―― いまApp Storeに行くと、日本語の電子書籍アプリが売られていますよね。読者からすると、中身(フォーマット)がどうなっているのかはよく分からないけど、とりあえず日本語の電子書籍は存在しているわけです。そこにEPUB 3が出てきて、確かに縦書きやルビなど細かいところは違ってるのかもしれないけど、あからさまにEPUB 3でこう変わったというのは、読者の側からは見えづらいのではないかと思います。実際、.bookやXMDFも縦書きにやルビに対応していますよね。その点、EPUBの強みというのは何でしょうか。
下川 データフォーマットとリーダーが分離されてるということに尽きます。.bookにしても、XMDFにしても、データとアプリケーションは不可分です。それに対して「餅は餅屋」で、出版社や著者の人は、EPUB 3のコンテンツをしっかり作ってくれればいいだけだと。
先日「esper」という世界初のEPUB 3リーダーをリリースしたのですが、今後はたくさんのEPUB 3リーダーが出てくるわけです。仕様が公開されているので誰が作ってもいいわけですから。だからリーダーのことは気にせず、コンテンツをどんどん量産してもらえる。
―― どちらかというと作る側のメリットが大きいということですね。しかも世界標準のフォーマットだから、世界中でこれから出てくるどんなEPUB 3対応のリーダーでも、日本語のコンテンツが表示できるという。
下川 そうです。最近出版社に対するセミナーを行うことが多いんですが、そこで言ってるのは、いままで.book、XMDFは、リーダーもビジネスモデルも全部セットになっていた。でも恐らく年内にiBook Storeが日本語対応になってくるでしょうし、ソニーのReader Storeも今は.bookとXMDFだけですが、EPUB対応になるわけです。Amazonもその可能性が高い。そこにEPUBデータを出せばいいですよと。日本だけデータフォーマットに会社名が思い浮かんでロイヤリティーが発生する、そういうのとは違う世界がこれから来るということですね。
―― 出版社さんの反応はどうですか。EPUB 3が出てくることが分かってるから、しばらく電子書籍化の歩みを止めているとか、あるいはとりあえずXMDFや.bookで走っちゃおうとか、いろいろあると思いますが。
下川 ものすごく温度差がありますね。XMDFにこだわっている出版社などもありますが、将来的にEPUBになるという見通しを立てている出版社も数多くあります。だったらEPUBでどんどん走っちゃえと。.bookやXMDFからEPUBへの変換というのはそれほど難しくないんですよ。どれもHTMLベースで作られたものですから、きれいに構造化された形で.bookか何かのデータを作っておけば、変換はすぐできます。そういったことも一部の出版社しか分かってないですね。
―― シャープがXMDFの制作ツールをこの7月から無償配布するなど、XMDFもこれからツールを配布してどんどん作ってもらうという方向性が見えてきましたが、EPUB 3におけるそうしたツール面のサポートはどうでしょう。技術仕様などはepubcafeで公開されていますが、今後の予定は。
高瀬 「ここにこういう内容を書けば電子書籍になります」というHTMLとCSSのテンプレートを近々epubcafeで公開予定です。ひな型を用意して簡単にコンテンツが作れるようにすれば、出版、制作が促進できるかなと。
加藤 EPUB 3はHTML5とCSS3の仕様をほぼすべて含んでいるので、逆にどのタグを使えばよいのかが分かりづらいんですね。ですから、小説や新書ならこれぐらいで十分だよねというテンプレートを作って、コンテンツを作る出版社さん向けに「どうぞ使ってください」といった形で公開するつもりです。そういう仕様が1回出てくれば、オーサリングツールにしてもリーダーにしても、それを取っ掛かりにしてもらえると思っていて、まず土台から築いていこうという考えですね。
―― ちなみにイーストさんとしては、今現状でのオーサリング環境のお勧めはありますか。
高瀬 わたし個人の話ですが、今は「Sigil」しか使ってないですね。手作業でコードが打てますので。ただ、Sigilが今後、EPUB 3対応をちゃんとやってくれるか、ちょっと気になるところですが。
―― 日本の開発者がそういうツールを今出してきたら、それが国内でデファクトになることも考えられるんですね。
高瀬 可能性として十分ありますね。
加藤 チャンスですよね。
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