クラウドコンピューティングに見るERPの将来像:SaaSには限界あり(3/3 ページ)
パッケージアプリケーション全体に大きな影響を与えるトピックの中で特にこの2008年後半に大きな動きがあると予測されるのは「SaaS」だ。SaaSには限界もあるため、それをカバーするクラウドコンピューティングやPaaSにも注目が集まる。
SaaSの限界を超えるPaaS
これがアプリケーションをインターネット経由で提供するという意味でのSaaSの限界点である。この限界を突破するための手段が「PaaS」であり、「クラウドコンピューティング」という考え方である。
SaaSが提供するのはアプリケーション層までである。それに対してPaaSはアプリケーションを開発、運用するためのミドルウェアや開発環境といった低位のレベルまでインターネット経由で提供する。クラウドコンピューティングにはさまざまな定義があるが、ここでは「インターネット上で仮想的に提供されるハードウェア、ミドルウェア、ソフトウェア、開発環境までを含む広範なコンピューティングリソースを土台として、自身が必要とする情報システムを構築、運用すること」を指す。
つまり、PaaSはユーザーがクラウドコンピューティングを実現するためのサービスということができる。PaaS上で自社独自のカスタマイズモジュールを開発し、それを標準提供されたERPモジュールと安全に連携させることができれば、カスタマイズという問題もネット上で(クラウド内で)解決することができる。
こうしたクラウドコンピューティングは既に実用の段階に達している。実際、Salesforce.comはCRMのSaaSだけでなく、Force.comというPaaSを提供している。英国のベンチャー企業CODAはこのForce.com上で「CODA2go」という会計アプリケーションを開発し、サービスを提供している。つまり、PaaSのアプリケーション開発、運用基盤の品質は自社サービスを構築、運用できるレベルにまで既に到達しているのである。
日本固有のERP導入形態がクラウドコンピューティングで生きる
このように考えると、ERPの将来像はPaaSに代表されるクラウドコンピューティングと密接に関係している。本連載の初回に述べたように、日本におけるERP導入はオフコンからのリプレースをモジュール単位で徐々に進めてきたという流れがある。それゆえにマスターデータが散在し、データ重複や全社視点で見た場合の業務フロー整合性不一致といったさまざまな問題を生み出してきた。
しかし、クラウドコンピューティングはもともとAmazon.comやGoogleといった世界規模で分散したシステムを支える仕組みを土台として発展してきたといういきさつがある。クラウドコンピューティングを意図して開発されたプラットフォームは分散したプロセスやデータの扱いが得意であるという傾向がある。社内に散在したマスターデータをそれぞれPaaS上で運用して互いに同期させれば、マスターデータの分散配置が行えることになり、BCPの観点からは効果的なリスク分散ができていることになる。
このようにクラウドコンピューティングのアプローチは日本のERP運用の現状を「足かせ」から「強み」へと塗り替える可能性を秘めているということができるだろう。
8回にわたって日本の中堅中小企業におけるERP導入、活用の実情を俯瞰してきた。最終回である今回はERPの近未来の姿を描いてみたが、この将来像は決して空想の域に留まるものではない。日本固有の導入いきさつを踏まえ、中堅・中小企業独特の運用状況に即した新しいERPが早く登場してくることを願ってやまない。本連載がわずかながらでもその一助となれば幸いである。
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