インタビュー
» 2012年08月20日 06時30分 公開

出版デジタル機構とパブリッジが目指すもの (3/4)

[まつもとあつし,ITmedia]

取捨選択の権利は出版社にある

「個別の電子書店を引き合いに出して(このビジネスを)考えない方がいい」と野副氏

―― 植村さんへのインタビューにもありましたが、3年間預けている間は、パブリッジからAmazon(Kindle Store)も含めてどこでも出す、ということですね。例えばある電子書店独占で出したいといった戦略タイトルのようなものは、逆にパブリッジには預かってもらえない。それはそれぞれの出版社でやってくださいということでしょうか。

野副 そうですね。自分たちのプライオリティーとして、こっちの方向へ行きたいという意向が出版社にあるなら、それは止められないでしょう。出版社の意向を飛び越えてはできないから。

―― なるほど。出版社との契約はタイトルごとという理解でよろしいでしょうか。3年間というのは、まず大前提としてあって、そのあと、更新は自動で?

野副 更新は毎年です。出版社との基本契約があって、それに基づいて預かりタイトルが全部入っている、というイメージですね。

―― 一律3年預かりという枠組みに変わり、先ほどから強調されているように、すべての制作コストを回収しなくても、出版社に販売権を戻すシステムになったので、マーケットがどういう価格で売るかはもう関係なくなったのでしょうか?

野副 それはどうだろう。ビジネスモデルとしては、エージェンシーモデルもあるだろうし、ホールセールモデルもあるだろうし。出版社がどのタイトルをどう扱うかは、これからずっとやっていく中で自然と収斂していくだろうけど、何ともいえないんじゃない?

 その辺りは個別の電子書店を引き合いに出して考えない方がいい。繰り返しになるけど、本質的には、ユーザーがどういうものに対して、どう反応するか。値段が高くても買いたいというものもあるだろうし、値段が安くても買いたくないというものもある。どういう書店に卸したらどうなるとかいう話ではなく、それぞれの本の価値っていうのかな、読者が何を求めているかを、出版社も書店も一所懸命追求するだろうし、われわれもできるだけそういう取り組みをお手伝いしたい。

沢辺 今まつもとさんがいわれていることは、制作費の回収を主要にいわれているわけですよね。

―― そうですね。

沢辺 制作費の回収ではなく、パブリッジが制作の手数料商売をするということだといえると思うけど。例えばパブリッジが1冊1万円の制作費収入を得たとしても、それ1回でおしまいじゃ商売は回っていかない。僕はそこに商売の可能性はないと思っている。

 これはインプレスR&Dが予測する数字ですけど、電子書籍という市場が成長し2015年には2000億市場になるとかいう数字がある。それが5000億売れますよという時の、1%とか2%とか3%の方が大切で。制作費をどう回収するかというところは、パブリッジが永続的にこの事業を展開できていく根拠には成り得ないというのが、さっきの「3年20%」に対する僕の気分なのね。

パブリッジのビジネスモデルはあいまいか?

沢辺 もう1つ僕の言わせていただきたいことを言うと、パブリッジはビジネスモデルがあいまいだとネット上では比較的よく目にするわけですよ。

―― 私も記事で曖昧な点を指摘しました。

沢辺 僕は、曖昧でどこが悪いと思っていて。商売は、目の前にある事態を1つ1つ解決しながら――もちろん、夢はある、向こうに――電子書籍市場で儲けたい、儲けたいというのは、語弊があるかもしれないけど、その利益を使って次に新たな事業をやれるということだから、大切だと思っているんだ。

 そうした夢に向かっていく過程で段取りを、例えばAmazonの価格政策についてはこうするんだとかさ、値引きはどうするんだとかね。そういうことを今の時点で決めて、それを淡々と追ってくようなものは、商売でもなんでもないと思っていて。新しい事態は日々必ず出て来るのだから、いかに軽いフットワークでそれに対処できるかがすごく大切だっていうのが、僕の感覚。

―― 柔軟性とか、機動力、機動性という意味では、まったく同感です。しかし、産業革新機構から投資を受けるとなると、それは返さなければいけない。そこに対する事業計画は問われます。

 いろいろなことに対して柔軟に対応していくし、恐らく新しいビジネスも考えているのだということはお話からうかがえますが、産業革新機構に出資を申し出る際、どんな事業計画を出されたのかなというところが、気にはなります。商売に曖昧さはつきもの、というのは感覚的に理解できますが。

