本屋探訪記:ノマドを語るなら東京西荻窪にある「旅の本屋のまど」に行け

BOOKSHOP LOVER=本屋好きがお届けする詳細な本屋レポ。本屋が好きならここに行け! 今回は西荻窪の「旅の本屋のまど」を紹介する。

» 2014年02月07日 15時00分 公開
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 西荻窪に面白い本屋がある。知人からその話を聞いたのはもう2カ月前になるだろうか。話を聞いて次の休日にさっそく行ってみた。今回の本屋探訪記は「旅の本屋のまど」(以下は2012年10月20日の記録だ)。

場所

 JR東日本西荻窪駅の北口を出ると東西に道が走っているのでこれを東に進む。西の騒がしい大通りを無視して静かな方に進むのだ。古本屋や居酒屋などがチラホラ少し寂しいくらいの間隔でたたずんでいる。そんな中を15分ほど歩いていくと左手に看板が見えた。「旅の本屋のまど」に到着である。

旅の本屋

 中に入ると“旅空間”が広がる。真ん中に平台が4つ、壁はすべて本棚だ。奥にはレジがあり、レジ前には雑貨やCDが置かれている。一番奥の平台は2段構成になっていて少し面白い。

 しかし、そんなレイアウトはどうだっていい。ここの特徴は「旅の本屋」であるということである。旅エッセイや旅行記、旅行案内、食の本、料理の本、何でもある。「みんなのミシマガジン」というサイトでこの店は、「旅にまつわる本を手広く置いている」と紹介されている。同サイトから一部を引用しよう。きっとどんな本屋か何となく分かってもらえるはずだ。

「旅」に引っかかる本は基本置くようにしたうえで、そこから派生して、諸外国・地域の政治や文化、料理、映画、音楽など、「ここではない」場所への興味・関心を持てるような本を選んでいます。言ってしまえば何でもアリな訳でして、最終的な選択は結構感覚でやっています。なので、「どういう基準で選んでいるか?」と聞かれても答えられないんです(笑)。

 ちなみに僕が行ったときのBGMはケルト系の曲だった。さすがである。

店舗左辺 国内を中心に

 旅の本屋の本棚を見ていこう。

 左辺の本棚は国内を中心とした品ぞろえである。『るるぶ』などの旅行情報誌から旅行記、エッセイ、写真集、雑誌などとにかくたくさん置いてある(具体的な書名を知りたい方はこちらも参照してほしい)。

 日本国内、北は北海道から南は沖縄まで旅関連の本が盛りだくさん。さらには、『旅行人』など国内に留まらない旅行誌まである。特に東京についての本があったのが良かった。まだまだ堀りつくせない魅力がたくさんあるのだ東京には。さすがローカルが残る場所である(以下サイト参照)。

右辺は海外が中心

 レジまでたどり着いたところでいったん入口まで戻ろう。そこから次に見るのは右辺の本棚だ。ここは海外を中心とした品ぞろえとなっている。

 入り口すぐ横のガラスに面した角にある平台には中国や台湾をはじめとするアジアのガイドブックが置かれている。

 続いてまさかの新着古本コーナーがある。というかよく見てみるとこの店は新刊本と古本が分けられずに置かれている。管理が大変そうだが「本は人生のおやつです!」と同じである。個人的にこの置き方は非常に好きなので嬉しい。書名を挙げるとそこには、『アジア・カレー大全』『台湾まんぷくスクラップ』『冒険王への100の戦術』『スイス・アルプスひとり歩き術』『リアル・キューバ音楽』などがあった。

 それ以外は国名・地域名ごとにジャンル分けがされているので箇条書きで紹介する。手前から奥の順番だ。

  • 中国:『中国初恋』『中国魅惑の雲南』
  • 台湾・香港:『台湾事始め』『台湾自転車気儘旅』
  • 韓国・北朝鮮:『キムチの誘惑』『日本のコリアをゆく』
  • 東南アジア:『なるほど・ザ・台湾』『微笑みの国タイ』
  • アジア:『タイでロングステイ』『バンコク燃ゆ』『ハノイの憂鬱』『マニラ通』『バリ島カルチャー情報』『秘密国チベット』
  • 中近東:『イスラーム金融』『チンギスハンの末裔たち』『ドバイがクール』『ツタンカーメンが微笑む』
  • (途中に雑誌『SKETCH』ばかりの店がある)
  • アフリカ:『タムタムアフリカ』『キリマンジャロの石』『あふりか浮浪』
  • イギリス:『イングランド田園賛歌』『映画を通して知るイギリス王室史』『スコットランド「ケルト」紀行』『アイルランドでダンスに夢中』
  • フランス:『マリー・アントワネット』『モナコ公国』『ブルゴーニュの食卓』から
  • ヨーロッパ:『ベネトンの世紀』『イタリアの食卓』『パリ犬』『スイスの説明書』『ドイツ手作り紀行』『ベルギーグルメ物語』
  • イタリア:『フィレンツェの台所から』『シチリア・マフィア』『イタリア「ケルト」紀行』
  • ロシア:『モスクワ狂詩曲』『KGBの世界都市ガイド』『ポーランドの建築・デザイン史』『ヴァイキングの航海』『物語スウェーデン史』
  • 中南米:『グリーンネイバーフッド』『ビート・ジェネレーション』『マイケル・ジャクソン』『ジョン・レノン アメリカでの日々』『インディアンは笑う』
  • オセアニア:『メキシコホテル』『キューバでアミーゴ』『オーストラリア的生活』『夢と住むハワイ島』

