12月前半の注目すべき電子書籍市場動向:eBook Forecast
「忙しくて電子書籍の最新動向がチェックできない。でも気になる」――そんな方のためにお届けする「eBook Forecast」。今回は、国内外で大きな動きがあった12月前半の電子書籍市場動向をまとめました。
年の瀬も押し迫った2010年12月。後に(本当の)電子書籍元年と呼ばれることになるかもしれないこの年も、残すところあと半月となりました。12月前半の電子書籍市場は国内外で大きな動きがありましたので、ここでおさらいをしてみましょう。
数字で裏付けられた電子書籍市場の盛り上がり
まずは電子書籍市場の盛り上がりを示す数字から紹介しておきましょう。
米Gartnerは電子書籍リーダーの2010年の世界での販売台数は前年比79.8%増の660万台で、2011年には1100万台を超えると予測、同じく米国の市場調査会社であるIn-Statは、電子ブックリーダーの出荷台数が、2014年には3500万台に、タブレットPCの出荷台数は、2014年までにおよそ5800万台に達すると予測しており、小売価格も順調に値を下げてくると指摘しています。
また、米国の出版社業界団体「Association of American Publishers」が発表した2010年10月の市場統計情報では、電子書籍の前年同期比の売り上げが2倍超となっていることなどを考慮しても、この市場はかなり有望であるといえます。ただし、出版社の売り上げに占める割合はまだ1割にも満たないようで、電子書籍から利益を出す難しさも見て取れます。
IT業界の巨人、Googleがついに電子書籍市場へ参入
さて、12月前半の電子書籍市場で最もインパクトがあったのは、Googleがいよいよ開始した電子ブックストアサービス「Google eBookstore」でしょう。これまで「Google Editions」と呼ばれていた同サービスは、その構想が発表されて数年がたとうとしていますが、ようやくサービスインに至りました。Googleがこれまでにスキャンしてきた1200万冊余りの書籍のうち、パブリックドメインとなっているものを中心に約300万冊を提供しています。閲覧も特別なリーダー端末やソフトウェアを必要とせず、Webブラウザだけで読めるシンプルなものにしているのも特徴です。
基本的にはクラウド上に存在するものを閲覧する形式ですが、EPUB/PDFのダウンロードも可能で、iPhoneやAndroid、さらにはBarnes & Nobleの「Nook」やSonyの「Reader」といった主要な電子書籍リーダーで読むことができます。Amazon.comのKindleでは読むことができませんが、これはDRMに用いているAdobeのソリューションの仕様です。とはいえ、電子書籍市場で有利な地位にいるAmazon.comをその座から引きずり下ろそうとするGoogleの意志も垣間見えます。
まずは米国でサービスインし、そのほかの国での展開も視野に入れるGoogle eBookstore。すでに欧州での展開に向け、英国の書店協会Booksellers Associationとの協議を開始しているという報道もあります。日本でも2011年中にはサービスが提供される見込みが高いですが、電子書籍市場に遅れてやってきたIT業界の巨人が、どのようにシェアを拡大していくのか注目されます。
ちなみに日本では、前回も紹介した通り、漫画家の赤松健氏が絶版マンガに広告を挟み込んで無料配布する「Jコミ」というサイトをスタートし、話題となっています。Google eBookstoreが単なる電子書籍のコマースサイトになるのか、それともGoogleらしい広告モデルを電子書籍の中に持ち込むことで新たな広告商品が誕生するのかなど、今後の電子書籍市場で目が離せない存在となりそうです。
Googleの参入で激化が予想される電子書籍市場での制空権を死守すべく、競合他社、特にAmazon.comはすぐに対抗策を打ち出しました。Google eBookstoreの発表翌日には同社が提供しているWebブラウザ向け電子書籍ビューア「Kindle for the Web」の機能強化を発表(Amazon、Webブラウザから電子書籍の購入と全文閲覧を可能に)、電子書籍の購入と全文閲覧をWebブラウザベースで、つまり、Google eBookstoreと同様の機能を持ったものに拡張する予定を明らかにしました。この新しいKindle for the Webはウィジェットとしてサイトに組み込めるようにし、アフィリエイト収入をサイトオーナーが得ることができるようにすることで、ユーザーベースを拡大させようとしています。
ただし、提供時期は数カ月後とGoogleの動きに追従できていないため、急ピッチで外堀を埋めようとしています。例えば、米国のベストセラー作家ウォーレン・アドラー氏の新作をKindle用の電子書籍として独占発売することを発表したり、あるいは、「Domino Project」として発表されたプロ作家向けの総合出版サポートサービスなどです。しかし、こうした取り組みの一方で、内部告発サイトWikiLeaksで公開されていた文書やパブリックドメインの作品がKindle Storeで有償販売されていたことに批判が集まるなど、思わぬところから攻撃を受けています。
Appleも同様に、社団法人日本書籍出版協会・社団法人日本雑誌協会・一般社団法人日本電子書籍出版社協会・デジタルコミック協議会の出版社系4団体から、App Storeで違法コピー版の電子書籍が配信された問題について正式抗議文を突きつけられており、その対応が注目されます。こうした問題をどのように対応するかがグローバルで展開するプラットフォーマーの今後の課題となりそうです。
「GALAPAGOS」と「Reader」が発売――市場の反応は?
