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2004/05/27 17:51 更新


Ciscoの大規模ルータ「CRS-1」にキャリアの反応は……?

Ciscoが発表した大規模ルータ「CRS-1」をテストしているキャリア各社が、ネットワークアプリケーションの将来とそれに向けた自社の戦略の一端を披露した。

 Cisco Systemsは5月25日、「歴史」という道具立てを背景に、同社にとって最大のルータを発表した。一方、この新ルータをテストしているキャリア各社は、ネットワークアプリケーションの将来とそれに向けた自社の戦略の一端を示した。

 カリフォルニア州マウンテンビューにあるコンピュータ歴史博物館で開催された半日のイベントの開会式で、Ciscoのジョン・チェンバース社長兼CEOは、報道関係者やアナリストを含む参加者の前で、「IT業界は将来のニーズをしばしば過小評価してきた」と述べた。チェンバース氏によると、Ciscoが前回、自社の最上位ルータ「12000シリーズ」を1997年に投入したときの販売見込みは1000台程度だった。しかし同社はこれまでに2万5000台を売り上げたという。

 ネットワーキング分野の巨人Ciscoは今回、これから何が登場するかについて同社は明確な見通しを持っており、キャリア各社にその準備を促すことができると考えているようだ。チェンバース氏およびマイク・ボルピ上級副社長兼ゼネラルマネジャーが5月25日に儀式的に披露したプラットフォームは「Carrier Routing System(CRS-1)」と呼ばれる。同社によると、CRS-1はスケーラビリティと運用を中断せずにアップグレードする機能が特徴で、少なくとも10年間は運用可能だとしている。

 「いったん配備したら、10〜20年は動かさなくても済むようにしたい」とチェンバース氏。

 1台のCRS-1ラックに16基のスロットが装備され、1.2Tbps(Tビット/秒)のトラフィックを処理することができるが、これらのラックを組み合わせることにより、遥かに巨大なシステムを構築できる。最大で72台のネットワークインタフェースラックと8台の専用シャーシを使ってこれらのボックスを相互接続して、一つの仮想システムを実現することが可能。

 新システムの最大のセールスポイントがスピードで、40GbpsのWAN(Wide Area Network)インタフェースを搭載する。CiscoがMCIと共同で実施したデモでは、このインタフェースを使って高解像度ビデオを送信しながら、同時に数千セッションのゲーム、音楽のダウンロード、ビデオ・オンデマンド、Webブラウジング、ビデオ電話のシミュレーションが行われた。

 新プラットフォームをテスト中の通信事業者もイベントに参加した。これらのキャリアの関心事は将来の帯域幅のニーズだ。カンザス州オーバーランドのキャリアSprintでネットワークサービスを担当するキャシー・ウォーカー執行副社長によると、同社がケーブル各社に提供しているワイヤレスモバイルサービスとIP電話サービスが最も急速に成長しているという。

 MCIの場合は、世界各地で同社の企業向けMPLS VPN(Multiprotocol Label Switching Virtual Private Network)サービスで帯域の利用が拡大している。一方、日本のNTTコミュニケーションズでは、ピアツーピア型ファイル共有が急速に帯域消費を増やしているという。

 Deutsche TelekomのT-Com有線ネットワーク部門の技術責任者を務めるボルフガング・シュミッツ上級執行副社長によると、ストリーミング型マルチメディアサービスが大型ルータの需要を促進するという。

 しかしボルピ氏によると、より優先順位が高い要素が信頼性であり、Ciscoの新システムでもこの要求にこたえるためにモジュラーデザインを採用し、ルータのサービスを中断することなく処理能力や新サービスを追加できるようになっているという。「長い実績を持つ従来の通信用交換機の安定性とデータスイッチのパフォーマンスを兼ね備えたルータを構築するために、Ciscoは二つの世界を橋渡しする必要があった」とボルピー氏は話す。

 「従来、われわれの業界は、デバイスの開発において極めてPC志向のアプローチを採用してきた。顧客が古いデバイスを引退させて、新しいものに入れ替えるだろうという想定の下、2〜3年ごとに新しいデバイスを開発してきた」とボルピ氏。しかしCiscoは、キャリア向け機器業界から学ぶべき教訓があると判断したという。

 「二つの世界を結び付けるのは容易ではなかった」(ボルピ氏)

 CRS-1は将来的に、「仮想ルータ」を実行することによって数種類のルータの仕事をすることができるようになる。MCIでネットワークアーキテクチャと先端技術を担当するジャック・ウィンマー副社長によると、仮想ルータ機能はキャリアのコストを削減し、キャリアのネットワークの管理を容易にする可能性があるという。

 例えば、MCIが今日運用している主要なネットワークセンターでは、顧客と接続している社外向けルータは、同社のほかのネットワークセンターと接続している社内向けルータとは異なるボックスでなければならない。だが、両方の機能を復元性に優れた1台のシステムで実行できれば、高い信頼性と容易な管理が実現されるだけでなく、MCIのコストの節約にもつながる、とウィンマー氏は話す。

 Sprintのウォーカー氏は、既に同社はCRS-1をカリフォルニア州サンノゼで運用中の自社ネットワークに配備したと発表した。新サービスの追加に伴ってSprintのネットワークが必然的に複雑化する中、この新プラットフォームで同社のネットワークを多少なりとも簡素化したいと同氏は考えている。

 キャリア各社は将来を見据えようとしているが、T-Comのシュミッツ氏によると、将来を予測するのは依然として難しいという。T-Comは数年前、同社の予想を上回る勢いで帯域幅の需要が増加したために、ネットワークのアップグレードを余儀なくされた。

 「こんな市場は経験したことがなく、予測は当てにならない。市場がどう発展するかについて理解を深める必要がある」とシュミッツ氏は話す。

 MCIのウィンマー氏によると、インターネットバブルと通信不況の前と比べると、今日は、キャリア同士の統合、景気回復の勢い、広範な新サービスなど多くの可変要素が存在するという。

 「今から2〜3年後にネットワークがどんなふうになっているのか予測するのは難しい」(ウィンマー氏)