エンタープライズ:ニュース 2003/01/22 11:03:00 更新


基調講演:アプリ業界激震?「TCO削減を保証する」とオラクルのエリソンCEO

サンディエゴで開催中の「Oracle AppsWorld 2003」にオラクルの総帥、ラリー・エリソンCEOが登場した。エリソン氏は、これまで事前の算出が困難だった実装や運用保守のコストを提示し、TCOをギャランティーできる唯一のベンダーだと言い切る。「神のお告げ」は、アプリケーション業界の地殻変動を引き起こすのか。

 オラクルの総帥、ラリー・エリソンCEOが1月21日、カリフォルニア州サンディエゴで開催中の「Oracle AppsWorld 2003」カンファレンスに姿を現し、聴衆を驚かせた。アメリカズ・カップ挑戦艇の座を賭けてルイヴィトン・カップを争うエリソン氏は、昨秋のOracleWorld 2002 San Franciscoと同様、ニュージーランドからのサテライト中継で基調講演を行う予定だったからだ。

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言葉は控えめだが業界激震を予感させるエリソンCEOのメッセージ


 敗退によって前倒しでニュージーランドを飛び立ち、サンディエゴ・コンベンションセンターのステージに登場したエリソン氏は、Oracle9iやJavaを基盤として構築されているE-Business Suite 11iが、モダンかつ統合されたアプリケーションスイートであることを強調した。ただ、夏の南太平洋で太陽と潮風に当たったせいだろうか、いつもの歯に衣着せぬ、するどい舌鋒も影を潜めている。

 それでも、SAP、ピープルソフト、シーベル・システムズといったアプリケーション分野の競合ベンダーに話が及ぶと、若干だがエンジンがかかった。

 E-Business Suite(EBS)11iは、オープンスタンダードのJavaを採用し、ISVやユーザーが機能を拡張する際にはそれをやりやすくしている。

「SAPは相変わらず100%独自のABAP4でカスタマイズしなければならない。ABAP4でキャリアを積みたい技術者なんていない」とエリソン氏。

 またかつては、「世界でハンバーガーが何個売れたのか分からない」と皮肉ってバーガーキングの怒りを買ったエリソン氏は、それ以降、「CEOでさえ、オラクルで何人働いているのか分からなかった」と自嘲することにしている。多くの大企業がそうであるように、オラクルも世界各地の拠点に人事部門があり、97の人事システムを稼動させていたからだ。

「たくさんのシステムに多くのコストをかけたうえで、簡単な質問の答えも分からないなんて……」(エリソン氏)

 現在はEBSによって北米、欧州、豪州という3つのデータセンターに集約されているが、「理想は単一のグローバルデータベース」と彼は言う。

 CRMのパイオニア、シーベルに対しても、言葉遣いこそいつもより控えめだが、浴びせるメッセージは手厳しい。

「シーベルは、顧客に関する360度すべての情報を活用できるCRMを提供するというが、彼らには無理だ。私は請求書を発行することは重要だと思うが、シーベルの製品はそれをカバーしていないからだ。お金の流れが把握できない360度なんて意味がない」(エリソン氏)

 マーケティング、Webストア、顧客サービス、財務……、それぞれ優れたアプリケーションを導入する手もあるが、「情報を1カ所にまとめて初めて顧客に関する360度のビューが見られるようになり、さらにコストも節約できる」とエリソン氏。

TCOを提示するAll-In-Oneコミットメント

 AppsWorldカンファレンスの初日、オラクルでマーケティングを統括するマーク・ジャービスCMO(チーフマーケティングオフィサー)が、「Oracle All-In-One」プログラムの概要を話している。きょう21日には、その正式なリリースが出され、具体的な内容も明らかになった。

 Oracle All-In-Oneは、ソフトウェアの価格だけでなく、実装やその後の運用保守に至るコストも提示し、顧客がTCO(総所有コスト)を事前に把握できるようにするオラクルのコミットメントだ。

 エリソン氏は「ERPを導入するとき、正確なコストを出せないなんて考えてみれば不思議な話だ。幾らかかるのか買う前に分からない業界なんてほかにない。クルマをそんな方法では買わない」と話し、聴衆を沸かせた。

 確かに、ソフトウェアの価格はベンダー間で比較できるが、実装したり、配備したり、その後運用保守していく日々のコストは事前に算出することが難しい。それは隠しているのではなく、分からないのだ。

 エリソン氏は、聴衆を前に「われわれはTCOをギャランティーできる唯一のベンダー」と言い切った。「ひな型をつくり、予測性を高めることでそれは可能だ」とし、単に大風呂敷を広げたわけではないことを強調する。

 1996年、東京でNetwork Computer構想を自慢げにぶち上げたエリソン氏。Network Computerが企業や家庭に受け入れられることはなかったが、Webブラウザをインタフェースとするインターネットコンピューティングはその後の潮流となった。再び「神のお告げ」がエンタープライズアプリケーション業界の地殻変動を引き起こすのか。

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[浅井英二,ITmedia]