矢野渉の「クラシック・デジカメで遊ぶ」
コダクロームの発色を楽しむ――ニコン「D1」(1/2 ページ)
クラシック・デジカメとは
フィルムカメラに代わってデジタルカメラが普及しはじめてもう15年が経とうとしている。カシオ計算機「QV-10」の衝撃的なデビュー(このカメラに関しても、いずれ語らなくてはならないだろう)から始まったデジカメの進化は、フィルムカメラの進化の歴史とは比べ物にならない程の速度で進み、既に成熟の段階に入っていると僕は思う。
もはやデジカメはどんな機種でもキレイに撮影できる機械だ。青空はどこまでも青く、人間の肌色はみな健康な色に写る。デジカメの判断基準として常に人々が気にかけていた「画素数」も、1000万画素を超えたあたりであまり話題に上らなくなってきた。
フィルムカメラの世界では、露出決定やピント合わせの自動化が進みすぎた段階でマニュアルカメラへの回帰ブームが起こり、ここからクラシック・カメラや金属製カメラの人気が出た。手に取ったときの充実感や、モノとしての存在感を楽しむこと。また、若い頃に高価で手が出なかったカメラを手に入れて「あの頃」を懐かしんだりすること。そして実際に撮影してみると、収差の補正がしきれていないレンズが面白い描写の写真を生み出したりするのだ。
ではデジタルカメラの場合はどうだろう。たぶんフィルムカメラのような盛大なレトロカメラブームは起こらない。CCD、CMOS、映像エンジンは新しいものほどそれまでのものの上を行く。フィルムカメラのように、クラシック・カメラに最新のフィルムを詰め込むことはできないのだ。古いデジカメは、悪く言えばゴミ同然になってしまうのが普通だ。
しかし、一部の、自分の道具に愛情を感じる人々(僕もそうだ)は、そのゴミにも価値を見い出してしまう。そのクラシック・デジカメの誕生した時代に思いをはせ、撮影をしながらその時代の技術レベルを反芻(はんすう)するのだ。色の傾きもノイズも、すべて想定内で今のデジカメでは撮影できない写真を造る喜び。これがクラシック・デジカメの正しい楽しみ方なのだと言えるだろう。
古いデジカメを手当たりしだいテストするという手もあるが、とりあえず僕が過去に使っていたカメラを取りあげたい。僕は、手に入れたカメラをどうしても手放すことができない性分(情がうつってしまう)なので、かなりのグッドコンディションで保存してあるからだ。
では、まずはデジタル一眼普及の原点となったニコン「D1」で遊んでみよう。
懐かしいKodachromeの発色
僕がD1を導入したのは1999年、発売と同時だった。その頃レギュラーで撮影していた、薬のパッケージ撮影をデジタル化しようと考えたのだ。カット数が多く、あがったポジフィルムの管理はかなり面倒だったからだ。デジタルデータならば過去のデータを検索するのも苦では無いだろう……。
しかし結局、この目論見(もくろみ)はうまく行かなかった。過去のフィルムのデータ(その頃はエクタクローム EPNを使っていた)と、D1からあがってくるデータの色が全く合わないからだった。
薬のパッケージは赤や青などの原色が多い。D1だとその色が「沈む」のである。「濁る」と言ってもいい。グレースケールをカットごとに写り込ませて、後でソフトウェアで正確に補正しても、どうしても同じ色にならない。
「これはコダクロームだなぁ」と僕は直感した。Kodachromeは当初、映画用フィルムとして開発されたポジフィルムである。外式(そとしき)と呼ばれる、現像時にRGBの色素を外から塗っていくという、特殊な処理をするフィルムだ。そのせいか、他のどのフィルムとも違う発色をする。ブツ撮りには向いていないが、テーマが重めの、心象風景のような写真には、そのどっしりとした発色がぴったりとくる。僕は同じ印象をD1から受けたのだ。
コダクロームは、2007年に日本での発売が中止されている。本家が無くなった今、この色を出せるのは、もしかしたらD1だけになってしまったのかもしれない。
D1の発色の特性がわかりやいように、作例を作ってみた。
タングステン光下でのAWB撮影をすると、実際より色温度の低い(つまり赤い)写真がえられた。では、とコダックのグレーカードを使ってホワイトバランスをプリセットして撮影。この写真がD1の特性が一番わかる。人形の胴体の白色は完全に補正されている(RGBがほぼ同じ値)のだが、他の色が全体に彩度が低い。人形の赤い首輪や「福」の文字も実物の赤よりもかなり冴えがない。
「色温度が低めに写る」「全体に彩度が低い」この2つの特徴を頭に入れておけば、D1での撮影ががぜん楽しいものになる。
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