暗雲漂う国内IT投資の行方:Weekly Memo(2/2 ページ)
世界的な景気減速の影響を受け、国内でも企業による設備投資への慎重姿勢が強まりつつある中、堅調とみられていたIT投資の伸びにも暗雲が漂い始めてきたようだ。
今夏からIT投資意欲鈍は鈍化している?
これまで2008年度の国内IT投資は、堅調に推移するとみられていた。IT専門調査会社のIDC Japanが6月中旬に発表した2008年の国内IT投資予測でも前年比2.6%増としていた。
同社はその要因について、「米国の景気減速や原油高、円高、原材料の高騰などを受け、国内の経済も減速傾向にあるものの、コンプライアンスや内部統制対策を進めるうえで業務プロセスやユーザー部門の課題が明確になり、解決に向けてIT投資をする企業が増えつつある」からだと分析していた。
加えて、2008年は堅調に推移するものの、2009年以降はハードウェアの低価格化や運用コストの見直しなどが進み、IT投資は鈍りそうだと予測している。
しかし、内閣府の機械受注統計や日経パソコンの情報化実態調査をみると、企業のIT投資意欲は景気の後退感を受けて、すでに今夏あたりから鈍化している可能性がある。
2008年度も半分が終わろうとしている今、ITベンダーはそうした傾向を踏まえたうえで、これまでにも増して顧客ニーズをとらえた提案を行っていく必要がありそうだ。
大塚商会が2008年度の中間決算を発表した8月1日、大塚裕司社長は国内IT市場の今後の見通しについてこう語った。
「原油高や原材料高、米国の景気後退による輸出の減少などで、国内景気の下振れリスクが高まっている。だが、ITを活用した経営改革のニーズは底堅いものがある。楽観視はできないものの、内部統制やセキュリティ強化、システム基盤の見直しなど、IT分野にはまだまだ追い風が吹いている」
国内景気については、今秋に政治が大きく動きそうなこともあり、どのような状況になるか読みづらいところがある。ただ、大塚社長が言う通り、たとえ景気の後退感があるとしても、企業にとって必要なIT投資は避けて通れない。そこをどう説得できるか。ITベンダーの腕の見せどころだろう。
プロフィール
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
関連記事
- 「IT投資」最新記事一覧
- SaaSを使わない理由――IT投資調査から
矢野経済研究所は、国内のユーザー企業565社を対象にアンケートを実施し、IT投資に関する動向を取りまとめた。 - 国内IT投資の今後、「大企業よりSMBで高い成長率を維持」
2008年〜2012年における国内のIT投資は、大企業では成長が伸び悩むが、中堅中小企業では堅調に成長する。IDC Japan調べ。 - 08年の国内IT投資は増加 09年以降は鈍化傾向に
環境コンプライアンスや内部統制、NGNへの対応を受け、2008年の国内IT投資は堅調に伸びるが、2009年以降は投資が鈍るとIDC Japanは予測する。 - 中堅中小企業のIT投資意欲、43%が「増やす」と回答
IDC Japanが国内の中堅・中小企業に関する調査結果を発表した。 - IT投資効果の迷信に惑わされる経営トップ
企業でIT導入が進まない原因の1つに、IT投資に対する経営トップのためらいがある。なぜ踏み出さないのか? 実はIT投資効果に対する身勝手な思い込みが背景にあるという。 - IT投資、資金不足を口実にする前に知恵を出そう
とにかく多額の費用が発生するという恐怖感から、IT投資をためらう経営者はまだまだ多い。投資した上にシステムが失敗作だった、という他社の事例などを聞けばなおさら足がすくむ。しかし何ごとも知恵と正しい方法論で乗り切れるものなのだ。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.