インタビュー
» 2013年10月07日 08時00分 公開

スタートから1年、出版デジタル機構の現状と次なる構想を聞くまつもとあつしの電子書籍セカンドインパクト(2/2 ページ)

[まつもとあつし,eBook USER]
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ビットウェイ買収、その目的は?

―― インフラ作り、という意味が凸版グループの電子取次「ビットウェイ」の買収に込められているということでしょうか?

野副 ビットウェイの買収は、そのための推進力の「一部」にならなくてはいけない。なぜなら機構自身がまだ十分な機能を備えていないことに気づかされたからです。1万6000点を電子化しただけでは、これは砂漠の一滴でしかない。さらに大きな意味で推進力を増さなければならないということで、業界の有識者の方にもご意見を伺ってきました。

 去年これだけ電子書籍の環境が整備されたのだから、今年の年末がすごく重要で、来年はさらに大切な年になるだろうと考えています。そのためには、何とか今年中に、業界を盛り上げる推進力を強化しなければならないということで、ビットウェイさんともお話をさせていただき、それでは一緒にやろうか、という方向になりました。いままで別々だった人材やシステムを一本化し、効率化することで業界全体として見たときの推進力が増すはずだと。

 それは単にビットウェイが電子取次としてこれまで培ってきた営業力を取り込むことに留まりません。電書協を始め業界が取り組む書誌データの統一も見越し、電子書籍をよりスムースに流通させるためのインフラを用意できる、ということを意味します。

―― 単に電子化する・電子書店に供給する能力の強化だけが目的ではない、ということですね。

野副 そうです。ビットウェイの既存の技術に加え、技術顧問として参画いただいている国立情報学研究所の高野明彦先生の協力も得ながら、書誌データの統一にも貢献できると考えています。

―― 先ほど垂直統合というお話もありましたが、凸版グループ全体としてみれば、ビットウェイやBookLive!も含め、垂直統合が志向されているように見えます。そこから敢えてビットウェイを機構へ、となった背景には何があるのでしょうか?

野副 われわれは立ち上げの段階からビットウェイに基本の取次・配信システムを協働構築してもらいました。したがって人の交流もありましたし、これまでお話してきたような、われわれが目指す世界の価値観も共有していました。志の部分が一致していたとも言えるでしょう。

 では買収・統合が本当に、凸版印刷さんにとってベストなソリューションだったのかは私の立場からは申し上げられません。しかし、われわれから見れば「大事なお嬢さんをお嫁にください」という感じだったのは間違いないですね。

―― それも長年、手塩にかけた(笑)

野副 そうそう(笑)。非常に優秀な、業界1、2を争うリーダー格だったわけですから。そういう意味では、われわれにとってこの上なくチャーミングな会社であったのは事実です。凸版印刷さんにとっての考えは、凸版印刷さんに聞いていただいた方がいいと思いますね。

―― しかし、先ほど「電子書籍の世界では分業は成立しづらい」というお話もありました。ビットウェイのような電子取次が、電子の世界でも今後必要なのかは気になるところです。

野副 確かに本質論として、将来にわたってこの部分がとても大きくなるかというと、私はそうは思いません。ある意味で、そこをすっ飛ばしたのが電子の世界ですから。だから、そこで存在感をどう作るか。これから2〜3年は一緒になってシステムも一本化して推進力をつけることに注力しますが、その先をどうするかとなったとき、単に取次だけではなく、違う世界も一緒に作っていけるようになっていない限りは「要らない」となってしまう。版元や書店に対してもサービスができるような、きちんと業界で位置づけできるようなものを持っていないといけないのです。

―― 仰るように取次単体としての機能では先行きが厳しいので、凸版グループの垂直統合の中にあっては、他の機能の中に溶けていくような存在だったかもしれない。それが機構と一体になることで別の価値が生まれてくる、そういう期待があったということでよろしいでしょうか?

野副 凸版印刷さんの側がどう見ているかはわかりません。われわれとしては、ビットウェイさんは、十何年間この業界を作ってきた方々だから、非常に人材の質のレベルも高いし、業界のことをよく知っている、アクションも早い、システムの構築能力もあるなど、いい面がたくさんある。「この人たちはビジネスをよく知っている、この1年間で痛感したわれわれに足らないものを持っている」ということです。

―― 新しい領域を攻めていくときのパートナーは、もっと欲しいとお考えですか?

野副 それは常に思っていますよ。家族は大きくなった方が楽しいでしょう?

