インタビュー
» 2010年12月09日 09時30分 公開

「ラブひな」170万ダウンロード突破の衝撃:Jコミで扉を開けた男“漫画屋”赤松健――その現在、過去、未来(後編) (2/4)

[山口真弘,ITmedia]

きちんと食えれば作家は次回作を描く。わたしはそれが読みたい

「漫画家は創作における一次産業、いわば農民」と赤松氏 「漫画家は創作における一次産業、いわば農民」と赤松氏

── 今回Jコミで無料漫画を出されたことで、違法流通はもちろんオークションやBOOKOFFなど、著作権者にお金が入らない流通ルートに打撃を与えることが予想されます。その辺りについてはいかがですか。

赤松 それはまあ、ある意味仕方ないかと(笑)。わたしの信念は、「作家がもうからないと未来につながらない」というものです。いま作家が食えないとその作家は筆を折ってしまいますから。でもいま食えるなら、作家は次回作を描きますよ。わたしはそれが読みたい。野球選手がもうからないと誰も野球選手になろうとは思わないし、漫画家がもうかってちゃんと作品を作っていく状態にならないと、漫画家になりたい人が出てこないですよ。

 漫画家の場合、原稿料だけで食うのは難しく、単行本の印税がないとだめなんです。でも最近は単行本そのものを刷らない、作らなくなってるんです。でもまあ、出版社もそれだけ困ってるんですよね。在庫を抱えるわけにもいかないでしょうし。

 今、さまざまな企業や図書館が書籍の電子化を推進していますが、はっきり言って作者視点に立ってるところは1つもありません。「作者がもうからなくちゃダメだよね」って聞いたことないでしょ? そう言ってるのは現状でJコミだけですから。作者がもうからないと、電子出版は立ち行かないですよ。

 先ほどもお話ししましたが、講談社で一番売れてた『ネギま!』が数万円とかで、それじゃ立ち行かないです(笑)。作家がいなくなったら何も成り立ちません。われわれ漫画家は創作における一次産業、いわば農民であり、作品を作ってるわけですから、まずわれわれが食えないと困ります。

── Jコミを通じて著作権者に利益が入ってきて、オークションやBOOKOFFがシュリンクする形になれば、それが望ましいということですね。

赤松 BOOKOFF側も、自分たちが作家にあまり愛されてないなというのは知っていて、だから著作者団体に1億円払いますよとか言ってくるわけです。

── あの「お金あげます」の話はどこでされてたんでしたっけ?

赤松 Twitterですね。ニコニコ動画はブックオフ同様、漫画家たちの敵ということになっていますよ。(笑)というのをわたしが言っていて、まあその夜に自分がニコ生に出てるんですけど(爆笑)。で、BOOKOFFでさえ1億円払うって言ってるのに、ニコ動はそうじゃない、ちょっといかがなものか、しかもプレミアムで525円取ってるし。それがたいそう話題になって。

── 先日出演されていたニコ生を拝見していて思ったのが、赤松先生のおっしゃることは刺激的な内容も含んでいて、TwitterでたくさんRTされたり、2ちゃんねるでスレが立つこともありますが、にもかかわらず炎上するかというとそうではなく、不思議と丸く収まっていくことが多いように思えます。

赤松 小飼弾さんが「アホ丸出しだよね、でもこれが大事だよね」ってことを書かれてて(笑)、その辺りかもしれないですね。確かに詰めが甘いんですよ。営業トークとか、漫画のペンよりも得意なんですが(笑)、うまくいくのかなと思ったら穴があるんですよ。今回も少しミスった発言があったんですが、そのおかげでかなりダウンロードとアクセスが増えたんじゃないかと技術部長は言ってます。でもわざとじゃないです。

赤松氏が「少しミスった発言」としたもの

── 45万ダウンロード行ったけれどもアフィリエイトがゼロで、というツイートですね。ハッシュタグで「#jcomi」を検索すると、あのRTばかりが並んでいることもありました。

赤松 「あの赤松が何か大失敗してやがる」ってなったら見たくなるじゃないですか。でも狙ってやったわけじゃないので、狙ってた、と言われても困るんですけど(笑)。

── いずれにせよあれが事態を加速させたのは間違いないという気がしていますが、今回のJコミでは、前提が赤松先生ご自身のコレクションであれ、絶版漫画の収集の話であれ、お金の話が前面に出てこないのは要因として大きいのかなと感じます。アフィリエイトは貼られていますが、それは著者に還元されるわけですし。

赤松 あれも実験ですけどね。守銭奴扱いされることもありますが、そんなに自分自身でお金が欲しいわけではないですね。「スコアを上げたい」というのは結構あるんですが。

 いつも単行本が出るたびに、オリコンやトーハンの売上ランキングをブログに載せるんですよ。そういうことをやっている漫画家は1人もいません。2位だったよーという文章を載せる方はいますけど、1位から10位まで全作品の名前を載せて、自分は2位だったとか比較してる方はいないです。この辺りはわたしも少しおかしいのかもしれませんが(笑)。ゲームと同じですよ。俺こんなスコア出したよーというのを相対的に見せたいというのが昔からあったんですね。その結果もうかったという話には全然なってないんですよ、わたしの中では。

 人気アンケートで上に行けば金が入るんだろと考えている方もおられるでしょうが、要するに上を目指すゲームなんですよ。「バクマン。」もそうですけど、目標が創作意欲と関係ないところにセッティングされてるので、こういうのを描きたいよなーというのを「バクマン。」では言わないじゃないですか。新妻エイジ(編注:『バクマン。』に登場するキャラクター。主人公たちのライバルとなる漫画家)は描く描くっていって描いてますけど(笑)、アニメ化して彼女を声優に使うというのは作品論と関係ありませんよね。わたしはその辺りとても近い価値観を持っているように思います。

 自分の好きなものでなくてもいいからとにかく読者をたくさん得て、彼らを喜ばせたい。そして、アニメ化して声優イベントで横浜アリーナを満員にする。その中でワーッていう盛り上がりを見せて、われわれが描いた作品でこれを作り出したという「スコア」を見て満足する。その結果、いつの間にかお金もたまっているかもしれませんが、お金目当てでは全然ないですね。

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