水場に集まる野生動物を撮る:山形豪・自然写真撮影紀
車に乗ってサバンナを駆け回り、動物たちを撮影するというイメージが強いサファリだが、時として水場で待ち構えるのも有効な手段である。
動物は水なくしては生きてゆけない。至極当たり前の話だが、水の少ない乾燥地帯に暮らすものたちにとって、これは文字通り死活問題だ。中には水をまったく飲まなくても、植物から必要な水分を摂取できるオリックスのようなほ乳動物もいるが、大半の種はそのような特殊能力を持ち合わせていない。アフリカゾウの成獣に至っては、一日に100リットル以上の水を必要とする。
そんな大型動物が数多く生息するナミビアのエトシャ国立公園は、今年干ばつに見舞われている。6月中旬、11日間のナミビア・ツアーの最後に訪れた際も、普段ならもっと緑が残っているはずの場所が、かなり乾いていた。次の雨季が来るのは10月ごろだから、水不足はこの先も当分続くことが予想される。当然動物たちにとっては非常に厳しい状況である。決して喜ばしい事態ではないが、写真を撮影する上では、これはむしろ好条件となる。動物の活動が水場のあるエリアに集中するからだ。
このような時、むやみに車を走らせても水のない場所には動物がほとんどおらず、時間と労力と燃料を浪費するだけだ。日中の撮影は水場から水場へと移動しながら行うのが有効なのだ。また、ひとつの水場でじっと被写体が現れるのを待ち構えるという手もある。特にゾウなどは、毎日同じ時間帯に同じ水場を訪れることが多く、相手の行動パターンを把握できれば、待ち伏せが威力を発揮する。
水場に草食獣たちが集中する時期には、当然それらを目当てにライオンのような大型肉食獣もやってくる。捕食者のエサとなる動物たちは、狙われるリスクが高いことを承知しつつも、水を飲みたいという欲求に抗いきれず、遅かれ早かれ水際まで行ってしまうのだ。従って、ライオンたちはそれらを待ち構えるだけでエサにありつける。しかも、乏しい草のために栄養状態が悪くなった草食獣は、注意力が落ち、逃げ足も遅くなる。干ばつは捕食者にとっては恵みとなり得るのだ。ライオンが最も好むのは、身を隠せる樹木や岩が周囲に多い場所なので、そのような植生/地形の水場がどこにあるかを知るのも撮影においては重要なポイントとなる。
エトシャ国立公園で水場に集まる動物を撮影する方法はもうひとつある。それはキャンプの塀の中から、ベンチに腰掛けてのんびり撮影するというものだ。園内に3つあるキャンプ地には、いずれも敷地のすぐ外に水場が設けられており、石塀のすぐ向こうに集まってくるゾウやサイ、キリンなどを、ベンチに座りながら観察/撮影できるようになっている。塀自体はかなり低く、一見すると野生動物がこちらに入って来るのではと心配になるが、塀のすぐ外側には電気フェンスが設置されているので安心だ。
キャンプでの撮影は、車の中から行う場合と違い、鉄の箱に閉じ込められている閉塞感がない。大空の下、動物の足音や息づかいを聞いていると、それだけ自分が自然の中に身を置いているという実感がわいてくる。また、三脚にカメラを据え、動物たちがやってくるのを静かに待つのは気分のよいものだ。もちろん、待てど暮らせど何も現れない時だってある。自然相手の撮影とはそのようなものだ。
暗くなってからの撮影が可能である点も、キャンプの水場を軽視できない理由だ。どのキャンプでも夜間照明が設置されており、日没後でも動物たちの姿が見えるのだ。もっとも、決して野球場のナイター照明のような強烈なものではないので、かなりの高感度/低速シャッターでの撮影にはなる。ストロボも使えなくはないが、味気ない絵になりがちなので、地明かりを生かせればそれに越したことはない。
干ばつは長引くと動物たちが大量に死ぬことになるので、決して喜んではいられない事態だが、正直なところ今回のエトシャ国立公園での撮影は、滞在時間が実質2日しかなかったにも関わらず、かなり充実した内容となった。これはやはり水不足がその大きな要因だ。命の支えである水が乏しくなることで、こちらの歩留まりがよくなるのだから、自然写真家とは因果な職業だ。
著者プロフィール
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
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