出版デジタル機構が目指す世界

―― 1年前のインタビューでは、「書籍版JASRACを目指しますか?」という質問をさせて頂きました。それに対する野副さんの答えは「ご想像にお任せします」というものでした。取り扱いタイトル数の増加、書誌情報の整備、回収期間も3年に限らず柔軟に設定するという流れを追うと、パブリッジが扱っているのは本というよりも権利ではないか、と考えたからです。権利の流通をトラッキングすることによる、マージンの回収、即ち書籍版JASRACを目指しますか? という質問を改めて今させてください。

野副 恐らくこの会社はその方向には行かないと思います。「恐らく」としたのは、これまでお話してきたような出版社、版元さんに対するサービス、あるいは書店を通じた読者に対するサービスとしてどのようなものが用意できるかの方が重要ですし、われわれの役割としても大きくなると考えています。コンテンツを預かってそれをデリバリーしつつ、むしろそこで「何」を見せていくのかが重要になっていくんじゃないかと。

―― サービスの部分は、各電子書店や、あるいは各出版社がダイレクトに行っているようにも思えます。機構がこれからそこでどういう動きができる、あるいはされようとしているのでしょう?

野副 さまざまな面があります。さまざまな「データ」をお預かりすることで、その裏にあるコンピューターシステムを、表側は書店から見せているかもしれないし、版元さんがダイレクトに見せていることもあるかもしれませんが、バックエンドのシステムをわれわれが提供することもあるはずです。

―― なるほど。ビットウェイを子会社化して、流通の重要なファンクションを得たわけですが、他にどういったファンクションが必要、あるいは作っていきたいとお考えですか。

野副 まず、即やりたいのは、書誌データを始めとしたデータの標準化に貢献し、コンテンツデータと書誌データをリンクさせ、一元管理するアーカイビングセンターの構築です。

 また、制作代行を行ってきて、作品を預けてくださる版元さんに対するフィードバックが、各書店からリアルタイムで整理された形で届いていないことも分かったので、出版社向けのポータルの整備も必要だと考えています。そこでは単なる売上だけでなく、作品に対する生の声も確認し、生かせるようなものにできればと。

 まだ言えないことも含め、さまざまなシステム化を行っていく考えです。そういう中で、先ほど申し上げたような裏側を支えるものも含めて、サービスプロバイダーとしてビジネスにつなげていきたいですね。

―― そうした青写真はどの程度描けていますか?

野副 まさにそこが一番大事なところです。7月のビットウェイの株式取得までは、ある意味で競業している他社だったこともあり、営業面・契約面をわれわれが見ることは一切できませんでした。ようやく一緒になった今、事業がどうやったらうまくいくかを一所懸命研究していて、できるだけ早く、株主や皆さんにお見せしたいと思っているところです。

 最初に申し上げたように、電子書籍を巡る環境はこの1年で格段に整いました。いまはまだ電子書籍では儲からない、という意見が大勢ですし、私も「現時点でのダウンロード数に期待はできないよ」と言っています(笑)。しかし、今年末、来年、さらに端末が普及し読者数が増えてきて、フォーマットもEPUBに収斂されてきたときに、フッと「閾値」を越える瞬間が来るはずです。

 そこで、それ以前から経験を積み準備を始めていた人と、慌ててそこから対応をはじめる人との差が現われます。われわれも、その瞬間に備えて電子書籍の世界で、制作・取次事業に留まらない地場を築いておきたいと考えています。

―― 今後の事業計画も含め機構の取り組みに注目していきたいと思います。本日はありがとうございました。


 音楽・映像業界でのビジネスに精通する野副氏によって、書籍のデジタル化が直面している困難と、その解決策のビジョンが示された。筆者もその結果には懐疑的な部分もある緊デジだが、今回語られたビジョンやビットウェイ買収は、その困難を身をもって経験したことに裏打ちされており、いわゆるアマゾン一極集中ではない電子書籍の世界を見据える上でも重要な布石であることは間違いない。

 もちろんその成否は氏や機構の力だけではなく、業界としての全面的な協力があってこそのものになる。紙の書籍のような多様性が担保された世界が、機構が目指すインフラ整備によって実現できるかどうか、その結果はここ数年という短い期間で示されることになる。

著者紹介:まつもとあつし

まつもとあつし

 ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマート読書入門』(技術評論社)、『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』『ソーシャルゲームのすごい仕組み』(いずれもアスキー新書)『コンテンツビジネス・デジタルシフト―映像の新しい消費形態』(NTT出版)など。

 取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。Twitterのアカウントは@a_matsumoto


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