郵政公社の新規採用は「SaaS新時代」を告げるか
日本でも民間企業だけでなく公的機関に採用されたことで、「SaaS(Software as a Service)」を巡る動きが、一段とめまぐるしくなってきた。なぜ、いまSaaSが注目を集めているのか?
「これからはSaaSが企業における業務ソフトの利用形態のスタンダードになっていく」。SaaSによって提供されるCRMソフトが大ヒットし、ここ数年急成長を遂げている米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEOは4月19日、来日記者会見でこう強調した。
同社はこのほどNTTデータを通じて日本郵政公社からも新規商談を獲得。その発表会見を自ら行ったベニオフCEOは、「当社として日本で最大の顧客を獲得することができた。これを契機に日本市場でもさらなる事業拡大に弾みをつけたい」と力を込めた。と同時にこの発表は、SaaSの仕組みが日本でも民間企業だけでなく公的機関に採用されたことで、本格的なSaaS時代の到来を印象づけるものとなった。
なぜ、ここにきてSaaSが俄然注目を集めているのか。その特徴をあらためて少し説明しておこう。SaaSとは、ソフトの提供をサービスととらえ、サービスを利用するのと同じ料金体系でベンダーがソフトを提供する仕組みのことで、具体的にはインターネットのブラウザを通じて、さまざまな業務ソフトがベンダーから契約企業のユーザーに提供される。
ユーザーにとっての最大のメリットは、対象となるソフトの必要な機能のみを必要なときに利用でき、利用する機能に応じた分だけの料金を支払えばよい点だ。これまでのパッケージベースなどのソフトは、あらゆるユーザーにとって必要な機能をすべて盛り込み、すべてのユーザーに同じ機能を提供する形だった。
しかしそれでは、ユーザーによってはあまり必要のない機能が多く搭載された冗長なものにもかかわらず、必要のない機能に対しても料金を支払っている格好となる。そこで、個々のユーザーが本当に必要な機能のみをオンデマンドに利用でき、その機能に対してのみ料金を支払う形にしたのがSaaSというわけだ。
これにより、企業にとってもソフトにおける導入コストや管理コストの大幅な削減を図ることができる。しかもすでにサービスの仕組みが出来上がっているので短期間で導入することができる。実際、先に紹介した日本郵政公社のケースでも、コスト競争力と短期間での導入が可能なことが、SaaSを基盤とした新サービス採用の決め手になったようだ。
(「月刊アイティセレクト」2007年7月号のトレンドフォーカス「急成長のSaaS市場、大手参入で一大激戦区に」より)
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