電子書籍フォーマット「EPUB 3」ってぶっちゃけどうよ?イーストに聞いてみた(3/4 ページ)

» 2011年08月10日 10時00分 公開
[山口真弘,ITmedia]
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縦書きが必要だというのを、いままでは誰も大きな声を出して言わなかった

イーストコンテンツビジネス事業部開発部部長の加藤一由樹氏 イーストコンテンツビジネス事業部開発部部長の加藤一由樹氏

―― ここまでEPUB 3という電子書籍のフォーマットについて伺ったんですが、一般の読者からすると「EPUB 3でそういう機能が実装されたのは分かった。でも、なぜWebの世界ではそれがないんだろう」というのは素朴な疑問ではないかと思います。その辺りのいきさつを教えていただけると。

下川 縦書きについては7年前、Microsoftが主導してW3C(World Wide Web Consortium)に提案して、IE 5.5に1回入ったんですよ。ところがそれがワーキングドラフトから上に行かずに落ちてしまったんです。で、EPUBというのは全部W3Cの技術を使っていて、中身はHTML5とCSS3なので、そちらにEPUBに縦書きを入れるとHTMLやCSSの世界でも縦書きを実現できるわけです。W3C側で入ったものがEPUBにも入るという流れが分かっていたので、W3C側で仕様を作って入れてもらったんです。

高瀬 われわれはW3Cの会員企業ではないので詳しい過去のいきさつは分からないのですが、出版社がWebの規格について働きかけをする必要が出てきたのは、今回がはじめてだと思うんですよね。これまでWebと出版はまったく別と見られていたわけで。

加藤 つまり縦書きが必要だというのを、いままでは誰も大きな声を出して言わなかったということですね。

―― なるほど。

下川 IE 5.5に縦書きが入ったのにうまくいかなかったのもそうですが、この7〜8年、日本はもう置き去りなんですよ。大手IT企業は、いまは中国と握れればそれでよいわけです。10年くらい前まではダブルバイトの処理を日本のアプリケーションで対応させて、その後アジア展開をやるという流れだったのが、いまはもう市場規模がまったく違いますから。

―― 声を上げる人がいないというお話でしたが、どちらかというと、市場規模の点で中国に目が向くようになったという。

下川 そうですね。MicrosoftもAppleも、みんな中国とどうつきあうかってことでやっている。どこも資本主義で動いているわけですから、それはそうですよね。

 その中国では横書きが一般的で縦書きはありませんから、縦書きを入れるには日本が大きな声を上げないと無理だと。で、2009年11月にJEPA(日本電子出版協会)でEPUB研究会というのを作って、要求書の作成を始めたというわけです。

 そして、2010年4月に「日本語処理についてこのような仕様がEPUBに入ってないといけませんね」という14項目の要求書を出したんですね。世界標準仕様の中で戦うために英語でドキュメントを作成して、IDPFやAmazonなど関係各所に説明して回りました。そうした活動を行っているうちに総務省から予算が出ることになって、一気に進んだという話ですね。

 総務省の予算が出ていなかったら、恐らくあと2、3年は縦書きはできてない状況が続いていたでしょうし、日本の縦書き文化が消えていく要因になっていたかもしれない。今回、ちゃんと日本の文化を尊重しましょうという形で仕様に取り入れられたので、日本語の縦書きが入った電子出版がこれからどんどんと広がっていく仕組みが作れたと思ってます。

―― ちなみに今回、EPUB 3に採用されなかった日本語組版の仕様というと、具体的にどんなものがあるんですか。

下川 要求した14項目のうち唯一外れたのは「複雑ルビ」ですね。漢文の返り点のような、縦書きだと左右に、横書きだと上下に付くというルビです。それ以外の13項目はすべて取り入れられました。それ以外にも、いわゆる日本語組版でいうと、「日本語組版処理の要件」という印刷すると250ページにもなる膨大な仕様書があるくらいで、ものすごくいろんなことがあるわけですよ。その中のこれだけはやっておこうみたいなものが、EPUB 3には入っているというわけです。

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