電子書籍フォーマット「EPUB 3」ってぶっちゃけどうよ?イーストに聞いてみた(1/4 ページ)

「EPUB 3」がやってきた。国際標準の仕様に日本語組版ルールが組み込まれたEPUB 3は、国内の電子書籍市場に大きな変化をもたらすことになるだろう。このEPUB 3にまつわる疑問の数々を、EPUB 3の規格策定に当たって推進役となったイーストに直接ぶつけてみた。

» 2011年08月10日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]
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EPUB 3にまつわる疑問の数々が氷解

 電子書籍フォーマット「EPUB 3」がいよいよ登場する。縦書きやルビ、圏点といった日本語組版特有のルールが世界標準に取り入れられたことで、関係者の感慨もひとしおのようだ。

 もっとも、一般の読者からすると、自分が読みたい本が確実に手に入るのであれば、フォーマットが何であるかにそれほど関心がないのも事実。「別にEPUB 3がなくても日本語の電子書籍はApp Storeにゴロゴロしてるし、世界標準になってどういうメリットがあるの?」「ぶっちゃけ縦書きにそんなにこだわりはないんだけど」「青空文庫フォーマットでよくね?」などという声が上がってもおかしくはない。

 とはいえ、例えば「出版社各社が電子書籍フォーマットの本命であるEPUB 3の登場まで電子書籍化を見合わせていた」という事実があるなら、これをきっかけに電子書籍のコンテンツが大幅に増えることは期待できるし、世界標準の仕様に日本語組版が含まれたことは、日本語の電子書籍市場を大きく変えることにつながるのかもしれない。

 ただ、インターネットや書籍で読めるEPUB 3関連の記事はフォーマットの仕組みなどが中心で、エンドユーザーが知りたいことに答えたものは少ない。また、JEPA(日本電子出版協会)が主催するセミナーなどもあるが、そのほとんどが出版社を対象としており、エンドユーザーが興味を覚える話ばかりではない。

 そこで、主に読者サイドから見たEPUB 3にまつわる疑問の数々を、EPUB 3の規格策定に当たって推進役となったイーストに直接ぶつけてみた。イーストからは、代表取締役社長の下川和男氏のほか、コンテンツビジネス事業部から開発部部長の加藤一由樹氏、サービス開発部からはEPUBエバンジェリストとして活躍する高瀬拓史氏に参加いただいた。

 国内のEPUB事情を明らかにする本企画では、前編でEPUB 3の特徴や成立過程、そして問題点を、後編で漫画コンテンツを中心としたEPUB 3フォーマットの可能性について触れる。

これから作るコンテンツが横書きでも、過去の資産を縦書きで表示できるのは大事

イースト代表取締役社長の下川和男氏 イースト代表取締役社長の下川和男氏

―― まず、今のEPUB 3のステータスから教えてください。

高瀬 5月23日にProposed Specificationという、提案仕様とでも呼ぶべきものが公開されています。ここから最低45日間は、EPUBが参照している技術が特許に絡んでいないかを確認するための告知期間で、その間は外部に公開した状態にしておく必要があるんですね。その期間が過ぎるとIDPF(International Digital Publishing Forum、米国の電子書籍標準化団体)の中で投票が行われて正式に確定した仕様となります。今年の夏、8月終わりぐらいがめどですね。

―― つまり特許絡みで大きな問題がなければ、今の提案仕様がそのまま採用されると。

高瀬 そういうことです。

―― そのEPUB 3ですが、ずばりEPUBのこれまでのバージョンと何が変わったんでしょうか。日本と海外とでもとらえ方は違うと思うのですが。

高瀬 まず日本から見たこれまでとの大きな違いですが、これまでは日本語ならではのレイアウトを実現しようとすると、どうしても既存の仕様を拡張した形にならざるを得なかったんですね。具体的には縦書き、ルビ、圏点、禁則、縦中横などです。

―― EPUB 3ではそれができるようになったということですね。

圏点の例(写真=左)と縦中横の例(写真=右)。「20」「16」のように正常な向きのまま横組にしたものを縦中横と呼ぶ。(出典:日本語組版処理の要件

高瀬 そうです。あとはページ送りの方向。欧米では左開きが一般的なので、ページ送りの方向を定義する意義が薄かったんです。ただ、各国の言語を表示させようとすると、右開きのコンテンツもあるということで、EPUB 3ではページ送り方向も定義できるようになりました。

―― なるほど。海外では、EPUB 3といえばリッチコンテンツ対応といったように、日本とは違った部分に注目が集まっているようですね。

高瀬 そうですね。海外で話題になってるのは、1つはマルチメディアです。音声と動画を普通に入れてもよいことになったので。あとはインタラクティビティ。JavaScriptを利用してよいことになりました。EPUB 2でもiBooksなどが独自に拡張してこれらを扱えるようにしていたんですが、仕様上はあくまでもEPUB内でJavaScriptを使うべきではないという位置付けだったんですね。それが正式に使ってもよいということになりました。

 それから埋め込みフォント。OpenTypeかWOFFのフォントが埋め込まれていた場合、きちんと表示しなければいけないというのが、リーダーにとって必須になりました。EPUB 2ではこの部分が特に決められていなかったので、リーダーによって表示されたりされなかったりと、まちまちの状態だったんです。これからは、埋め込めばきちんと表示してくれるようになります。

―― 読者の側、それからコンテンツを作る側のメリットについてはどうでしょう。

高瀬 フォントについてはデザイン的な要求もありますし、外字の対応でこの書体のこの字でないと意味がないという場合もありますよね。それが正確な情報として表示できるようになります。読者の側としては、美しい書体でコンテンツを見ることができるようになります。

―― 少し意地悪な質問になりますが、読者からすると、フォントにこだわりがない人も少なくないと思うんですね。もっといってしまうとフォントだけでなく、別に縦書きにこだわらずに横書きでもいいじゃんという意見もあると思います。その点はいかがですか。

加藤 確かに、読者は別に横書きでも構わなかったり、代替字であっても気付かない人が大半かもしれません。なので、むしろコンテンツを作る側に対して「ほら、こういう仕様を用意したから作れますよ」と提示できるのが大きいと思ってるんですよね。

―― つまり、どちらかというと読者よりも、作る側のこだわりが大きいということですよね。

高瀬 この辺りはEPUBの仕様を策定しているメンバーの中でも意見がまちまちで、個人的には縦書きはなくてもいいと思っているけれど、立場上、縦書きをどう表現するかに真剣に取り組んでいる人もいます。これから作るコンテンツは横書きでも構わないけど、縦書きされた過去の資産をちゃんと縦で表示できるようにするのは大事なことだと思うんですね。

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