「レンタル」はNGだが「立ち読み」はOK? iOSマンガの裏事情eBookマーケットリーダー

iOSアプリを開発するすべての人間にとって、App Storeの審査基準は非常に重要だ。コンテンツの見せ方にも、十分注意する必要がある。

» 2014年11月26日 10時00分 公開
[杉浦正武,ハートコミックス]

 App Storeは、素晴らしい仕組みだ。誰でも、開発スキルさえあればアプリを公開可能。審査基準もあるため、ユーザーは安心してアプリをダウンロードできる。――ただし、この「審査基準」については、少々注意する必要がある。

 App Storeの審査ガイドラインは存在するものの、細かい解釈となると、なかなか判断が難しい。究極的には、「一度、審査に出してみないと」通過するかどうか分からない側面はある。仮にリジェクトとなると、再審査で数日のタイムラグが生じる。公開日が遅れれば、販売計画が狂う可能性があるし、バグ修正のアップデートがリジェクトされれば、バグが直るのが遅れて、ユーザーに迷惑をかける。

 こちらのサイトでは、アプリが何日で審査されたかを開発側が報告し合っているが、最近では審査待ちの期間が平均「4日」とのこと。だが中には、1週間以上掛かったベンダーもいるようだ。これは筆者の体感値とも一致する。

iOSアプリの審査待ち時間分布図 こちらがiOSアプリの審査待ち時間分布図。余談だが、iOS 8公開直後は立て込んでいたようで、審査期間はもっと長かった(画像出典:Average App Store Review Times)

 難しいのは、時期によってOKであったものが、NGになる場合もあるらしい……ということ。もちろん、これは公式情報ではない。Appleが「基準を変更した」と発表するわけではないから、ベンダー側は状況を正確に把握できない。それでも、ベンダーコミュニティーにおいて「最近、こういうアプリは通りにくい」と情報共有がなされている状況だ。マンガアプリも、審査基準については多くの噂が飛び交っている。

レンタルマンガはNG?

 無料・読み放題マンガアプリが気にしなくてはいけないのが、「レンタルNG」の基準だろう。App Storeは、レンタル形式のコンテンツに不寛容なところがある。つまり、「一定期間コンテンツが読めるが、時期がくると読めなくなる」コンテンツがあれば、リジェクトの対象となり得る。(注:議論を簡略化するためにこう表現しているが、実際の規定はAppleのガイドラインを参照頂きたい)

 読み放題マンガアプリでは、30分読み放題、というシステムを採用しているところも多い。昨年よく見かけたのが、30分読み放題にして、追加で30分読むために課金する……というパターン。だが複数の情報源によれば、これは「当初は大丈夫だったが、途中から審査ではじかれるようになった」という。

 30分読むための時間を買う、という行為は、考えてみれば30分のレンタルと言えなくもない。30分が過ぎると、読む権利が消失する――というのは、App Storeの基準に反するわけだ。

 そこで改良版としてよく見かけるようになったのが、「30分読み放題で、それ以上読む場合には作品を購入する」パターン。購入してしまえば、作品は永遠に読めるので、これなら審査を通過するようだ。

 気になるのは「無料で30分読み放題」のところを、どう解釈するかだ。これにしてもある種、コンテンツをレンタルしていると見えなくもない(無料とはいえ、時間が過ぎれば読めなくなる)。そこで、このジャンルのアプリベンダーの多くは、これを「立ち読み時間」と位置付けている。

 すなわち、

  1. 作品を購入してください(期限設定なし)
  2. 購入検討のために、立ち読み期間を設けます(毎日30分)
  3. 立ち読み期限が終わったら、購入を検討してください

という論法だ。とはいえ、毎日、立ち読みを続けたら、全巻読みとおせてしまうので、「1巻立ち読み」のようなケースとはだいぶ異なるが、上記のロジックによってマンガアプリ業界は回っている。

 App Storeで何がOKで、何がNGかは日々、関係者が注目している。マンガアプリに「立ち読み」の文字を見たら、そういう裏事情があるのだな……と思って眺めると、ちょっと面白いかもしれない。

著者紹介:杉浦正武

電子コミックアプリ「ハートコミックス」の主担当者。ITmediaで5年間記者を務めた後、MBA留学(南カリフォルニア大学)、A.T.カーニー、DeNAを経てソフトバンクグループに復帰。新規事業であるハートコミックスを牽引する。


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