野副 曖昧じゃないんだよ。アップサイドが限られているビジネスモデル――それが正確な言い方。どんなビジネスでもダウンサイドはたくさんあるんだけど、アップサイドにどのくらいの見込みがあるかという部分が非常に少ないビジネスモデルなんだよ。

 電子化の波が来ている中で、どうやったらその波をうまく掴んで、さらにこの業界が元気になるかを踏まえて彼等は投資をしたんだと思いますよ。そういう目的に見合ったような、活動をわれわれができるかどうかが、今問われていると思う。

出版デジタル機構が目指す「次」のビジネスと隣接権

「どの業界、どのコンテンツでも、権利関係をうまく処理できたら、いい発展が出てくる」と野副氏

―― 分かりました。単に書籍を電子化して、そこからの制作費を回収する、というだけではないのでしょうね。次のビジネスモデルを描いているはずです。

 先ほど書誌データのお話が少しありましたが、パブリッジは版面の電子化だけでなく、そうした書誌データも同時に作られていくわけですよね。「書籍版JASRAC」が関係者の間では言葉として出てくるようになってきていますが、権利関連でそんなビジネスを組み立てていく、そういうお考えはないんでしょうか?

野副 それはね、単純に言うと、あなた方のご想像にお任せします。時期が来たらそういうお話もできるかもしれない。どの業界、どのコンテンツでも、権利関係をうまく処理できたら、いい発展が出てくるわけですよ。それは非常にハードルが高くて茨の道だけど。

―― 分かりました。そのお答えで十分です。その中でいま議論を呼んでいる著作隣接権については、どうご覧になっていますか?

沢辺 野副さんがよく言っているテレビの話が分かりやすいんじゃないですか?

野副 アメリカのテレビとか映画ね。もうおじいさんになっている人が、自分が子役のころ出演した映画の自分のギャランティーが小切手で来るんだよ、今でも、毎月。地方局で出してくれたやつで、貯まってくると、それが何十ドルっていうレベルだけど、来て、ああ、これでちょっと孫にアイスクリーム食わしてやることができるね、みたいな話があるわけで。あなた何やっていたのって言ったら、いや、俺は子役で有名だったんだとか言ってさ。びっくりするんだけど。そういう感じ。

 だから、そういうふうになるといいよね、どうやったらそういうふうにできるんだろうねって話をしていて。やっぱりじゃあ、決断しないと。例えば日本のテレビ番組なんてさ、なかなかネットで出てこないじゃない。でも、あれを思い切って、えいやってしちゃったら(※筆者注:放送と通信を融合させていれば)、きっとみんな良かったと思うよ。出演者も良かったし、テレビ局も良かったし、それからそれを今観る人たちにとっても良かったし。みんなプラスになったはずなんだけど。

―― テレビ局側がプラスと感じるかは、議論がありそうな気がしますが。

野副 いや、そんなことはないよ。ネットにもう一回出すとそれはやっぱり何らかの売上が立つわけじゃない、彼等はある部分で。権利者にプロポーション(一定比率/割合)を渡せばいいわけで。それが決められないから、出せないわけです。本当はみんなwin-winになるはずなんだ。ユーザーだってもう一回観たら、楽しいもの。

沢辺 今、著作権が、結果的に観させないことに与している、観させない結果を招いてるよねっていうのは、まさに今の日本のテレビの問題。じゃあそれで誰が今、幸せなんですかって。隠密剣士とか、ああ、知らない? ええとじゃあ、昔の仮面ライダーとか、最初に放映されたときのとか、見たいじゃない?

野副 いろいろな権利処理の問題があって観ることができない。処理できないというのが、逆にいうと、すごくもったいないことをしているよね。書籍も同じで、何とか前向きに権利処理ができるような方向で、世論を作っていただきたいなというのがお願いですね。

沢辺 今回の隣接権論議で、1つ冴えてるなと思うのは、単純に出版社に隣接権を渡すっていうだけではなくて、むしろ出版社に責任を負わせる。ここがポイントだと思う。

野副 そうだね。処理がきちんとできるようにね。

沢辺 漫画家に原稿を返却しなきゃいけないとか、「品切れ重版未定」で塩づけにできないとか、ね。あなたたち(出版社)に隣接権を与える以上、それはバーターであるという。これはいいよね。

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