逮捕された容疑者が運営していた「50SCANNER」
長崎県警は5月1日、神奈川県の20代男性を著作権法違反(譲渡権の侵害)の疑いで逮捕したことを報道資料で明らかにした。漫画家空知英秋さんの「銀魂(ぎんたま)」45巻分の電子データを記録したDVD1枚を東京都内の40代会社員に1万円で販売した疑い。
この報道資料はWeb上ではその詳細が確認できなかったため、長崎県警察本部生活安全部生活環境課サイバー犯罪対策係に電話で問い合わせたところ、確かにその発表が行われていることを確認できた。
逮捕された容疑者は紙書籍の裁断・データ化をユーザーに代わって行うスキャン代行サービス「50SCANNER」を運営。スキャン代行サービスについては、これが著作権侵害に当たるかは現行の著作権法上グレーな扱いとなっている。しかし、著作権者からの訴えで、複数のスキャン代行業者を相手取って民事裁判が行われており、早ければこの夏にも何らかの判決が下る見通しとなっている。
今回の逮捕はスキャン代行サービスそのものではなく、50SCANNERがサービスメニューとして用意していた「大人買い電子化サービス」についてのもの。これは、ユーザーからの書籍送付を受けることなく、紙書籍の購入からデータ化までを業者側で行うというもので、ユーザーはデータだけをダウンロードまたはデータを収録したDVDで受け取ることができるという触れ込みのもの。
ここで注目すべきは、本来ならユーザーからの注文を受けた後に電子化されるはずのものが、業者が能動的に、かつ、取り扱い可能な作品を限定した形でサービスを提供していること(ユーザーからの注文に応じてスキャン代行を行っているのであればこれは不自然だ)。同社サイトには「銀魂」45巻セットをはじめ多数の作品が並べられており、「本年度中に100タイトル以上を揃える予定」とうたわれていることから考えても、実際には都度紙書籍を仕入れてスキャン代行しているのではなく、同一のデータを不特定多数に販売しているのだとみられ、それが今回の逮捕につながったと推測できる。
今回の逮捕はスキャン代行サービスとは切り離して考えるべき著作権侵害事案だが、スキャン代行サービスについて回るデータの不正流出の懸念を際立たせるものになりそうだ。
- 「スキャン代行」はなぜいけない?
書籍のスキャンを代行する業者に対して、7人の作家が原告となって差し止め請求を行ったことにさまざまなコメントが飛び交っている。果たして、今回の告訴はユーザーの事情や感情を無視し、さらには電子書籍の普及に背を向けるものなのか? 福井健策弁護士に行ったインタビューから、問題の本質をあぶり出してみよう。
- 確たる判決を求めて――作家7名がスキャン代行業者7社を提訴
スキャン代行訴訟は終わっていなかった――作家7名がスキャン代行業者7社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求める提訴を提起。「無許諾でのスキャン事業が著作権侵害にあたる、との確たる判決を求めて」とあり、明確な判例を求める姿勢だ。
- スキャン代行訴訟、「実質的勝訴」として作家が訴え取り下げ
スキャン代行事業は著作権侵害行為だと作家7名が原告となってスキャン代行業者2社に行為の差し止めを求めていた訴訟は、業者が解散を選択したため、原告側が実質的勝訴として訴えを取り下げた。
- 提訴されていたスキャン代行業者が訴えを認める「認諾」を選択
スキャン代行業務が著作権侵害だとする裁判で、提訴されていた業者の1社である愛宕は、「権利の濫用」としながらも、訴えを認める「認諾」を表明した。
- 東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴――その意図
スキャン代行業者に対して著作権者がとうとうアクションを起こした――浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏の7名を原告とし、スキャン代行業者2社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求める提訴が東京地方裁判所に提起された。
- 出版社からスキャン代行業者への質問状を全文公開、潮目は変わるか
「出版社7社、作家・漫画家122人が『自炊業者』に質問状」が話題となっている。ここでは、スキャン代行業者に送付された質問状の内容と、今後の動きについて考える。
- 出版社7社、作家・漫画家122人が「自炊業者」に質問状
書籍の電子化をユーザーに代わって行うスキャン代行業者(自炊業者)に対し、出版社7社と作家・漫画家・漫画原作者などが連名で質問状を発送した。
- スキャン代行業者の実力を比較する(前編)
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第2回は、実際に各業者に発注し、サービスの内容を具体的に検証する。
- スキャン代行業者の実力を比較する(後編)
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第3回は、実際に各業者に発注し、サービスの内容を具体的に検証する「比較編」の後編をお届けする。
- スキャン代行サービスの現状と内容比較
電子書籍の普及に伴って台頭してきた「スキャン代行サービス」。この代行サービスを取り扱う短期連載の第1回は、サービスの現状をまとめつつ、各社サービスの内容を比較する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.