スキャン代行訴訟、地裁判決に続き知財高裁も作家支持で控訴棄却の判決
知財高裁で争われていた同訴訟、書籍スキャン事業を行うには権利者の許諾が必要となる旨を明確にし、控訴棄却の判決が言い渡された。これにより、一連の訴訟は控訴審も終了となった。
浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏の7名が、“自炊”業者などとも呼ばれる書籍のスキャン代行業者に対し、作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求めていた訴訟――知的財産高等裁判所(知財高裁)は10月22日、第一審の東京地裁判決に続き、書籍スキャン事業を行うには権利者の許諾が必要となる旨を明確にし、控訴棄却の判決を言い渡した。これにより、一連の訴訟は控訴審も終了となった。
一連の裁判は今から3年前、2011年にさかのぼる。紙書籍の裁断・スキャンをユーザーに代わって行うスキャン代行業者が隆盛を極めていたころ、2011年9月に出版社7社と作家・漫画家122人はスキャン代行業者に対して質問状を送付。「著作権者が許諾していなくても依頼があればスキャン事業を行う」とした2事業者が前述の7名に提訴されたのが同年12月のことだった。このときの状況は「東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴――その意図」が詳しい。
この裁判は翌2012年、被告会社の解散と請求の認諾により原告側が“実質的”勝訴として訴えを取り下げる形であっけなく終結した。しかし、明確な判例が出たわけではなかったこともあり、その後もサービスは下火とならずにいた。
そんな中、2012年11月には新たに7事業者に対し、行為の差し止めを求める訴えが先の裁判と同じ原告により提起された。こちらは「確たる判決を求めて――作家7名がスキャン代行業者7社を提訴」で詳しく取り上げた。この裁判は2013年9月には2社に、同年10月には4社に原告の訴えを支持する第一審判決が言い渡されていた。
6社は控訴せず、あるいは原告の請求を認諾するなどしていたが、1社(ドライバレッジジャパン:サービス名「スキャポン」)のみ知的財産高等裁判所(知財高裁)に控訴していた。
今回の知財高裁の判決を受けて、原告弁護団一同は次のようにコメントしている。
本日の控訴審判決では、第一審判決と同じく、原告(控訴審では被控訴人)による差し止め請求及び損害賠償請求が、いずれも認められ、原告の全面勝訴の結論が維持されました。無許諾の書籍スキャン事業は違法であり、事業には権利者の許諾と公正なルールの遵守が必要となる旨、第一審判決に続き、知財高裁での本判決においても明確に示されたことには大きな意義があると考えます。
関連記事
- スキャン代行訴訟、業者に差し止め命令
作家7名がスキャン代行業者を著作権侵害で訴えていた裁判で、東京地裁は著作権侵害を認め、2業者に行為の差し止めと計140万円の賠償を命じた。 - 確たる判決を求めて――作家7名がスキャン代行業者7社を提訴
スキャン代行訴訟は終わっていなかった――作家7名がスキャン代行業者7社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求める提訴を提起。「無許諾でのスキャン事業が著作権侵害にあたる、との確たる判決を求めて」とあり、明確な判例を求める姿勢だ。 - スキャン代行訴訟、「実質的勝訴」として作家が訴え取り下げ
スキャン代行事業は著作権侵害行為だと作家7名が原告となってスキャン代行業者2社に行為の差し止めを求めていた訴訟は、業者が解散を選択したため、原告側が実質的勝訴として訴えを取り下げた。 - 「自炊」代行訴訟が終結 業者が廃業、作家側訴え取り下げ
自炊代行業者に対し弘兼憲史さんや東野圭吾さんら7人が差し止めを求めた訴訟は、業者が廃業したため作家側が訴えを取り下げ、終結。作家側は「実質的勝訴は当然の結果」とコメント。 - 提訴されていたスキャン代行業者が訴えを認める「認諾」を選択
スキャン代行業務が著作権侵害だとする裁判で、提訴されていた業者の1社である愛宕は、「権利の濫用」としながらも、訴えを認める「認諾」を表明した。 - スキャン×BANK、スキャン代行サービスを終了へ
スキャン代行業者で、現在著作権者から提訴されている「スキャン×BANK」は、スキャン代行サービスの中止を発表した。 - 「スキャン代行」はなぜいけない?
書籍のスキャンを代行する業者に対して、7人の作家が原告となって差し止め請求を行ったことにさまざまなコメントが飛び交っている。果たして、今回の告訴はユーザーの事情や感情を無視し、さらには電子書籍の普及に背を向けるものなのか? 福井健策弁護士に行ったインタビューから、問題の本質をあぶり出してみよう。 - スキャン代行業者提訴で作家7名はかく語りき
東野圭吾氏、弘兼憲史氏など著名な作家・漫画家7名が、スキャン代行業者2社を提訴した問題。記者会見の場で7名は何を語ったのか。紙への思い、裁断本を含めた違法コピーへの憤り、出版業界の現状や未来など、各人がそれぞれの心情を吐露した内容をまとめた。 - 東野圭吾さんら作家7名がスキャン代行業者2社を提訴――その意図
スキャン代行業者に対して著作権者がとうとうアクションを起こした――浅田次郎氏、大沢在昌氏、永井豪氏、林真理子氏、東野圭吾氏、弘兼憲史氏、武論尊氏の7名を原告とし、スキャン代行業者2社に対し原告作品の複製権を侵害しないよう行為の差し止めを求める提訴が東京地方裁判所に提起された。 - 出版社からスキャン代行業者への質問状を全文公開、潮目は変わるか
「出版社7社、作家・漫画家122人が『自炊業者』に質問状」が話題となっている。ここでは、スキャン代行業者に送付された質問状の内容と、今後の動きについて考える。 - 自炊業者の回答、86%が「スキャン事業は行わない」など
スキャン代行業者(自炊業者)に対し、出版社7社と作家・漫画家・漫画原作者などが連名で質問状を送付した件で、半数程度から回答が得られた。 - 出版社7社、作家・漫画家122人が「自炊業者」に質問状
書籍の電子化をユーザーに代わって行うスキャン代行業者(自炊業者)に対し、出版社7社と作家・漫画家・漫画原作者などが連名で質問状を発送した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.