エンタープライズ:インタビュー 2003/07/09 20:38:00 更新


Interview:「存亡の危機に追い込まれれば反撃するしかない」とSCOのマクブライドCEO (1/2)

すっかり悪役のイメージが出来上がったSCOのマクブライドCEOが、日本のコンピュータメーカーとの話し合いのために来日した。UNIX技術がLinuxに不正移植されないよう理解を求めるのが狙いだという。

 今、IT業界随一の「ヒール」(悪役)といえば、SCO Groupに違いない。7月9日、そのSCOの社長兼CEO、ダール・マクブライド氏自身が日本の大手コンピュータメーカーとの直談判のために乗り込んできた。

 同社は3月、ビッグブルーを相手取り、30億ドルの損害賠償を請求する訴訟を起こしただけでなく、5月には世界1500社の企業に対し、同社の著作権を侵害しているLinuxを利用することも、米国の著作権法においては損害賠償の責めを負う旨の書簡を送った。彼らはこれで、Linuxコミュニティーまで敵に回した。SCOは次々と戦線を拡大して手当たりしだいに訴訟に持ち込み、不振のUNIXビジネスを補おうとしている──、こうした見方が彼らを悪役に仕立て上げているのだ。

 しかし、マクブライド氏によれば、当初、SCOはUNIXの派生製品(UNIXをベースに大手コンピュータメーカーらが開発したUNIX製品)の技術が不正にLinuxに移植されていることを問題視し、同社の知的所有権を守ろうとしたに過ぎなかったという。昨年12月から今年1月にかけて、SCOは話し合いによって問題の解決を図ろうとしたのだが、ただ1社だけが強い拒絶反応を示してきた。それがIBMだったという。

 マクブライド氏によれば、IBMは「手を引かなければ、SCOとの取引は打ち切るし、ほかの会社にもそうするように話をする」と圧力をかけてきたという。まるで巨像とアリのように比較にならない両社だが、「コーナーに追い詰められたわれわれは、反撃に出るしかなかった」とマクブライド氏。

 SCOは、IBMがAIXのコードをLinux 2.5に不正移植したとして、IBMを契約違反で訴えたほか、拡張されたLinuxのスケーラビリティ機能などを利用する大手ユーザー企業に対しても、既に触れた書簡を送るに至った。

 マクブライド氏は、「Linuxコミュニティーからの攻撃は、それはひどいものだ」と打ち明ける。

 「自宅の住所(地図付き!)や電話番号が、インターネットで公開された。午前2時に電話のベルが鳴ることもあり、中には決闘を申し出る者までいた。証拠を見せてくれれば修正する、という人もいるが、その程度の不正使用ではない。コピーライトの記述の部分だけを削除しただけでコピー&ペーストされた箇所まで含め、それは膨大だ。直接かつ疑いの余地のない侵害だ」(マクブライド氏)

 しかし、その一方で彼は「Linuxがこの問題を解決してさらに前進できるようにしたいと願っている」と話す。都内でパートナーやプレス向けにブリーフィングを行ったマクブライドCEOに話を聞いた。

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すっかりヒールのイメージが……


ZDNet ITバブルが消失し、SCO(旧Caldera)は問題を抱えていたと思います。なぜ、SCOのCEOを引き受け、敢えて火中の栗を拾おうとしたのでしょうか?

マクブライド 私は1988年から1996年までの8年間、ノベルで働きました。ノベルK.K.の立ち上げに携わったあと、米国本社に戻り、レイ・ノーダ(ノベル創業者で当時CEO)を補佐する立場にあった1993年のことでした。彼から、Microsoft(Windows NT)に対抗する旗印とするため、当時UNIXを所有していたUNIX Systems Laboratories(USL)を買収することを相談されました。富士通、NEC、日立製作所、東芝といった日本の大手ベンダーがどのような反応を示すのかを私に聞きたかったのでしょう。彼らはUSLの株主でもあったのです。

 結局、ノベルは1995年、当時のSCOに対してUNIXの知的所有権とUnixWareを売却してしまったのですが、そのバリューを私は十分に理解していました。

 1996年にノベルを去ったあと、幾つかの会社に経営陣として迎えられたり、新興企業(marchFIRSTやScientを買収したことで知られるプロフェッショナルサービスプロバイダーのSBI)を立ち上げたりしましたが、私は事業の規模を大きくすることにとても魅力を感じています。SCOのボードからオファーがあったとき、新興企業ではないのですが、そのポテンシャルは桁違いに大きいと思いました。

 何しろ、200万台以上のインストールベースがあるほか、6000以上の大手企業にUNIXのソースコードをライセンスしています。ここまで新興企業が到達するのはたいへんです。にもかかわらず、市場はSCOを過小評価し、売り上げもLinuxの勢いに押されて減少していました。私は、SCOが所有する資産を最大限に活用すれば、経営を立て直せると考えたのです。

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[聞き手:浅井英二,ITmedia]