楽天「Kobo Touch」のスタートダッシュと今後を考える(2/2 ページ)
7月19日に販売開始した楽天(Kobo)の電子書籍リーダー「Kobo Touch」だが、あまり良い評判が聞こえてこない。本稿では、その原因や課題などを考えたい。
Rabooや楽天ブックスはどうなる?
楽天の電子書籍事業は「Koboイーブックストア」が最初ではなく、それ以前に「Raboo」を開始している。Rabooは今後Koboイーブックストアに統合予定となっているが、現時点では互換性などはなく、Rabooでの購買履歴からKoboイーブックストアで再ダウンロードするといったことはできない。これを実現するには出版社との契約を改める必要があるが、上述したように、Koboイーブックストアの事業主体はあくまでKoboであり、楽天が主体のRabooと統合するのは契約面でも一筋縄でいくものではない。
また、Rabooは「楽天ブックス」と連携しており、紙の書籍と電子書籍の価格を比較できるようになっていた。これはまだ「Koboイーブックストア」にはない機能だ。他のストアでは「紀伊國屋書店BookWeb」や「honto」が、紙の書籍も電子書籍も購入できる「ハイブリッド書店」になっており、恐らくAmazonが日本でサービスを開始する際にも同様だろう。Koboイーブックストアでこれらをどう取り込んでいくかは見守っていきたい。
CPUのGPUサポートも性能を決める重要な要素?
ここまでKoboのサービス全般を中心に見てきたが、Kobo Touchについても気になる部分を少し挙げておきたい。
Kobo Touchユーザーが本質的に気になったのは、「どうも期待したほど気持ちよく読めない」ということではないだろうか。これはタッチパネルの反応速度に起因するものもあれば、端末のベゼル部分とディスプレイ部分に段差があり、操作ボタンがベゼル部分に近いところに配置されることが多く、結果として扱いにくい部分があることなどが理由として挙げられるだろう。
また、全体的な動作についても気になっている方も少なくないだろう。ほかの電子ペーパーベースの端末と比べ、Kobo Touchがスペックでいちじるしく劣っているということはないが、海外で販売されているkobo Touchと比べて違和感を覚えた方もいるかもしれない。
ハードウェア的に、kobo Touchは海外モデルと国内モデルで違いはないが、1点だけ気になる点をここでは示しておきたい。それはCPUだ。楽天のサイトではkobo TouchのCPUはi.MX507とあるが、海外で販売されているKobo TouchはOpenVGをサポートしたi.MX508シリーズが搭載されている。それが軽快な動作に寄与するが、(それらを内蔵しない)i.MX507シリーズだとその恩恵が受けられない。
しかし一方で、EPUBファイルの扱いについては、優れているといってもよいだろう。Kobo Touchは最新のファームウェアでEPUBのレンダリングエンジンとしてACCESSの「NetFront BookReader v1.0 EPUB Edition」も搭載した。NetFront BookReaderはEPUB3で可能になった日本語組版表現を意図通り表示させるレンダリングエンジンで、日本語を正しく表示するために採用している。このファームはグローバルで適用されており、上述したように、グローバルで販売される端末にしっかりと国内向けの日本語組版ルールがサポートされている点は意義深いといえるだろう。
なお、EPUBのファイルをmicroSDに入れて端末で表示するとほぼ問題なく認識するが、そのままだと日本語の表示などに問題がある。これらを解消するには、ファイル名を.epubではなく.kepub.epubと変更すれば良い(ちなみにkepubというのはkoboがEPUBに独自拡張を加えたものと考えればよい)。恐らくこうした“おまじない”により内部的なレンダリングエンジンを変えるようになっているのだと思われる。
Amazonや出版社の方ばかり見てはいないか?
楽天がKoboの買収を発表してから、1年を待たずして日本でも端末の発売とサービスが開始された。EPUBの全面採用などによる出版社との交渉の手間などを考えれば、これは驚異的なスピードといってよいだろう。AmazonのKindleが日本へ上陸する前にユーザーを囲い込んでおきたいという意図も充分に理解できる。楽天の成功のコンセプトの1つに『スピード!!スピード!!スピード!!』があるが、あまりにも性急すぎたが故にひずみが生じた部分があったといえそうだ。
少なくともこれまで、ストアのラインアップや、アプリケーションの不備など、ユーザーに不満を抱かせる要素が目立っており、このことがユーザーに電子書籍への誤った理解を植え付けかねないことは今後に課題を残した。これは、楽天の視線がAmazonや出版社の方ばかりを向いてしまっていた証左ではないだろうか?
楽天の名前の由来である楽市・楽座は、既得権を持った商工業者を排除し自由な取引市場を目指したものだ。その視点の中心はユーザーに置くべきではないだろうか? 数々の痛烈な批判は、期待の裏返しでもあり、製品を購入したユーザーが多いということでもある。楽天が今後、こうした期待にうまく応えていいサービスを提供してくれることを期待したい。
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