国内における戦後最悪の自然災害となった東日本大震災からおよそ6週間、いまだその傷跡も癒えず、懸命の復旧・復興作業が続いています。出版業界や電子書籍市場もも例外ではなく、その影響を受けています。今回はeBook Forecast特別号として、東日本大震災からの1カ月間に起こった国内外の出来事を振り返ってみましょう。
東日本大震災では、燃料不足や道路状況の悪化で雑誌の遅配や新刊本の発売延期が相次ぎました。日本雑誌協会によると、3月末時点で発売延期となった雑誌は234誌、発売中止となった雑誌は16誌に上るといいます。
震災直後は用紙やインキの不足に業界が危機感を強めていました。それらの様子は、「用紙生産工場にも被害――日本製紙など」「用紙・インキなど印刷資材の調達に苦慮――印刷業界」などで報じられています。
しかし、その後についてはあまり報道されていないため、事態は収束したのだと思われるかもしれませんが、実際にはそうではありません。ここでは最新の状況をまとめておきます。
まず、用紙の生産についてです。業界大手の日本製紙では、石巻工場(宮城県石巻市)、岩沼工場(宮城県岩沼市)、勿来工場(福島県いわき市)が被災、操業を全停止していました。その後、勿来工場が4月5日に、岩沼工場も4月6日に一部設備で操業を再開しています。しかし、石巻工場は依然操業を停止したままで、全体として供給量が落ちていることは明白です。当該地域は余震も続いており、依然として不安定な状況のままですが、復興に向けての努力が続いています。
次にインキについてです。上記記事で触れられている丸善石油化学の千葉工場は、エチレン製造装置やアルコールケトン製造装置などが稼働を停止していましたが、その後、エチレン製造装置が稼働を再開していますが、アルコールケトン製造装置の復旧には最低でも1年間は掛かるという悲観的な見通しが丸善石油化学からアナウンスされています。
このアルコールケトン製造装置からは、印刷に欠かせないオフセットインキやグラビアインキの原料のほか、新聞インキの主原料であるジイソブチレン(DIB)などが製造されていました。これらの出荷は今日でも停止したままです。特にDIBは、国内では同工場だけが製造していたものですので、インキ業界は対応に追われています。
この状況に対して印刷会社各社は、海外からの原料調達や代替原料を用いることで当面の供給不足を回避していく予定です。印刷インキ工業連合会は4月11日、代替原料を使った製品に順次切り替えていくことが可能になったと新聞協会に文書で伝えています。筆者の周りでは大手印刷会社でインキの買い占めが起こっているといった話も聞こえてきていましたが、供給は各社の努力により何とか保持されているようです。
大手出版社は、独自、あるいは共同で東日本大震災に対する取り組みを進めています。例えば講談社は被災地へ本を寄贈していますが、ネット上では電子版の無料配布が大きな話題となりました。
特に、週刊漫画誌では電子版の無料配信が相次いで実施されています。代表的なものを挙げると以下のようなものがあります。こうして見てみると講談社が積極的に無料配信を行っていることが分かりますね。出版の業界団体である日本書籍出版協会(JBPA)は、各社の出版物に被災地で役立つものがあれば無償提供していくように呼びかけており、今後もしばらくは同様のニュースが続くことになるでしょう。
出版社 | 無料公開された雑誌 |
---|---|
小学館 | 週刊少年サンデー 16号、17号 |
集英社 | 週刊少年ジャンプ15号、16号 週刊ヤングジャンプ16号、17号、18.19号 ウルトラジャンプ4月号 ジャンプSQ.5.6月合併号の一部 |
講談社 | 週刊少年マガジン16号、17号 週刊モーニング15号、16号 ヤングマガジン15号、16号 イブニング8号 Kiss6号 BE・LOVE7号 |
秋田書店 | 週刊少年チャンピオン15号〜20号 |
また、福島第一原発の事故に伴って注目度が一気に高まった「原子力」や「放射能」について、幾つかの出版社から関連書籍がPDFなどでこちらも無料配布されています。eBook USERの記事になったものをピックアップしてみると、以下のようなものがありました。
そんな中、オライリー・ジャパンが運営する電子書籍販売サイト「O'Reilly Japan Ebook Store」で展開した東日本大震災の被災者支援キャンペーンは、ソフトウェアエンジニアを中心に話題を呼びました。同キャンペーンは、同社がO'Reilly Japan Ebook Storeで販売している電子書籍を通常価格の半額で販売、その売り上げを日本赤十字社への義援金に充てるというものでした。
オライリー本が格安で手に入ることもあって、注文が殺到、PDFのダウンロードURLを知らせるメールの到着まで数十時間待ちという事態となりました。その後キャンペーンの結果が報告されましたが、3日間のキャンペーンで3700万円もの売り上げとなったことが明かされています。
このほか、本連載でも何度か取り上げているJコミが、正式にオープンしました。Jコミとは、絶版漫画に広告を付加して無料配信するという試みが話題のサイトで、漫画家の赤松健氏が立ち上げたものです。
正式オープンに当たり、ユーザーから違法に流通している漫画ファイルのアップロードを受け付け、それらを合法化して再配布する仕掛けが発表されました。話題作りの巧みな赤松氏らしく、早速この仕組みで「プレイヤーは眠れない」(原作:黒沢哲哉、作画:正木秀尚)、「みらくる姫 ジュビリィ」(著作者:宮尾岳)が相次いで公開されました。ただし、後者の作品については、公開後しばらくしていったん取り下げられました。出版社への絶版確認で多少の手違いが発生したためだと思われます。恐らく、これらの作品はあらかじめ仕込んであったものだと予想されますが、今後は合法化された漫画も登場してくるでしょう。
海外ではさらに大きな動きが相次いで起こっています。次ページでは見逃せない3つのトピックについて紹介します。
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