息を吹き返す福岡と屋久島 ホームページ刷新が呼び水に:観光客を呼び戻せ(2/2 ページ)
情報発信のノウハウが不足している地方公共団体が観光客を呼び込むのは難しい。福岡市と屋久島町は、ホームページを刷新するというシンプルな方法で、観光客の呼び戻しに成功した。
鹿児島県の屋久島は年間30万人を集める世界遺産だ。観光客のさらなる呼び込みを課題に上げていたが、情報の発信源であるホームページのアクセス数は伸び悩んでいた。
2007年10月に隣接する島にあった上屋久町と屋久町が合併して、屋久島町ができた。それに伴い、それぞれの町が開設していたホームページを統合する必要が出てきた。
屋久島はIT基盤の整備を進めており、専用線の敷設に数億円を投資するなどてこ入れを図ってきた。だがADSLの普及率は全世帯の3割に満たない。観光産業に当てられる予算も限られており、「ホームページはできるだけ安く作りたかった」(屋久島町の日高典孝副町長)。
屋久島のIT化が100万円で
そのような中、屋久島町は3月に刷新したホームページを公開した。CMSの「NetCommons」を利用し、防災無線情報の配信や休日当番医、フェリーの運航情報などをリアルタイムで配信している。英語版Webサイトや携帯電話版のWebサイトも開設するなど、多岐にわたる情報配信を進めている。
リニューアルの効果はすぐに現れた。刷新前は数年間で約11万のアクセス数だったが、刷新後2カ月強で約12万のアクセス数を稼いだ。手軽にコンテンツを増やせるため、更新数が上がったことが奏功した。「更新頻度の高いサイトにユーザーは集まる」(国立情報学研究所社会共有知センターの新井紀子氏)からだ。Googleで「屋久島町」と調べると、検索結果の最初に表示されるといった二次効果も生まれた。
ホームページの構築に用いたNetCommonsは、国立情報学研究所のオープンソースソフトウェア(OSS)だ。「ワープロとデジカメがあれば誰でもWebページを更新できる」(新井氏)といった手軽さが採用の決め手となった。
OSSのためライセンス料が必要ないことも成功要因の1つだった。NetCommonsの導入コストは約100万円で、年間の維持費も同額程度。ほかのCMSツールで掛かる「数千万円規模」(日高氏)のコスト支出を回避できた。
「PCではワープロ機能くらいしか使わなかったわたしでもホームページが作れた」と日高氏は笑う。これまでは専門の担当者のみがページの更新をしていたが、「近いうちに220名の職員の7割がページを更新できるようにする」。
ホームページは地方公共団体の情報発信の土台であり、集客の生命線でもある。だが、人材難の中、限られた予算で観光産業を展開している地方公共団体にとって、どうすれば観光客を呼び込めるかについて、正解を導き出すのは難しい。
紹介した2つの地方公共団体は、ホームページの刷新という方法で観光客を呼び込み、息を吹き返した。ユーザーが必要とする情報を提供し、誰もがページを構築できるような環境を整える――といったシンプルな取り組みを積み重ねることが、観光客の呼び戻しに寄与するといえそうだ。
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