エンタープライズ:トピックス 2002年5月24日更新

「F1での勝利はウインドリバーの勝利でもある」とウインドリバーの幹部

 ウインドリバーは5月23日に,カーインフォテイメントとテレマティクス市場の現状とその動向について紹介する「オートモーティブテレマティクスセミナー」を開催。日米欧の市場動向やウインドリバーのテレマティクス戦略,自動車業界に特化したソリューション,導入事例などを紹介した。

「実は,F1は余り詳しくない」と笑うセルゲッティ氏

 セミナーでの講演のため来日した米ウインドリバー・システムズのオートモーティブ&インダストリアルビジネスユニット担当マーケティングディレクター,マーク・セルゲッティ氏は,「自動車業界は,経済不況下にも関わらず大きな成長を遂げている。われわれも大きな期待をしている分野だ」と話す。

 ウインドリバーが自動車業界で展開するソリューションには2つの分野がある。1つがカーインフォテイメント&テレマティクスの分野であり,もう1つがボンネット下のエンジンコントロール分野だ。両分野ともに期待される市場だが,特に成長率が大きいのがカーインフォテイメント&テレマティクスの分野という

「カーインフォテイメント&テレマティクス市場は,2000年に36億ドルに過ぎないが,2005年には270億ドルにまで拡大すると予測されている。一方,エンジンコントロール分野は,2000年に177億ドルの市場が2005年に300億ドルになると予測されている」(セルゲッティ氏)

 カーインフォテイメント&テレマティクス分野が最も進んでいるのが日本および欧州で,ある調査では日本のカーナビ搭載率は約15%,2002年中には30%に達すると見込まれているという。テレマティックスとは,道路情報やニュース,天気,レストラン案内,メールなど,さまざまな情報をカーナビ画面上に表示する仕組みを提供するもの。例えば,道路交通情報をリアルタイムで提供する「VICS」サービスなどをイメージすると分かりやすい。

 米国でそれほどカーナビ製品が普及していないが,その理由についてセルゲッティ氏は,「日本や欧州は道が複雑に入り組んでおりカーナビの利用価値は高い。しかし米国では,それほど道が複雑ではないので(日本や欧州のような)カーナビに必要性が感じられないため」と言う。しかし米国では,安全性や快適性を実現するための少し違った形のテレマティックス市場が登場するだろう,と同氏は話している。

製品開発の複雑性を排除できる「Tornade for Car Infotament」

 このカーインフォテイメント&テレマティクス分野に,ウインドリバーが提供するソリューションが「Tornade for Car Infotament」だ。同製品は,次世代のカーインフォテイメント&テレマティクス製品を開発するために必要なコンポーネントやミドルウェア,開発環境をパッケージした統合開発環境。MOSTやIDB-Cなどの業界標準社内通信用プロトコルや組み込みJava,グラフィックスなどの標準技術をサポートしている。

 Tornade for Car Infotamentを利用することで,数多くの組み込み機器分野で実績を持つランタイムコンポーネントであるVxWorksをベースに複雑なアプリケーションも短期間で開発することが可能という。これは,ウインドリバーのプラットフォーム製品を利用することで,顧客企業はアプリケーションの開発に集中することができるという同社の基本的な戦略に基づくものだ。

「カーインフォテイメント&テレマティクス製品は,エアコンやカーナビ,AV製品などと,今後ますます統合されていくことになり,より複雑性を増してくる。このような複雑なアプリケーションを短期間で開発することは,各メーカーにとってリスクの分散になり,大きな競争力になる」(セルゲッティ氏)

 現在,同社とパートナー契約を結んでいる自動車メーカーは,ゼネラルモータース(GM),フォードモーター,ダイムラークライスラー,BWM,トヨタ自動車など,部品サプライヤーとしては,デンソー,ボッシュ,シーメンス,マグネティ・マレリなど,製品サプライヤーとしては,ソニー,パイオニア,アルパイン,クラリオンなどがある。

 また近く,日本国内で新たな提携および成功プロジェクトの発表も予定されているという。

 特に,イタリアの部品サプライヤーであるマグネティ・マレリとは5月14日に,自動車レースの最高峰である「フォーミュラー・ワン」(F1)のソフトウェアプラットホームを提供することで提携を発表している(5月14日の記事参照)。

 マグネティ・マレリは,エンジン制御ユニットを,ルノー,トヨタ,ザウバー,ミナルディおよび昨年のワールドチャンピオンチームであるフェラーリに供給している。同制御ユニットを利用することで,F1カーに搭載されている各種ソフトウェアを,走行中に更新することが可能という。これにより,レース中でもF1カーの信頼性を向上させることが可能になるとしている。

 この機能を市販車に応用することで,例えばリコールに値する制御ソフトウェアのバグが見つかっても,即座にソフトウェアを新しいものに交換することが可能という。これにより,ユーザーの安全が確保できるだけでなく,リコールにかかるコストも大幅に削減することができるという。

「車は,購入して10年間は利用可能だが,その車に搭載されているソフトウェアの寿命は2〜3年程度しかない。ソフトウェアの更新作業は確実に必要であり,この作業をわれわれの技術は最大限に効率化できる」(セルゲッティ氏)

 今後は,車内および車内と外部をつなぐネットワーク機能の強化および標準化,デバイスの管理機能,セキュリティの強化などを行っていく計画という。中でも,Java技術に対する各メーカーの期待は大きく,同氏は,重要な技術になると話している。

「(われわれの技術はユーザーの製品の中に組み込まれているので)ユーザーの成功は,ウインドリバーの成功と言い換えることもできる」(セルゲッティ氏)

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[山下竜大 ,ITmedia]