一方、国内の電子書籍市場に目を向けると、GoogleやAmazon.com、さらにはAppleといった企業の本格参入はまだ見えてきませんが、その間隙(かんげき)を縫うように大きな出来事が相次ぎました。注目度の高いeBookリーダーであるシャープの「GALAPAGOS」と、ソニーの「Reader」が12月10日に相次いで発売されたのです。また、これに伴い両社がそれぞれ展開する電子書籍ストア「TSUTAYA GALAPAGOS」「Reader Store」もオープンしています。すでにeBook USERでも両製品のレビューなどが幾つか掲載されていますが、ここではハードウェアと流通という観点で各1本を紹介しておきます。
GALAPAGOS
Reader
量販店では展示のみとし、直販体制で臨むシャープと、量販店などでも購入可能にしたソニー。両社の販売戦略がどのような結果になるかはもうしばらく様子を見る必要がありますが、筆者の印象では、予想に反してソニーのReaderが健闘しているように思います。予想に反して、と記したのは、PCとの連携を前提としている点や、Reader Storeの品ぞろえが当初の予定を下回っているように見えることなどを受けてのものですが、電子書籍端末と言うよりはむしろステーショナリーとしての位置づけを狙っているようにも見えるReaderが、広く支持を集めているというところでしょうか。
とはいえ、現状のReaderが提供していない定期購読サービスや、端末だけで購読ができる仕組み、さらにカラー液晶という特徴を持つGALAPAGOSに魅力を感じるユーザーも少なくないでしょう。今後、電子書籍だけでなく動画などの取り扱いを開始すれば、また異なる層から支持されることも予想されるため、ここで性急に優劣を付ける必要はありません。願わくば、国内の電子書籍市場を盛り上げるため、両社に切磋琢磨(せっさたくま)してほしいところです。
各出版社の取り組みも顕著に、DNPも本格参入
このほか、角川グループの配信事業会社である角川コンテンツゲートも、来年夏のサービスインを予定するコンテンツ配信プラットフォーム「BOOK☆WALKER」のiPhone/iPadアプリを12月上旬にリリースしました。品ぞろえこそTSUTAYA GALAPAGOSやReader Storeにおよばないものの、現状の電子書籍市場のかなりの部分を占めるコミックス系を中心に取り扱うBOOK☆WALKERは、電子書籍市場でうまく集中と選択を図っているといえそうです。いわばネット上の大きな書店であるTSUTAYA GALAPAGOSやReader Storeとは対極にある取り組みといえますが、電子書籍市場に意欲的に取り組む同社の動きは引き続き注目されます。
面白いところでは、日本放送出版協会(NHK出版)が発表した電子書籍の感想を共有できる「SHARER READER」のようなソーシャルリーディングが電子書籍の普及に伴って今後人気となりそうです。ソーシャルリーディングについてはベンチャーなどが起業の準備をしているとも伝えられ、来年早々にはもう少し話題になると予想されます。
また、大日本印刷(DNP)もようやく本格的に動き出しました。同社はNTTドコモとともに共同事業会社「トゥ・ディファクト」の設立で合意、2011年1月上旬から電子書籍の販売事業を開始します。凸版印刷がソニー、KDDI、朝日新聞社と組んで電子書籍配信事業を手掛ける「ブックリスタ」を事業会社化し、すでにReader Storeなどに電子書籍を卸しているのと比べるとゆっくりとした動きにも見えますが、注目したいのは、リアル書店との連携を強く打ち出している点でしょう。この辺りは傘下に丸善、ジュンク堂、文教堂を抱えるDNPならではの動きといえます。基本的には11月に同社がPC向け電子書籍販売サイト「ウェブの書斎」をリニューアルする形で立ち上げたhontoを軸に、まずは傘下のbk1とシステムを統合、そこからリアル書店との連携を図りたい考えのようです。地固めをしっかりしているという印象ですが、その成果が現れることになる1月からの動きに注目しましょう。
こうして見てみると、かつてITの世界でユーザーの興味がハードウェアからアプリケーション、そしてサービスへと移り変わっていったように、国内の電子書籍市場もまずはハードウェアの話題に注目が集まっているようです。来年はサービスレイヤーで海外勢とのし烈な競争が始まるでしょうが、各社がどれだけ盤石の基盤を築けるかが勝負の鍵を握りそうです。
2010年も残すところあと半月あまり。クリスマスにはeBookリーダーをプレゼント、といった光景もあちこちで見られそうです。本連載は週刊と月刊の2本立てとしていましたが、少し軌道を修正し、半月ごとのリポートとしてまとめていきたいと思います。12月後半の電子書籍市場はどんなニュースでにぎわうのでしょうか。
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