同人誌を紹介する同人誌、その狙いとは 『CIRCLES'』かつゆー&シアンに聞く司書メイドの同人誌レビューノート

秋葉原のカルチャーカフェ「シャッツキステ」の司書メイドことミソノが、同人誌のディープな魅力を紹介する連載企画。同人誌の用語を解説していく「ミソノ流ワンポイント用語解説」も必見。

» 2015年07月03日 12時00分 公開
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 一般にはあまり出会う機会のない同人誌。アニメやマンガのパロディや、コスプレの写真集などさまざまなジャンルがありますが、こちらの連載では、私設図書館「シャッツキステ」の司書メイド・ミソノが、オリジナル創作や評論ジャンルの同人誌を中心にご紹介します。作家の「好き」が形になった同人誌、その魅力を体感してください。

 今週は、「同人誌を知る、同人誌を楽しむ」という視点でさまざまな本を出されている、Circles' Squareの二人にお話を聞きました。

CIRCLES' vol.2 CIRCLES' vol.2

紹介する同人誌

タイトル:『CIRCLES' vol.2』

著者:かつゆー、シアン

サークル名:Circles' Square

形態:B5 42ページ 表紙カラー・本文カラー

Webサイト:http://csqr.org/

Twitter:かつゆー(@katsuyu_) シアン(@hachiman_cian

同人誌入手先:COMIC ZIN

参加予定イベント:コミックマーケット88 8月15日(1日目)プ-30a


同人誌は、誰もが自分の「好き」を追い求められる楽園

ミソノ どうぞよろしくお願いします。まずは、サークル名を教えてください。

シアン Circles' Square(サークルズスクエア)と申します。

ミソノ Circles' Squareさまはお二人で活動されていると聞きました。同人誌作りにおいて、それぞれの役割はありますか。

シアン Circles' Squareはシアンとかつゆーの二人のサークルです。作品によってそれぞれ執筆の担当範囲は異なりますが、特にはっきり分かれているところとしては、シアンが誌面・Webのデザインや対外的な告知まわりを担当、かつゆーが外部との交渉全般、在庫管理を行っています。

ミソノ なぜ「同人誌をもっとたのしくする同人誌」を出そうと思われたのですか?

かつゆー 二人ともサークル創立以前からずっと同人を楽しんできました。ひょんなきっかけがあって、同人のインタビュー誌を作ろうと話が盛り上がりCircles' Squareが誕生したのですが、まずは同人誌のことを自分たちがもっと知りたいというところから『CIRCLES' vol.0』の企画をスタートしました。

 誌面を構成するためにリサーチをしたり、インタビューをさせていただく中で、今まで知らなかった同人の側面にたくさん気付きました。見聞を広めるうちに「同人は知れば知るほど、もっと深く楽しめる」ということを自分たちが体感したため、読者の皆さまにも同人をより深く知ってもらうことで、さらに同人を楽しんでもらおうと以後の企画を進めていきました。

シアン 同人誌って誰でも楽しめる「表現の場」だと思うんですね。自分の好きなものを思う存分に描きながら、他の人が描いた自分の好きなものを探し集められる。商業誌では実現しないような、ニッチでコアなネタも同人誌の世界にはあって、きっと誰もが自分の「好き」をより追い求められる楽園なのではないでしょうか。

 この同人誌ならではの楽しさを、少しでも多くの方にお伝えしたい。そして、あわよくば、少しでも多くの方に「好きなものを描く」楽しみにも興味を持っていただきたい。そんな思いから、同人のインタビューや、同人サークルの素顔に迫る企画をまとめて同人誌を作っています。

さまざまな方向から同人誌にアプローチした本作り。先週ご紹介した『CIRCLES' vol.2』では創作同人誌を取り上げていらっしゃいます(『CIRCLES' vol.2』の誌面)

ミソノ サークルが誕生した「ひょんなきっかけ」……気になります!

シアン ひょんなきっかけというのは単純なもので、かつゆーさんとはもともと十年来の友人だったのですが、僕が同人誌を作りたいと声をかけたところ、以前に、同人誌を作った経験があったそうで。じゃあ一緒にサークルを始めましょうか、とトントン拍子に話が進んだというサークル結成秘話ですね!

ミソノ そんなにお付き合いの長い関係でいらしたんですねー! Circles' Squareさまの本の内容がいつもとっても練られて、まとまっている感じがするのは、そんなお付き合いの長い二人だからなんでしょうか! それにしても、いつもいろいろなサークルさんのお声を本に載せていらっしゃいますが、やり取りなどの調整がなかなか大変なのではないのでしょうか?

