これからは年収600万円や800万円の漫画家が増えるかも徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 Vol.4(1/3 ページ)

「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――電子出版時代における業界の変動を現役漫画家である赤松健氏と「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏がそれぞれの視点で解き明かす5日間連続掲載の対談特集の第4幕。赤松理論にある「楽しみ代」という概念とは?

» 2011年02月17日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]

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これからは年収600万円や800万円の漫画家が増えるかも(竹熊)

竹熊健太郎 竹熊健太郎氏

赤松 枠組みを考えていると危険ですよ。それだったら私は数を撃ちたいんです。複数の天才に描かせて、メディアミックスしたり色々な付加価値を加えていって、どんどんやる。いっぱい試せることが漫画の利点だったわけだから。編集者の方は、枠組みや箱にこだわる。Twitterでもお話ししましたけど、枠組み作りはいかに危険かというのを私は感じるんですよ。

竹熊 枠組みというか、編集者は作家さんと組まないと、単独ではできませんからね。

赤松 もう枠自体がなくなってきているので、編集者さえ要らなくなって、とにかくいっぱい出しまくって当たったやつを育てるシステムになってくると思うんですよね。そうなると編集者の直しもいらないんです。数があればどれかいいのがいるでしょ、みたいな形で、直しさえいらなくなるんです。

竹熊 現に過去の漫画界はある意味でそれをやってきたわけですよ。新人はいくらでもいるという前提で、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるを。それが今は、才能ある新人はいても……。

赤松 そうです。発表する場がなくなってしまった。

竹熊 最近は出版社の人たちもみんなコミケやコミティアに行ってますね。新人発掘という意味では効率がいいから。

── コミケ以外に、今ならWeb上で作品を公開する手もあるのでは?

竹熊 うん。例えば、「マヴォ」の表紙を描いた人は今40歳で、38歳で初めて漫画家デビューしたんですよ。彼女は結婚するまで趣味で絵を描いていて、結婚して初めて自分のアニメーションや漫画をネットで発表し始めたら、それが評判になって向こうから仕事が舞い込んでくるわけです。今、ネットからデビューしてる人が相当増えてますよね。実際、若い編集者はみんなpixivを見ている。即戦力で使えるやつがいないかって。

赤松 それはアレですよね。pixivでトップ10の人に、描いてください描いてください、でもタダで、っていうんでしょ。

―― でも確かにpixiv出身の漫画家も何人か出てきましたね。

赤松 それはメジャー誌じゃないでしょ。

竹熊 そのメジャーの概念が変わると僕は思うんですよ。もう100万部売るとか、シリーズトータルで2000万部っていうのはもしかするとなくなるんじゃないかな。赤松さんとか、それこそONE PIECEとか、この辺りが最後になるんじゃないかなっていう。

赤松健 赤松健氏

赤松 それ私がさっき言ったのと同じことじゃないですか。やっぱり業界はポッキリ折れるんですよ。

竹熊 いや、だから、ただし5万部売ると。5万部は確実に売れるとなったら食えますよね。

赤松 その5万部って。単価は高いんですか?

竹熊 いや、だからそこそこ名があっても、年収600万円とか800万円で生活する漫画家が増えるということです。

赤松 えっ。

竹熊 僕が言ってるのは、そういうことなんですよ。赤松さんはメジャー作家だから、100万部売るということが1つのステータスなんでしょうし、そうしたものもあるんだろうけど、僕はむしろ確実にヒット、ヒットというかバントでいいから塁に出るみたいな。

赤松 それは編集者の視点ですよね。漫画家だったら100万人に読んでもらって、年収が数億円とかいいじゃないですか。野球選手がみんな年俸500万円と決まってたら夢がないでしょう。

竹熊 いや、それは編集者だってそう考えますよ。でも、それが難しいとなった場合にどうするかということです。きっぱり辞めるか、それでも自分はマンガが好きだから残ろうとするか。いずれにせよ、これまでとはまったく違うビジネスモデルは出るだろうなとは思ってるんですよ。それはおっしゃる通り海外市場をうまくやれれば、何億円って稼げる余地はありますよ。そのための努力を日本の漫画界ってまったくやってないでしょ。

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