東日本大震災後、電子書籍市場では何が起こったか:eBook Forecast特別号(2/2 ページ)
「電子書籍ってどこを押さえておけばいいの?」――忙しくて電子書籍市場の最新動向をチェックできない方のためにお届けするまとめ記事「eBook Forecast」。今回は特別号として、東日本大震災からの1カ月間に起こった国内外の出来事を振り返ります。
Amazon、Google、Microsoft、3社3様の動き
震災の影響もあって、海外の動向をウオッチできてない方は多いかと思います。国内は震災に関連した動きが多かったのですが、海外では、相変わらずダイナミックに市場が動いています。それは例えば、「従来の出版モデルはもはや財務的に成り立たない」として米O'Reilly Mediaがプリント・オン・デマンドへの移行を決めたことなどからもうかがい知ることができます。
そんな中、世界の電子書籍市場をリードする米Amazon.comは4月11日、自社の電子書籍端末「Kindle」について、値下げしたモデルを発表しました。「Kindle with Special Offers」と呼ばれるこのモデルは、従来の最安値モデルより25ドル安い114ドルで提供されています。
値下げの秘密は、特売情報や広告が表示されるというもので、なかなか興味深いところですが、どうせなら思い切って100ドルを切る値段で提供してもらいたかったところです。そういえば、1年ほど前に同社の有料優待サービス「Amazon Prime」の契約者にKindleを無償配布するといったうわさが駆け巡りましたが、今回の発表から考えても、その線は薄いようです。そろそろ次モデルの登場が期待されますが、いよいよカラー電子ペーパーを搭載してくるのでしょうか。それともAndroidタブレット……? これらはそう遠くない将来明らかになるでしょう。
Googleの姿勢に司法はノーを
一方、海外ではニューヨークの裁判所が、Googleと出版社による集団訴訟の和解案を棄却し、大きな注目を集めています。
この問題は2005年に米国著作者協会(AG)や米出版社協会(AAP)がGoogleを相手取って起こした訴訟に端を発しているもので、Googleが推進している「Google Books Search」(現Google Books)は図書館の蔵書を権利者の許可なく電子化しており、これは著作権侵害に当たるとしてGoogleが訴えられていたものでした。
これに対しGoogleは、これはフェアユースだと主張しながらも和解案を提出。それは、権利者が不明な書籍(孤児本)や絶版書について、Googleだけが事前許諾不要で電子化して利用できるという、Googleにとって有利な案でした。当然、Googleの競合となりそうな企業などはこれに反対、また、和解の対象が国際条約を通じて他国にも及ぶことなども市場で問題視されていました。
その後、こうした批判を受けて修正和解案(ASAと呼ばれています)が2009年11月に提出されます。このASAでは和解の対象が米国、英国、カナダ、豪州に絞られ、日本では急速に関心が薄れていきました。しかし、対象国では、もはや当初の著作権侵害の話うんぬんではなく、世界最大のデジタル図書館誕生の是非をめぐるものへと論点が移り、米司法省はASAに対し、「Googleに反競争的な利得をもたらす可能性があり、同社が多数の電子書籍を配布する権利を持った唯一の企業になるかもしれない」という意見書を米連邦地裁に提出することになります。司法がこの問題にどのような判断を下すのかが注目されていました。
今回、ニューヨーク地裁がASAを棄却したことで、6年ほどの歳月を経て司法がGoogleの姿勢に対してノーを突きつけたということになります。地裁は、事前に許可を得た本だけを対象にすることを提案しています。つまり、「もし文句があったら言ってね」のオプトアウトではなく、オプトインにしろと地裁は提案しているのです。しかし、孤児本や絶版本の権利者からオプトインを得るのは困難ですから、Googleがこれをそのまま受け入れるとは思えません。とはいえ控訴して上級審で現在の修正和解案を認めさせるのもまた困難でしょうから、Googleがどのような動きを見せるのかが注目されています。4月25日には今後の方針が話し合われるということなので、次回のeBook forcastで続報をお届けできるかもしれません。
Microsoftは米Barnes & Nobleなどを特許侵害で提訴
訴訟がらみではもう1つ大きな動きが起こっています。Microsoftが電子書籍端末「nook」を販売する米Barnes & Nobleなどを特許侵害で提訴したことです。Barnes & Nobleといえば米書店チェーン最大手で、特に電子書籍を扱うデジタル部門が顕著に伸びている企業として知られています。
Androidをベースとするnookは自社の特許を侵害しているというのがMicrosoftの言い分で、Googleを取り巻く特許訴訟にBarnes & Nobleが巻き込まれたものだといえます。Androidについてはこうした訴訟が頻発しており、AppleやOracleといった企業も、Androidに関連する特許訴訟をそれぞれ起こしています。中にはHTCのように、Microsoftに特許使用料を支払うことで法廷闘争を早期に回避した企業もありますが、Barnes & Nobleはどのような対応をみせるのでしょうか。
スマートフォン市場におけるAndroidのシェアは2012年に約50%に達するというGartnerの予測もありますので、Googleとしてもこうした訴訟リスクは極力減らしたいところですが、そのための現実的な動きとして、2009年に破産保護を申請したNortel Networksが有する特許ポートフォリオの競売に参加しました。
9億ドルを投じて約6000件の特許などを獲得しようとするこの動きの裏には、Googleに対して特許訴訟を起こそうとする他社をけん制する目的があるようですが、LTE関連の特許に狙いを定めている節も見受けられ、動向が非常に注目されています。この競売にはResearch In Motion(RIM)も入札を検討しているようで、6月の最終決定でどこが落札するのかは予断を許さない状況にあります。Googleに関する訴訟は、電子書籍市場にも広範に影響を及ぼしますので、注視しておくとよいでしょう。
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