーズーム、インナーフォーカスで全長が全く変化しないのでマクロ撮影がしやすい
そのころ僕のまわりにいたPC雑誌の編集者達は、E950をほとんどマクロ撮影用に使っていた。PCのマザーボードを外すとき、フロントパネルとつながるコネクターの複雑な配線を撮影しておき、組み直す時の確認用にしたり、基板上の小さなチップの、肉眼で読めないようなシルク印刷を撮影し、PC画面上で拡大して型番を読んだりしていた。
そのような使い方はいわゆる「写真」の概念からは外れるのかもしれないが、多くのカメラメーカーが戦時中の照準器や潜望鏡、あるいは顕微鏡にルーツを持っていることを考えれば、実用で使えるマクロ機能を付加できるメーカーは、本当の意味での光学メーカーと言えるのかも知れない。
寄って寄って、寄りまくって遊ぼう
E950に電池を入れたら、まずそのフォルムを楽しもう。グリップの具合、スイバルのカチッとした感触を確かめ、ボディをクロスで拭いてみたりするのもいい。近くに年長の人がいれば「懐かしいですね」と声を掛けられるかもしれない。
撮影は、特に場所を決める必要もない。身の回りにあるものを撮る。ただし、寄る。マクロいっぱいまで寄る。すると、いつも見ていた日常の風景が一変するのだ。マクロのなかにある宇宙を見てしまったような気分になる。
E950でマクロ撮影をするときには、2つの注意点がある。まず、2インチポリシリコン液晶の発色を信用しないこと。激しく緑かぶりしている。その色を基準に考えると撮影が嫌になるほどの色だ。脳内で変換して見るか、どうしてもという人は液晶に20M(20%マゼンタ)のゼラチンフィルターを貼りつけたほうがいい。
もう1つはマクロ撮影時の合焦の遅さだ。マニュアルフォーカスでは10センチまでしか寄れないので、オートフォーカスに頼るしかないのである。ただしデジカメによくあるような、最短撮影距離と無限遠を何度も行ったり来たりして、結局ピントをはずす、というようなものではない。E950は、100%ピントが合う。しかし、そこまで辿りつくまでにちょっと時間がかかるだけなのだ。
被写体をフレーミングしてシャッターボタンを半押しすると、E950はしばらくじっとしている。ここで諦めてはいけない。おそらく何かを分析中なのだ。やがてちゅうちょなくピントを合わせ、その後二三度ほんのわずかな微調整をしたあと、合焦のグリーンランプが点灯する。
とにかくE950を信じて待てば良い。結果は裏切らない。
おそらく「マクロ」という特技で、今だに現役で使用されているであろうE950。あらためて使ってみて、そのポテンシャルには驚かされた。
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