種のバリエーションは目的に合致した遺伝子を生むか――GALAPAGOS Appの狙いは
電子ブックストアサービス「TSUTAYA GALAPAGOS」をシャープ製Androidスマートフォンから利用できるアプリ「GALAPAGOS App for Smartphone」がリリースされた。バリエーションを増やし、利用者の母数拡大を狙う
TSUTAYA GALAPAGOSは3月2日、2010年12月10日にサービスインした電子ブックストアサービス「TSUTAYA GALAPAGOS」をシャープ製Androidスマートフォン向けアプリ「GALAPAGOS App for Smartphone」(以下GALAPAGOS App)として提供開始した。「TSUTAYA GALAPAGOS、シャープ製スマートフォン向けにサービス開始」にてすでに第一報をお届けしているが、ここでは、同日にシャープが都内で開催した記者発表会を取り上げる。
商品作りと価値作りの両輪がクラウド時代における「モノ作り」
「クラウド時代における『モノ作り』とは、ハード主体の『商品作り』にコンテンツやサービスを含めた『価値作り』を組み合わせたもの」――シャープの執行役員でネットワークサービス事業推進本部長の千葉徹氏は話す。そして、価値作りの具体例がTSUTAYA GALAPAGOSで提供している定期自動配信の仕組みであると説明し、「日本のメーカーが培ってきた技術力や極め細やかさを生かして、きらりとひかるオンリーワンサービスを目指したい」と同社のクラウドメディア事業の方向性を示した。
同社がメディアタブレット「GALAPAGOS」および、カルチュア・コンビニエンス・クラブと立ち上げた電子ブックストアサービス「TSUTAYA GALAPAGOS」が2010年12月に立ち上がって約3カ月が過ぎようとしている。これまで販売台数などの個別の数字は明らかにされておらず、この日もそうした質問に対する明言は避けたが、サービス利用者の傾向分析がシャープ ネットワークサービス事業推進本部商品企画担当チーフの松本融氏から示された。
同氏によると、利用者の年代別では40代がボリュームゾーンで、30代から50代のユーザーが全体の75%以上を占めるという。さらに、5.5型のモバイルモデルと10.8型のホームモデルでは購入される書籍のカテゴリにも違いがあり、両者とも書籍の割合が最も多いが、後者は大型の液晶を生かした雑誌コンテンツの購入比率が高いという。
また、TSUTAYA GALAPAGOSのコンバージョンレートは10%前後と比較的高い値で推移しており、TSUTAYA GALAPAGOSのランキングには出てこない日本経済新聞電子版など売り上げの上位に来ていることが明かされ、定期配信の価値が受け入れられていることを強調した。
GALAPAGOS Appが狙うのは?
GALAPAGOS App の配布はAndroidマーケットで行われ、シャープ製スマートフォンのポータルサイト「GALAOAGOS SQUARE」にもAndroidマーケットへの導線が用意されている。
「GALAPAGOS Appが狙うのは20代〜30代といった(メディアタブレットのユーザー層より)少し若い世代で、カバー範囲を拡大するのが狙い」と松本氏はGALAPAGOS Appの投入意図を説明する。
「十分にテストが行え、自信を持って提供できるところから始める」(松本氏)ということで、まずはシャープ製Androidスマートフォン6機種のみで利用可能となるGALAPAGOS App。具体的な機種名で言えば、NTTドコモの「LYNX 3D SH-03C」、KDDIの「IS03」「IS05」(近日サポート予定)、ソフトバンクモバイルの「GALAPAGOS 003SH」「GALAPAGOS 005SH」、ディズニーモバイルの「DM009SH」をサポートし、これにより、TSUTAYA GALAPAGOSが利用可能な端末は、NTTドコモのブックリーダー「SH-07C」を含め全10機種(メディアタブレットのモバイルタイプ色違い1機種を含む)となった。
なお、KDDIの「IS01」については、OSのバージョンの関係でサポート端末から除外されたほか、これ以外のAndroidスマートフォンで利用しようとしてもアプリ起動時のチェックではじかれるようになっている。
スマートフォンでの展開に合わせ、コンテンツ面での拡充も図られた。3月1日には4紙目の新聞としてスポニチの配信が始まっているが、ヤッパと電通によるMAGASTOREとも連携し、同日からMAGASTOREから約60誌がTSUTAYA GALAPAGOSに追加された。今後、コミックの拡充が進むとみられる。
ただし、日本経済新聞電子版や日経BPの各誌は、メディアタブレット向けであり、GALAPAGOS Appからは利用できないという(正確にはストアには表示されるが、購入はできない)。
GALAPAGOS Appとメディアタブレットの違いは?
GALAPAGOS Appは専用端末であるメディアタブレットと汎用的なスマートフォンという立ち位置の違いから、幾つかの変更点も加えられている。例えば、新着コンテンツをステータスバーで知らせる仕組みや、定期配信のオン/オフの切り替え(海外旅行などで意図しないパケット通信を防ぐため)、ユーザー登録なしでTSUTAYA GALAPAGOSを試すための「ゲストモード」の追加などだ。
細かなところでは、GALAPAGOS Appはメディアタブレットで用意されていたPC向けの管理アプリケーション「GALAPAGOS Station」との連携は想定されておらず、GALAPAGOS Station経由で転送したPDFやXMDFファイルが集約されていた「マイクリップ」がGALAPAGOS Appでは非表示となっている。また、GALAPAGOS AppではPDFビューワ自体搭載していない。この辺りから判断できるのは、徐々にではあるが、クラウドメディア事業としての性格が強まってきているということだ。
アプリのUIは横幅FIT縮小表示が行われ、画面解像度が異なる端末間で見え方が同じになるよう調整されており、レイアウトが指定されているコンテンツについても、アスペクト比を確保してほぼ同様の見え方を保っている。
また、同じユーザーが複数の端末を利用することを想定し、TSUTAYA GALAPAGOSでの1アカウントに対し、3台まで利用可能となった。これにより、例えばホームモデルのメディアタブレットから購入したコンテンツをスマートフォンで読むということも可能になる。
各キャリアがAndroidマーケットのアプリなどについてキャリア課金を開始することを発表しているが、シャープ ネットワークサービス事業推進本部ネットワークサービス推進センター副所長兼サービス企画室長の中村宏之氏は終了後の談話として、「(TSYTAYA GALAPAGOSで)クレジットカード番号を収集しなければならない理由はない。課金方法に選択肢があるのはよいことだし、将来的にはTSYTAYA GALAPAGOSでもキャリア課金が利用できるようにしたい」という見解を示した。
同氏の説明では、昨年12月に発売したメディアタブレットは、電子書籍市場の創出に向けた創世期を担うものであり、今回のGALAPAGOS Appは、利用者の母数拡大を目的とするいわば成長期を担うものだという。そう遠くない将来、同社のAQUOSや、他社のスマートフォンなどにもサービスを拡大するのはほぼ既定路線といえる。なぜなら、種のバリエーションが豊富であればあるほど、目的に合致した遺伝子が現れる可能性が高まるからだ。シャープが考える目的――新しい生活習慣の提案――に合致する遺伝子を求めて、GALAPAGOSは進化を続けている。
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