村上龍に聞く、震災と希望と電子書籍の未来(前編):電子版「ラブ&ポップ」をGALAPAGOSでリリースしたその理由(3/3 ページ)
作家、村上龍氏の代表作の1つ『ラブ&ポップ』の電子書籍版がTSUTAYA GALAPAGOSに登場した。バブルの残滓が色濃く残るこの作品を、震災のダメージ、政治の混乱、経済の低迷という三重苦の中にある現代のわたしたちが振り返ることの意味はどこにあるのだろうか? 氏が考える「電子書籍の未来像」など、気鋭のジャーナリスト、まつもとあつしによる村上氏へのロングインタビューを2回にわたってお届けする。
電子書籍は「書籍」で無くなる可能性も
村上龍 あと、電子書籍が持っている、可能性の全部がまだ出てきているわけじゃないと思うんですよね。
―― 例えばどんな可能性ですか?
村上龍 いや、それは分からないですね。出版の歴史をたどるとき、よくグーテンベルクが引き合いに出されますが、彼が印刷機を作ったときも、「本の可能性」をすべて見通していたわけではないと思うんですよね。
例えばエジソンが蓄音機を作ったときに、最初は遺言をレコーディングする機械だと言ったらしいんですよ。生前の声が吹き込まれて、遺言を残せるというようにと、レコード盤と蓄音機をエジソンは作ったけれど、まさか音楽観賞用になるとは、まだ、イメージできなかったらしいんですよね。そのくらい、画期的な技術というのは、思わぬ方向に拡がる可能性があるので。
だから、僕も電子書籍全体がどうなるのかは分かりません。自分たちの仕事を通じて、それを手探りしながら、試行錯誤していくということでしか、探せないんですよね。
―― なるほど。今どうしてもわたしたち、ペラペラッとめくる本の置き換えたものというようなイメージで、捉えがちなんですけど。まったく別のものになる可能性がある。
村上龍 まあ、そんなには違わないかもしれませんが。
案外単品のテキスト、それこそ小説のテキストの場合は、そんなに変わらないかもしれないですよ。ただ漫画などは――僕の知り合いは『スラムダンク』とか、なんだっけあの、有名な海賊のやつ、最近人気の。
―― 『ワンピース』。
村上龍 そう、それだ。『ワンピース』とかを、全部入れちゃってるんですよね、iPadに。あれはもう、違うもんだと思いますね。
―― それはその、違法でというわけじゃなくて、自分で。
村上龍 自炊してるみたいですけど。
―― 自炊ですね。
村上龍 いまんとこ、あれが一番頭がいい人たちじゃないかな。あと大学の教授や研究生とかもですね。医学書や論文などボリュームがあるものをiPadに全部入れてる人もいる。そうなってくると、もはや書籍とは違うものだと思いますよ。
そういったコンテンツを表示できるという意味では、本と変わりないんですけど。利便性がもう全然違いますから。
―― 違いますよね。わたしもまさに論文をタブレット端末に入れるということをやっているんですけど。もう全部読むというより、はなから入れてしまって。
村上龍 データベースとして。
―― もう検索して、必要なところを引っ張ってくるという。たぶん、本を書いた人からすると、ちょっとそういう使われ方は嫌がられるかもしれませんが。
村上龍 いやでも、どうせそういった研究書のたぐいは、データベースとしての役割も大きいので。しょうがないんじゃないですか。
―― でも小説はやっぱり、頭からちゃんコンテキストを理解したうえで読んでほしい。
村上龍 それはまあ、そうしてほしいですけど。
著者紹介:まつもとあつし
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.JPにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に「スマートデバイスが生む商機」(インプレスジャパン)「生き残るメディア死ぬメディア」(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM修士。村上龍氏の作品では「13歳のハローワーク」を研究テーマに選んだことも。Twitter:@a_matsumoto
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