 盛りだくさんである。何でもござれである。どこにでも行ってくだされである。海外旅行といえば大学の卒業旅行でグァムに行った程度の僕からすれば恐るべきタビ充(旅人充足。思いつきの造語だが)な棚である。

店舗右辺の突当り 雑貨・CDコーナー

 そのまま右辺に沿って進んでいくと突き当たりの角に雑貨とCDが並べられている。東野健一氏特製ポストカードや地雷除去ステッカー、『チェブラーシカ』、『世界ウルルン滞在記』などのDVD。ここの棚は異国情緒あふれる作りだ。マニアックなものばかりでなくこういう有名番組のものも置くポップさもこの本屋の魅力の1つといえる。

テーブル平台 本と雑貨 妄想マーチャンダイジング

 最後に、満を持して真ん中にあるテーブルや平台に行こう。ここは店舗に入って一番初めに目にする場所だ。いったいどんなオススメ本や雑貨が置かれているのだろうか。気合を入れて見ていこう。

 一番手前の平台から。ここには雑誌『考える人』のほか、『戦場の都市伝説』『旅を生きる人びと』『世界の市場』『フリートーキョー』『世界をめぐるかわいい紙もの』『ヨーロッパ各国気質』などポップな本が多い。なるほど。いきなり『アジアブラックロード』や『コヨーテ』に行く人は少ない。また、廃墟ツアー目当ての人など目的買いでもない旅や散歩、オシャレな外国のものが好きな人をここで捕まえようということだろう。

 2つ目の平台は、もう少しディープになる。雑誌『スッカラ』、雑誌『トランジット』の「美しきチベット」特集、雑誌『コヨーテ』の「今、野坂昭如」特集、さらに『島へ』『ジー・ダイアリー』など。1つ目の平台で捕まえたお客を2つ目の平台でがっちりと旅のディープな世界に引きずり込もうという戦略である。この落差にはしびれる。

 3つ目の平台まで行くともう市販すらされていない本が出てくる。『酒とつまみ』と『野宿野郎』だ。タイトルからしてたまらない。特に『野宿野郎』という響きからは僕の中に隠れていた堕落性が顔を出してしまいそうになる。いかんいかん。これ以上ダメ人間になってどうする。気を取り直してほかの本の紹介だ。

 他には『アマゾン漂流日記』や『バイクの旅』『雪男は向こうからやって来た』『フラットハウスライフ』『セルフビルド』『リトケイ』など一風変わった本がある。なるほど。今までとは違う切り口で旅を浮かび上がらせようという魂胆か。さすがである。恐れ入ったのである。畏み畏み申すのである(なんのこっちゃ)。

 4つ目の2段平台になると打って変わって雑貨が多くなる。絵本のダーシェンカやルドルフに、パウル・クレー・カードセットやルドルフマグカップなどだ。『東京ウォーキングコース』『社会科見学を100倍楽しむ本』、中古地図(100円から)、『教科書には載っていない!ワケありな紛争』など軽めのネタ本にアジアの雑誌と『ジー・ダイアリー』が大量に。さらにレジ側の面にはミシマ社Tシャツとカンボジア語Tシャツ、旅行人オリジナル便箋がある。ここまで来ると訳が分からない。きっとあれか。旅の果てに見出すものはカオスなのか。そうなのか。何とか言ってくれよ、なあ!

「のまど」を語るなら四の五の言わずにここに来い!

 これですべての棚と平台を見たことになる。途中、本と雑貨の位置関係を妄想して大変失礼なことを記した気がするが、それも本屋そのものに対する愛が迸ったからでなのである。ご愛嬌(あいきょう)ということで許して頂ければ幸いだ。

 何はともあれ「旅の本屋のまど」は「ノマド」の本来の意味である「定住しない遊牧民」を思い起こさせる旅感にあふれた本屋だった。駅から遠いのが玉にキズだが西荻窪にお越しの際にはぜひお寄りいただきたい。そしてしたり顔でノマド論を語っていたそれまでの自分を恥じ入り畏まって畏まって地の底に沈んだ気持ちを買い物という一級品のストレス解消法で盛り上げてもらいたい。

 つまるところは「行って買え」と。シンプルに言うとそういうことだ。

著者プロフィール:wakkyhr

本屋開業を目指す本屋好きサラリーマン。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営む。このほか、電子雑誌「トルタル」や本と本屋とつながるWebラジオ「最初のブックエンド」、NPO団体「ツブヤ大学」に本に関するイベントの企画班として参加。「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。理想の本屋さんを開くべく本の世界で縦横無尽に活動中。好きな作家はクラフト・エヴィング商会。一番好きな本屋は秘密。

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