出版各社は配達遅延が発生、電子書籍はいまだ活用されず
3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震から5日。今なお予断を許さない状況ながら、復興作業も進展している。こうした状況下で、出版業界はどのようなアクションが取れるのか。ここではコミック10社会のアクションについてまとめた。
3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震から5日が経過し、今なお注意が必要とはいえ、復興作業が進んでいる。
そんな中、正しい「情報」の重要性はここで繰り返す必要はないだろう。しかし、情報を伝達する手段としての電子書籍は、今回はまださほど活用されていないように映る。eBook USERではこれまで、災害医療関連のコンテンツや絵本などが電子書籍として無料で提供されてきたことなどをお届けしてきた。しかし、出版業界がこの災害にどんな役割を果たせるのかについては、まだ明確に答えることができない。
文化的事業としての出版事業ができることは何だろうか。この原稿を書いているさなか、アニメを始めとする日本の文化が大好きだというスペインの女性から記者にTwitter経由でコンタクトがあり、日本の状況を心配している旨を告げるビデオメッセージが届けられた。こうしたケースはさまざまなところで目にすることができるが、漫画やアニメを通じて日本に親近感を持ってくれている方が多く存在していることに、コンテンツの力を改めて感じることができる。
*** 一部省略されたコンテンツがあります。PC版でご覧ください。 ***
漫画やアニメと言えば、3月24日から開催予定だった「東京国際アニメフェア2011」は東北関東大震災の影響で開催が中止となった。2010年12月に東京都青少年の健全な育成に関する条例の改正案の審議に関連し、同イベントへの協力・参加を拒否する旨の声明を発表した「コミック10社会」なども記憶に新しいが、この参加各社は東北関東大震災に対してどのような取り組みを行っているかを確認してみた。
各出版社ともに配達遅延が発生、電子書籍はいまだ活用されず
コミック10社会に参加している出版社は、「秋田書店」「角川書店」「講談社」「集英社」「小学館」「少年画報社」「新潮社」「白泉社」「双葉社」「リイド社」の10社。各社のホームページを確認したところ、基本的な対応はどこも同じで、被災に対するお見舞いの言葉と、発売予定の刊行物に関する状況の説明となっている。
これによると、広範囲に渡る交通事情の影響で、3月14日以降に発売される刊行物については各出版社で配達遅延が予想されるという。秋田書店は3月14日の時点で、物流センターの機能が一部停止したと発表、通信販売の新規受注を停止、角川書店も「webKADOKAWA」での受注を当面中止と発表した。
集英社、小学館、新潮社、少年画報社、リイド社なども配達遅延の懸念を示している。双葉社は、物流の状況などは特に説明がない。白泉社は、「困難なときにも心の糧となる作品をみなさまにお届けできるよう、スタッフ一同がんばっていきます」というメッセージが目を引く。
講談社は売り上げの一部を寄付することを発表、被災者のための救援金も募集も合わせて開始している。
まとめると、東北関東大震災の影響で、交通体系の寸断や紙資材工場欠損が発生しており、災害救助最優先の方策や、輸送燃料の欠乏、さらに計画停電などの事情も加わって、全国の出版物流はほかの物流同様、通常時より遅延遅滞が生じている。紙媒体は通常の発売日に届かないものも少なくないということになる。ここではコミック10社会の状況を取り上げたが、基本的にはほかの出版社も同様の状況と考えられる。
しかし、電子書籍を含め、自社が有するコンテンツを活用しようという動きはまだ確認できない。義援金などの支援ももちろん有効ではあるが、今こそ出版各社の文化的な支援策にも期待したいところだ。
この一方で、より即効性のあるアクションが取れないかと、著者や編集者の活動も目立ってきた。例えば、ジャーナリストの本田雅一さんは、Facebook上に「電子書籍印税で義援金プロジェクト」を立ち上げ、電子書籍の著作権者に対し、電子書籍の販売で得られる印税を寄付しようと呼び掛けている。
角川書店から3月25日に発売予定の「県庁おもてなし課」の著者である有川浩さんは、単行本で発生するすべての印税を東北地方太平洋沖地震の被災地に寄付するとブログで報告しており、角川書店と細かな部分の調整を進めている。
また、電子書籍や出版に関わる人間が集まって、コンテンツ面からの支援を進めようとする「JPublisher Japan Aid Project」も立ち上がった。記者も参加している同プロジェクトは、電子書籍配信プラットフォーム「PurchasePlug beta」を手掛ける28号の大水淳也代表取締役や、jig.jpで電子書籍関連のビジネスを推進するモバイルアプリ事業部ソーシャルアプリグループの持田泰グループリーダーなどを中心に急速に議論が進められている。出版業界の方などで電子書籍を中心とするコンテンツの扱いについてアイデアや支援策をお持ちの方はぜひ参加・共有していただきたい。
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