かつゆー 特に『処女作、集めました。』のように多数のサークルさんにご協力をいただくような作品は、正直なところメールでのやり取りだけでも大変です。ただ、自分たちがお話を伺いたいという動機がまず前提にあるので苦ではないんです。ご回答を最初に拝見する瞬間はいつも一読者として楽しんでいます。

シアン 同人誌がそうであるように、同人サークルも百人百色の世界だと考えています。つまり、できるだけ多くのサークルさんから話を伺わないと、ほんの一部分だけしか同人の楽しさをお伝えしていないことになるんですね。どのサークルさんにも必ず喜怒哀楽の詰め込まれたストーリーがありますし、それらを誌面に起こすことで、より多くの方に同人の楽しさを疑似体験していただけるのかなと思っています……ので、大変でもお届けしたいという意思でいっぱいです。

「CIRCLES'」が感銘を受けた1冊

ミソノ 多様な視点から同人誌を見て、広げていらっしゃるCircles' Squareさまですが、自分の中で輝く同人誌を「この一冊!」と絞るとしたら何でしょう。

シアン 私たちの『CIRCLES' vol.1』でインタビューをさせていただいたお相手でもある、COSMIC FORGEさんの『不思議の国の魔理沙』です。

ミソノ シューティングゲームの「東方Project」シリーズを題材にした同人誌ですね。

シアン この本はいわゆる「飛び出す絵本」なんです。ページをめくった瞬間に眼前に飛び出してきた魔理沙に「同人だから○○しかできない」なんて先入観は本当にもったいないんだ、同人だってアイディアと実現の手段を見つける労力を惜しまなければ何だってできるんだ、と気付かされました。COSMIC FORGEさんとは、100人の名刺を集めた『○○と申します。』という同人誌で後に制作をご一緒させていただいたのですが、企画段階からとにかく読者の目線に立って、どうすればより驚いてもらえるか、感動を届けられるかと思案されていたのが印象に残っています。

ミソノ 先週ご紹介した「CIRCLES' vol.2」は、2012年の発行で、実はもう3年も前になるんですね。そのころから、同人誌作りに取り組む気持ちに、何か変化はありましたか?

シアン 今振り返ると「vol.0」から「vol.2」までの間は、とにかく同人のことが分からなかったので「インタビューを通じて同人を教えてください!」というスタンスが強かったように思います。

 ですが、「vol.2」を作り終えるころには同人誌の世界にも気軽に相談ができるお知り合いが増えたり、自分たちにノウハウがたまって当初よりゆとりができました。そこで、その余力を読者の方に楽しんでいただくための「企画」を作ることに注ごうということになって。「vol.2」の次作からは、同シリーズ以外の単発の企画本作りにチャレンジしはじめたんです。

ミソノ 新たなジャンルへの挑戦ですね!

シアン 結果として、「vol.3」を出すのに2年以上かかってしまったのですが、その間に同人の教科書から同人制作の修羅場で食べるご飯のレシピ本まで、さまざまな企画本にチャレンジできて作品の幅がぐっと広がったと思います。

 「vol.2」を刊行して3年が経ちますが、冒頭でも述べた同人への思いと、読者の方へお伝えしたいことは今も変わっていません。強いて挙げれば、睡眠時間はより減って、執筆に着手する日も入稿日も遅くなりました。でも熱い気持ちは変わらないんです。本当です。

同人誌を楽しんでほしい! というお気持が伝わってきます『CIRCLES' vol.2』の誌面

この夏の新刊は?

ミソノ 夏コミにも参加を予定されているCircles' Squareさまですが、今後はどのような活動を考えていらっしゃいますか。

シアン 「同人がもっと楽しくなる同人作品を作る」という基本の軸をより太くすること、それと同時にいろいろなことにチャレンジしていきます。やはり「老若男女」により広くお伝えしていくようなネタと、ニッチでコアなネタの二段構えがいいですね。

 私たちを育ててくれた同人の世界がもっと楽しく、そしてもっと自由であり続けるために、微力ながら力添えし続けていければと思います。

ミソノ 何でもCircles' Squareさまはこの夏、夏コミとコミティア合わせて新刊3冊の発売を予定しているといううわさも耳にしました。ますますのご活躍を楽しみにしております! シアンさま、かつゆーさま、お話ありがとうございました!

ミソノ流ワンポイント用語解説

睡眠時間

 社会人や学生さんが余暇に制作していることが多い同人誌。毎日の生活にどう創作時間を組み込むか……? 「結論! 睡眠時間を削る!」ということになりがちです。

 経験から言うと、作業が長く続く時ほど、睡眠はきっちり取った方が作業効率は良いですよー。そしてどうにもこうにも追いつめられた時は、島本和彦先生の『燃えよペン』の名シーン「あえて……寝るっ!!」を心の支えにして、おふとんに入りますっ!

ミソノ:いつでも優しい笑顔で、皆の心をいやしてくれる。普段は大きな図書館で司書をしており、司書ならではの本に関するお話は、日常では知る機会の少ない情報満載で、一聞の価値あり

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